「一刀両断ってヤツよ。おめえらにも見せてやりたかったぜ」
兵士長は朝から上機嫌だった。
ファシア兵を5人引き連れ「巡回」と称して市街地をまわるのが彼の日課だ。
だが、それも目についたギサリオ人を痛めつけるための口上に過ぎない。
腰に提げた金属製の容器からは強い酒の匂いがした。
「クズどもが調子に乗りやがって。今日も自分たちの立場を思い知らせてやらねえとな」
ウォランドを斬った剣の柄頭に手を置くと、兵士長はいびつな笑みを浮かべた。
「兵士長。どうせなら若い女を殺りましょうよ。野郎を斬ってもつまらねえ」
下卑た笑いがこだました。
フィデア皇国の駐屯兵たちにとって、属国となったギサリオ公国の民は同じ人間ではない。
たとえ殺しても不問。
罰則すら設けられていなかった。
フィデア兵を率いているゾルオネ枢機卿もまた、ギサリオ公国の人々を家畜以下の存在と考えているからだ。
彼らはいつも通り、石造りの門をくぐって市街地へと向かう。
しかし兵士たちが門を潜ろうとしたその時、異変はおきた。
頭上から熱した油が降り注いだのだ。
兵士長を含めた3人が同時に絶叫をあげる。
落ちてきた金属製の大鍋が地面に当たり、がらん、と大きな音を立てて転がった。
残った兵士が見上げると、門の上には白いドレスを来た赤髪の女が立っていた。
体つきからしてまだ子どもだろう。
表情はなく、一言も発せずにのたうち回る兵士長を見下ろしていた。
「きっ、貴様がやったのか! 我々が誰だかわかっているのか!?」
槍の穂先を向けて兵士が叫ぶ。
赤髪の女は答えず、火の点いた松明を投げ込んだ。
3人の兵士はたちまち火だるまになった。
「ぐおおおお! 女ぁ……許さん! そこから降りてこい!」
炎に巻かれながら兵士長は叫ぶ。
全身を怒りで震わせ、剣の柄に手をかけた。
同時に、赤髪の女が門の上から跳躍する。
手に持ったナイフに全体重をかけ、兵士長に向かって飛び込んだ。
予想外の行動に、歴戦の兵士長も呆気にとられた。
ナイフの刃先が首の付け根に滑り込み、鎖骨を断ち切る。
「ぐううう、きっ貴様ぁ……!」
両手で首を押さえた兵士長は、仰向けに倒れ込み、うめく。
赤髪の女は落下の衝撃も意に介さず、何度もナイフを振り下ろした。
その頬が返り血で染まる。
彼女はまだ一言も発していなかった。
兵士長から燃え移った炎がドレスの裾を焼いても、まるで何も感じていないかのようだ。
圧倒された兵士はその場にへたり込み、地獄のような光景を前に震えることしかできなかった。
兵士長の巨体が痙攣し、口からはごぼごぼと鮮血が溢れ出る。
苦痛に顔を歪めながら、彼は絶命していた。
ゆっくりと立ち上がった血染めの少女の周囲に、空から強い光が差した。
厳かで、力強い光。
天から降り注ぐ戦神の祝福。
炎と血溜まりの中で、パルゼアは聖女となった。
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コメント
凄惨ですね・・・
パルゼアさん聖女になる前から強い。
お父さんが殺されたことによって感情を失ったのが逆によかったのかな。
門から飛び降りて全体重アタックは勇気がありすぎるw
自暴自棄になっていた部分もあると思います。
兵士長さえ殺せたら他の兵隊に殺されても良い、という覚悟で臨んだのですが天啓を受けたことで生き延びることができました。
恐怖は感じていなかったので全部思い切りの良い攻撃になった形ですね。
フィデア兵がクズすぎる。交易が盛んだったころから高圧的だったんでしょうね。
自分たちが上、文化における上流にいるという気持ちがあったんです。
天啓を受けた
↓
残った兵隊を処刑
↓
vs駐屯地の兵隊の流れか。
聖女単独でも普通の兵隊なら百人ぐらい殺せそう。
そうなります!
普通の兵士だと槍や弓などで応戦することになりますが、その手の通常兵器は全部念動防御で防げます。
でも聖女の攻撃は普通の兵士には防ぎようがないので、法力が尽きるまで一方的に倒せる形です。