「バカ!無謀すぎるわよ!」
ロズタロトはダルガロスの真横を飛びながら、前足の関節に弾丸を集中させた。
勢いが少しだけ弱まる。
しかし、近づきすぎたロズタルトは突進する巨体に跳ね飛ばされた。
パルゼアの眼前にダルガロスが迫る。
周囲の建物をも粉砕しながら突き進むその姿は、まさに破壊を具現化した存在といえた。
体重差を比較するまでもなく、受け止めることはできない。
しかし、すべての念動力を盾に込めて一瞬の均衡を作り出せば――
金属製のバイザーの下で血が細い筋を作っていた。
「良かった。間に合ったみたいね」
衝突の瞬間。
聞き慣れた声とともに、パルゼアの体がふっと軽くなった。
盾がダルガロスの眉間に当たり、鈍く重たげな音を立てる。
凝集された念動力が巨大な頭部を弾き、ダルガロスが悲鳴をあげてのけぞった。
後方に吹き飛ばされたパルゼアの体を、オーゾレスがやさしく抱きとめる。
「ちっ。余計な真似を」
「あら~ご不満?」
悪態をつきながらパルゼアはオーゾレスに身を預けた。
小さくため息をつく。
なんとか突進を弾くことはできた。
だが、衝突の瞬間にオーゾレスから付与された法力も使い切ってしまったのだ。
「さて、終幕ね」
オーゾレスが灰色の杖を空に向かって掲げる。
その先には次に法力を付与する対象――ゼルロズがいた。
ダルガロスが体勢を立て直す前に、ゼルロズが空から急襲する。
その体はオーゾレスによる法力付与を受けて光を帯びていた。
両者が交差する刹那。
超高速で振り下ろされた大刀がダルガロスの首筋を深々と斬り裂いた。
――機迅。
極限まで研ぎ澄ました感応力で急所を狙い、超高速の斬撃を叩き込む捨て身の大技である。
大型獣魔ですら一撃で葬り去る威力の代償として、使用者であるゼルロズはしばらく法力を使えなくなる。
戦闘の最中に聖女が法力を失う。
それは死に直結する。
ゼルロズにとって、後を託せる仲間がいるからこそ放てる技でもあった。
黒い鮮血が吹き上がり、ダルガロスの目から光が薄れていく。
最後の咆哮が空に響き渡り、巨体が前のめりに倒れていった。
荒い呼吸とともに、生命の灯が揺らめく。
やがて、最後の息を吐くとダルガロスは完全に地に伏した。
「ほお~オーゾレスのバフ有りとはいえ、ダルガロスを仕留めるとはな。アイツも有望株だ」
ゼハインは腕を組み、法力を使い果たして落下していくゼルロズを目で追った。
その体をオーゾレスがやさしく抱きとめる。
そして、漆黒の殺意とともにかすかな風切り音が鳴った。
自身の心臓めがけて飛んでくる黒い大剣を、ゼハインは槍で弾く。
甲高い衝撃音に続いて、かすかな余韻がただよう。
「高みの見物?あなた、何様のつもりなの」
「おう、早かったじゃねえか。中型獣魔じゃお前らの足止めにはならねえな」
ゼハインの正面には、息を切らしたルジエリが空中で静止していた。
すぐ近くでマルジナが杖を構えている。
攻撃支援の準備は整っていた。
「ま、こんなとこか。見たいものは充分見れた。それじゃあな」
「逃げられると思ってるの」
ルジエリが身をかがめて加速しかけた瞬間、ゼハインの全身が光を放つ。
瞬く間に広がり消えゆく光の中に、あざやかな赤い髪が呑まれていった。
虹色に輝く光の粒子が星屑のように舞い散り、幻想的な渦を描く。
周囲を照らすほどの閃光が走った後、ゼハインの姿は煙のように消えていた。
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コメント
ルジエリ推しでしたけどゼルロズも格好いいなーやっぱ最後の一撃をキメた聖女がよく見えちゃいますね
どうしてもシュート決める人が目立ってしまいますね。
支援なくしては活躍もできないんですけども。
タイトルはきじんのあんとうですか?
いつもあまり見たことがない単語が出てくる謎
そうです!
単語は好きな漢字を組み合わせている造語なので…見たことないと思います笑
ゼルロズの強者感溢れるイラストが格好良いです。
ゼルロズもバイザーのデザインがより魅力的に変わりましたね。
金糸と黒レースが組み合わさった美しくもカッコ良さを両立したデザインが素晴らしいです。
差し替え前の画像をPixivと双方見比べられるのが便利で嬉しいです。
ありがとうございます!
