ギサリオ公国の駐屯地、壊滅――
フィデア城の自室でくつろぐゾルオネ枢機卿の元に、不穏な知らせが届いた。
持っていたグラスを机に置くと、訝しげに顎を触る。
ゾルオネが率いた魔導巨兵によって、ギサリオ公国の軍隊はほぼ無力化されたはずだった。
「生き残った兵の話では、赤い髪の女が次々に兵たちを殺していったと……」
ゾルオネは眉間にしわを寄せて小さくため息をついた。
赤い髪、そして女ということはギサリオ公国に生まれた聖女に違いない。
獣魔を滅ぼすための力とされている念動力を使って、フィデア兵たちに復讐したのだろう。
「敵は何人なのだ」
「それが……。報告ではひとりだそうです」
ゾルオネは目を見開いた。
駐屯地には100名以上の兵と、中型の魔導巨兵が配置されている。
いかに聖女が超常の力を持つとしても、簡単に制圧できる戦力ではない。
――にわかには信じられん。だが、十分に警戒せねばならんな。
ゾルオネはフィデア城への兵の配備と、魔導巨兵の整備を配下に言い渡した。
常備されている兵員や兵器数だけでも、小さな国なら1日で滅ぼせるほどの軍事力である。
しかし、結果として彼の備えは十分と言えなかった。
3日と経たずにフィデア城は炎に包まれていた。
迎撃用に配備された大型の魔導巨兵が2機とも爆破され、あたりに悲鳴が飛び交う。
強襲した聖女はひとりではなかった。
駐屯地を壊滅させ、ギサリオ公国を解放に導いた赤髪の聖女のうわさは大陸内を駆け巡り、賛同した聖女が続々と集まっていたのだ。
10名の聖女たちはパルゼアの元で大いに力を発揮した。
その中にはロズタロトのようにフィデア出身の者までいた。
ゾルオネ枢機卿は謁見の間でパルゼアと対峙していた。
黒い鎧を身にまとい、赤い髪をなびかせながらゆっくりと歩いてくる。
目元は金属製のバイザーで隠されている。
そのたたずまいは、まだあどけない少女のものだった。
「お前がゾルオネか」
立ち止まったパルゼアが無感情に言う。
その抑揚のない声を聞いた瞬間、ゾルオネの胸中に憎悪が噴き出した。
――わしに向かって、お前が、だと? 薄汚いギサリオ人の小娘が!
奥歯を噛み締めながら、ゾルオネは少女を睨みつける。
だが、凄むことしかできなかった。
彼を守る近衛兵たちは玉座の周りですでにこと切れていた。
「うっ!?」
突如、ゾルオネの体が重くなる。
冷たい石床にゆっくりと膝をつく。
体はひとりでに折りたたまれ、うずくまるような姿になった。
全身で立ち上がろうとするが、びくともしない。
額と手のひらも地面についた。
その姿は、まるで謝罪しているかのようだった。
――これが念動力か……くっ まったく動かん!
ゾルオネは地面に頭をこすりつけながら、恥辱に耐えていた。
その後頭部に硬い感触があった。
先端が尖っている。
パルゼアが履いている靴のヒールだ。
意図せず、ゾルオネの喉の奥から空気が漏れた。
気が狂うほどの怒り。
それでも彼の体は動かなかった。
「私は国の統治になど興味はない。このあたりは引き続きお前が統治しろ」
頭を踏みつけたまま、パルゼアはゾルオネの後頭部に語りかけた。
「お前には我がリガレア帝国の臣民として働いてもらう」
魔導巨兵をはじめとした圧倒的な軍事力。
大陸内における、文化の発信地としての矜持。
実質的な支配者として君臨していたゾルオネは、万能感に酔いしれていた。
しかし、栄華を極めるはずだったフィデア皇国はパルゼア率いる聖女たちによって帝国の一部となった。
――殺す! いつかきっとこの恨みを晴らす。ばらばらに引き裂いてやるぞ小娘が!
血涙を流しながらゾルオネは誓った。
燃え盛るフィデア城が炎の中で音を立てて崩れていった。
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コメント
ゾルオネが羨ましい。我々の業界ではご褒美です。
冗談はさておきパルゼアは戦闘時にもヒールを履いているんですね。
戦いにくくないのかと思いましたが大半は空を飛んでいるからいいのか。
リガレウムで作られたカッタいヒールです!
実際ふんづけられたら相当痛そうですけど笑
空中を浮いていることがほとんどなので、基本的に聖女のみなさんは好きな格好してます。
土下座させられるゾルオネくん。
見た目の描写がほとんどないので立ち絵も欲しいです。
10人で国を滅ぼせると考えたら聖女って恐ろしい存在です。
屈辱の土下座…
立ち絵、作ってみます!
フィデアも小国ですし、聖女って空も飛べて弾丸とかも念動力で弾けますから。
パルゼア
ロズタロト
ゼルロズ
は決定としてあと七人が気になります。
建国時の初期メンバーですね!
あとはオーゾレス。
他はそのうち明らかになる…はず笑
こうゆうのはいろいろと決めてから書いてるのですか?
自分はノリで書いていくタイプなので気になりました。
割とノリかもしれません笑
大筋は決めてるんですけどね。
はたして頭を踏みつける必要はあったのか・・?
うーん、ないんですがちょっとパルゼアも感情的になっていたのかも。
力の差をはっきり見せつける意味もあります。
聖女の機動性と攻撃力の前には無力だった魔導巨兵は、並の獣魔に対してなら有効な戦力足り得るのでしょうか?
リガレウムの様な強度を備えた軽量合金素材で造られた新型魔導兵に、粘液やガス状の不定形獣魔が憑りついて襲ってくると手強い気がします。
天獣に比べれば雑魚には違いないですが。
そうですね。
小型獣魔ぐらいなら倒せますし、人間の兵隊相手なら無双できるぐらい強いです。
スライムみたいな獣魔がいたら恐ろしいですね!
獣の姿が多いけど、そこにとらわれなくてもいいかも。
仮に魔導巨兵で聖女に対抗するとしたら、頑丈さで耐えて引き付けた所をショットガンの様な拡散する武器を使う位しか攻撃を当てる手段は無さそうですね。
法力と反応する金属や宝石の小片や粉末を散布する事で法力を攪乱・乱反射させて命中率を低下させる新兵器とか。
火器管制を必要とする有人魔導巨兵だとパイロットを念動力で捻り潰されて終わりでしょうが。
パワーはあるけどスピードがない、という聖女が得意とするタイプではあります。
ショットガンのような広範囲を攻撃できる武器は脅威ですね!
炎や電撃もいいかも。
聖女は離れた場所から人の首を折ることもできるので、操縦席がある魔導巨兵は不向きですね。
火炎放射器はともかく魔導巨兵は電撃を放てるのですか?
炎や雷は獣魔の特殊能力と思っていました。
神気を扱う聖女も火焔や電撃を操れるとしたら戦い方も変わってきますね。
新たに発見された宝石をBLITZに組み込むことで、炎の剣や氷の矢を放つ杖で戦力増強する展開があったり?
スタンガンみたいな武器は作れますね!
それが有効かどうかというと…獣魔には通じないかな。
聖女は炎や雷は使えないですね。
でも炎を念動力で動かしたり、火種ごと投げつけたりはできます!