天啓を受け、念動力と感応力に目覚めた時――
オルゼトは世界を変えられると思った。
聖女の力があれば、くだらない小国同士の戦争を終わらせられる。
獣魔におびえて暮らす人々を守ることができる。
そんな希望を胸に、パルゼアの元に集い、戦場を駆け巡った。
しかし、聖女の力をもってしても守りきれない命がある。
瓦礫の中から聞こえる悲鳴。
燃え盛る炎と怒号。
この世のものとは思えない、獣魔の叫び。
戦場をともにするたび、パルゼアへの信頼は増した。
国々を併合し、まとめあげた手腕を人々は「力づくの正義」と呼んだ。
それが正しいことなのか、オルゼトにはわからなかった。
しかし、それでも――
オルゼトは差し出されたパルゼアの手を取った。
事実として、貧困にあえぐ民や獣魔の被害にあう人々は激減したのだ。
誰かを救えるのなら力づくでもかまわない。
望む結果を実現させる力こそがオルゼトの正義だった。
――
オルゼトは朦朧とする意識をつなぎとめ、ノルディズを背負う。
毒を持つ小型獣魔――ノヴェルグはゆっくりと歩を進めている。
爆炎によるダメージは大きい。
しかし、その歩みを止めるほどには至らなかった。
オルゼトはノヴェルグの目に向かって念動力で砂を跳ね上げ、ノルディズを背負ったまま走った。
ふたりで空中に逃げるほどの念動力は使えない。
しかしノルディズを置いて逃げることは、オルゼトの美学に反していた。
地面を蹴るたび、腕と胸に軋むような痛みが走る。
ノヴェルグは手で砂を払い、よろよろと走り去ろうとするふたりに近づく。
その足元に向かって毒液を吐きかけた。
「う、ああ……! 足が……!」
オルゼトが地面に膝をつく。
足に力が入らなかった。
腰から下の感覚がなくなっていく。
背負っていたノルディズを地面に寝かせると、オルゼトは振り返った。
ノヴェルグは目の前まで迫っている。
再び強い打撃がオルゼトを襲った。
神経毒がもたらした麻痺により、念動防御も弱まっている。
その身体が再び吹き飛ばさ、地面に叩きつけられた。
「ごほっ! ……がっ……かはっ!」
振るえながら砂浜に手と膝をついて、オルゼトは吐血した。
呼吸ができない。
それでも感応力を働かせて周囲を探った。
リガレア帝国の聖女は死ぬまで諦めない。
その想いだけがオルゼトの意識を支えていた。
ノヴェルグが横たわるノルディズに近づく。
意識は失ったままだ。
吠え声とともに鋭い爪が並んだ腕が振り上げられた。
黒い外皮に包まれた腕が振り下ろされれようとするその時。
高速で投げつけられた黒い大剣が、ノヴェルグの喉元に突き刺さっていた。
傷口から鮮血と毒液が溢れ出る。
何が起こったか理解できないまま、獣魔は砂浜に倒れ込んだ。
赤く光る目が静かにその輝きを失っていく。
オルゼトが拾いあげたノルディズの大剣は、見事に獣魔を絶命させた。
砂浜にごろりと寝転び、オルゼトは空を仰ぐ。
痛みと疲労で身体をまともに動かせない。
浅く呼吸するのが精一杯だった。
――パルゼア様。少しだけ休みます。
心の中で主君に詫びながら、オルゼトは静かに目を閉じた。
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コメント
オルゼトがどういう目的で戦っているのかはっきりしていいですね。回想シーンはいつも短い気がします。もっと長くてもいいのよ・・・
ありがとうございます。
登場するキャラクターがたくさんいるお話なので、回想シーンばっかりになってしまうかな、と…
また個別に掘り下げた話をアップしていきたいと思います!
援軍が来る流れとばかり思っていたらオルゼト大健闘。
武装を失い残弾ゼロの演出が熱い前回に対し、ノルディズの大剣が良い位置に落ちていましたね。
オルゼトも一応大剣を使えますので、運良く逆転できた感じですね。
職分を超えた戦いも書いていきたいなと思ってます。
アタッカー・シューターが戦闘不能になり追い詰められた場合に、剣や砲を借りてバッファー・ディフェンダーが残り僅かな法力で捨て身の一撃!
活躍を描きにくい支援・防御担当がいざという時に決める演出を空想していましたが、オルゼトがやってくれましたね。
勝ち負けにこだわる性格でアタッカー並みの大剣投射術を学んだ?
基本、聖女は一通りの武器を扱えるんですが、やはり得手不得手はあるようで。
オルゼトも大剣型ブリッツでそこそこは戦えますが、本職相手にできるほどではないですね。
小型獣魔ならなんとか、というレベルでしょうか。
黒血の沿海を見直したらちゃんと大剣を落としてたわ。
これが逆転の伏線になるなんてな。
そうなんです、ノルディズが砂浜に落としていました。
それを上手いこと活用した格好ですね。
パルゼアが天啓で聖女になる
↓
フィデア帝国に反抗する
↓
噂を聞いた聖女がパルゼアの元に集まる
↓
聖女軍団が周囲の小国を陥落させていく
↓
ひとつにまとめてリガレア帝国が誕生
この流れで合ってる?
概ねそんな感じです!
でも最初にフィデア皇国の兵士がパルゼアたち、ギサリオ人を迫害してたんですよね。
先に問題を起こしたのはフィデア側で、そこに反抗していくうえで天啓が下った形になります。
回想シーンでヤバそうなのと戦ってて草なんだ。
これはどう考えても大型獣魔でしょ。
過去編もはやく書くんだよ!
このサイズは大型獣魔に間違いない!
さまざまな場所で人々を獣魔から守っていたんです、パルゼア率いる聖女隊。
そこにオルゼトも参加したというシーンです。
過去編…!
ま、まずは3章を終わらせます!
オルゼトの戦闘中のイラストも見たかったなー
そういえば一枚もないですね。
時間見つけて頑張りたいと思います!
ノヴェルグ:小型獣魔でありながら最も聖女を窮地に追い詰めた実績を持つ。
麻痺毒により、一人目は気絶・戦闘不能。
もう一人も行動の自由を奪い、ノルディズ・オルゼト コンビを全滅寸前の危機に追い込んだ。
DQⅢアルミラージ・マタンゴの眠り、FFアンデッドの麻痺。
行動不能は初めて全滅を覚悟するスリルがありました。
ゲートニグくんもかなり頑張りました。
ゼタリリアは勝利の代償に四肢を失うことに…
実質相打ちなんですけども。
行動不能系は恐ろしいですよね。
敵がすぐそこにいるのに動けない恐怖!