「ルジエリといろいろかぶっててわかりにくい」
というご意見をいただきまして…
黒髪ショート、剣アタッカー、黒いトゲトゲのバイザー。
髪型とかは変えたくなかったので、バイザーをガラッと変えました。
ピクシブの方にはBefore Afterどちらも載せてみました!
一撃で首を切った技とルジエリの必殺技だとどっちが威力がでかいんですか?
個人的には前者かなと。
威力はゼルロズの機迅の方が大きいです。
ルジエリの影刃は半分にも満たない威力になりますが、消費する法力も半分以下ですね。
・研ぎ澄ました感応力で弱点に必中
・全部の法力を使った全力攻撃
動けなくなるという致命的な弱点があるだけあって強力
今まで登場した聖女側の攻撃のなかでは一番強いんじゃないでしょうか
一番ダメージが通りやすいところに最大威力の斬撃を叩き込む、という技になっています。
その代わり法力全消費しちゃうので、使用後は飛ぶこともできません。
斬撃系の攻撃手段としては最強ですね!
三大獣魔が全員やられちまった…。聖女たちはこれから何と戦えばいいんだ。
まだまだやべーやつがいっぱいいるんです!
あと三大獣魔は厳密には全員消えきっていなかったり。
ロズタロト「やったわね!」オーゾレス「皆お疲れ様」パルゼア「我々の勝利だ」
ゼルロズ「…まだこのままでは終わらない…」ロズタロト「ちょっと!不穏な事言わないでよ!」
いつでも不穏な言葉で締めくくろうとする聖女…!
パルゼアとオーゾレス2人がかりで一瞬ひるませるのが精一杯ってやっぱり3大獣魔は強いんだなと
しかもパルゼアふっ飛ばされてるしな
恐竜みたいなやつを正面から弾くだけでも十分すごいけどねェ
ダルガロスは自分より遥かに小さい人間なんか余裕で吹っ飛ばせると思って突撃してますから、思いの外強い力で弾かれて面食らった形です。
その一瞬、怯んだことが敗因になるわけですが…
確かにサイズ的には恐竜か、それ以上にでかいですね。
ティラノサウルスでも12メートルだとしたら、中型獣魔ぐらい。
モンハンのティガレックスが約24メートルでした。でか~。
3大獣魔が全滅しても対大型獣魔特殊部隊レイズウォルが出てこなかった…。
「幽遊白書」に例えると3大獣魔が「戸愚呂弟」B級上位の格付けに相当して、獣魔世界には遥かに強力な存在がひしめいていたり?
ラージャンみたいな巨大モンスターが突っ込んできたら人間は一溜りも無いです。
レイズウォル、プルゼリフは次の章で登場予定なんです。
縦にはあまりインフレさせないつもりですが…
敵側でエルゼナグより強いやつが出ないかというと、そんなことはなく。
ラージャンは今調べたら10メートルないそうです。
もっとデカそうなイメージだったんですけどね、意外。
ロズタロトだいじょぶなんですか
すぐ続きが投下される時とそうでない時がある・・・
ダルガロスにふっ飛ばされたので大丈夫ではないですね…!
とっさに念動防御を展開しているものの、衝撃は吸収しきれず。
次回登場予定です。
もうすぐ3章も終わります、アップがんばります!
ゼルロズ「私に触るのは誰だ…もう何も見えぬ…もう何も聞こえぬ…」
オーゾレス「変な冗談を言えるのなら大丈夫そうね(手をワキワキと蠢かせる)」
ゼルロズ「なっ何だその妖しい手の動きは?変な所を触るな、ヒャン!」
パルゼア「…ロズタロトを迎えに行くぞ。ゾルオネも追わねばならん」
そうなんです、ゼルロズはすべての法力を使用するので何も見えなくなります。
聞こえはしますけどね。
オーゾレスはヘンないたずら好きそう笑
ロズタロトが足を撃って突進を弱めた効果があったと思いたい
もちろん効果ありです!
でなければパルゼアは一瞬の均衡状態も作れず、ふっ飛ばされてたかも。
ゼルロズ「また詰まらぬ者を斬ってしまった」
オーゾレス「つまらないと言える程の相手だったかしら?」
ゼルロズ「…奴もまた、強敵だった」
強敵(とも)
実際、強い力を手にしてそれを発揮できない状況が続いたら、強敵を友と感じるのかもしれない…
シューターが隙を突いて行動を阻害し、アタッカーが攻め、ディフェンダーが守り、バッファーが攻防を決め手に昇華する。
各職が得意分野を活かしたパーティー戦の理想形でしたね。
今後も縁の下の力持ちなジョブも見せ場があると期待しています。
「パルゼア」が強いのであって、他のディフェンダーは上手く立ち回ってくれるかどうか。
基本形というか、オーソドックスな戦い方ですね。
最初に持ってきたほうがわかりやすかったかな…?と思ったり。
ディフェンダーの見せ場も作っていきたいです!
ゼハインは特に強い聖女を見極めて戦神のゾルフレッドに報告することが示唆されてました。ゾルフレッドのページには「神に生まれ変わらせて眷属として迎える」と書いてある。見込みのある聖女は死んだ後ゾルフレッドの部下として生きることに?ゼルロズも「有望株」として報告されるでしょうからいずれ神になると予想。
細かい部分まで読んでもらえて嬉しいです!
その辺りに関しては実はちょこちょこ書いてたりします。
戦って戦って、死んだ後もまた戦う…となると恐ろしいですね。
パルゼア「機刃を使え!私とロズタロトで時間を稼ぐ」
ロズタロト「ちゃっちゃとやっちゃってね~」
ゼルロズ「承知」
空高く舞い上がったゼルロズは精神を集中し、神気を集めるべく呪文の詠唱を開始する。
ゼ「忌むべき汝らに慈悲はなく、汝を縛りし厄から逃れる術も無し
汝、久遠の絆断たたんと欲すれば、我が言の葉は怨念の剣となり汝に降り注ぐだろう」
ロ「まだなの?足止めもそろそろ打ち止めよ!」
ゼ「ザーザード・ザーザード・スクローノー・ローノスーク 漆黒の闇の底に燃える地獄の業火よ 我が剣となりて敵を滅ぼせ」
パ「急げ!これ以上持たない!」
ゼ「咲き誇れ。虚無へと還す、黒翼の薔薇 機刃奥義!ローズ・オブ・ゼロ!! 亡者に手向ける花は無いと知れ」
パ・ロ(あの呪文の詠唱は必要なのだろうか…?)
ミズリア「か、かっこいい!私も必殺技を考えないと…。ミズリアアタック…スーパー会心の一撃…
ヴィゾア様、何かかっこいい必殺技名はありませんか?」
ヴィゾア「そうねえ…、
忌まわしき美徳の名をもつ偽の使徒よ、深淵の淵へ還れ
浄化してあげるわ 神技エーテルストライク! 何も残らないだけ、ゴミよりマシよね
…なんて、どうかしら?」
ベルナズ「…お前、まだそういうの好きだったのか…」呆れ顔
ヴィ「(咳払い)んっ、んん!神気を込めた必殺の一撃に、より強いイメージを持たせる詠唱は一つの手段と言えるわね」
厨二を表に出していない聖女にも黒歴史があると面白いです。
詠唱は中二にとってなくてはならないものですね!
ゼルロズは詠唱の代わりに謎ポエムを詠みながら戦ってます。
でも無詠唱もまた中二のロマン…
>まだそういうの好きだったのか…
それは言ってはいけない…
ゼルロズとルジエリは黒髪ショートで近接BLITZと共通点が多いので比較してみました。描写を見る限りはゼルロズが大型獣魔をはじめとした大物キラー。ルジエリが小型から中型を素早く始末するのに向いているようです。素早さと命中率はどちらも高いようですが冷静なゼルロズに対して激情家のルジエリは不安定さがあるように感じられました。ゼルロズは聖女を相手にするには過剰火力なので聖女同士が戦うならルジエリに軍配が上がるのかなと予想しましたがいかがでしょうか。
同じリガレア帝国の聖女ですし共通点は確かに多いですね。
書いていただいた通りで、ルジエリは手数で勝負するタイプです。
なので、防御力が高い敵が苦手だったりします。
反面、ゼルロズは高防御でも大火力でたたっ斬ることが可能なので、攻撃面はかなり上です。
ただし、ご指摘どおり聖女にはそんな大火力はいらないので、十分致命傷となる斬撃をたくさん撃てるルジエリが相性的には有利です。
実際に戦ったとしたら戦闘経験も加味してゼルロズが勝ちます。でも僅差ですね。
ロズタルトにとっては主君であるパルゼアに対してバカ!って……三人はかなり仲がいいんですかね。戦闘は連携が取れているように見えます。ちなみにどうやって知り合ったんでしょうか。そのあたりの掘り下げもサブストーリーでアップしてほしいです!
友達みたいに接してます笑
この三人は便宜上、パルゼアが一番偉いってことになってますが、本人たちはあんまり気にしてません。
知り合ったころのお話もまた書きたいなと思ってます!