🌐 Language / 言語
🇺🇸 [English Edition]
🇯🇵 [日本語版]
原初の獣魔ゲートニグが現れてから、十八年が過ぎていた。
あの日、空を裂いた叫びと、地を震わせた巨影を覚えている者は、もう多くを語らない。語れば幼い子どもたちが眠れなくなるからだ。
けれど、港町の鐘楼には今も古い傷が残り、海辺の防壁には黒く焦げた石が混じっている。世界は忘れたふりをしながら、その爪痕の上で朝を迎えていた。

天啓を受ける者は、各地で少しずつ増えていった。
はじめは奇跡と呼ばれた。
祈りの最中に光を宿した娘。
逃げ遅れた子どもを抱いたまま、獣魔の牙を受け止めた少女。
己の身に宿った力の名も知らぬまま、火の中に立ち、瓦礫の下から人々を導いた者。
やがて人々は、彼女たちを聖女と呼ぶようになった。
だが、人類が戦う力を得たことは、救いだけを意味しなかった。
深海の底から這い上がる獣魔もまた、年を追うごとに数を増していった。
潮が荒れる夜には沖合で黒い影がうねり、夜明け前の霧の中から、濡れた爪音が石畳を叩いた。
警鐘が鳴るたび、街の扉は閉ざされる。
母親は子を抱き寄せ、商人は店先の灯を落とし、老人は祈りの言葉を震える唇で繰り返す。
その沈黙を破って、聖女たちは前へ出る。
彼女たちの戦いは、遠い神話の中にあるものではなかった。
目の前の通りで、昨日まで市場が開かれていた広場で、洗濯物が揺れる家並みのすぐそばで続いていた。
傷つかない者などいない。
刃を振るう腕は裂け、盾を構える膝は震え、勝利のあとでさえ眠れぬ夜がある。
守りきれなかった顔が、瞼の裏に残ることもある。
それでも、彼女たちは退かなかった。
戦いの終わった朝、焼け残った街角に子どもたちが集まってくる。
煤だらけの顔で見上げる瞳がある。
震える手で水を差し出す老婆がいる。
扉の陰から泣き笑いを浮かべる家族がいる。
その小さな声が、聖女たちをもう一度立ち上がらせた。
守るべきものは、国の名でも、教義の言葉でも、勝利の栄光でもない。
誰かが帰る家。
誰かが待つ食卓。
明日もまた、何気ない挨拶を交わせる街角。
神の天啓を受けたその日から、聖女たちは己の力をそうしたもののために振るってきた。
痛みも恐れも抱えたまま、それでも人々の前に立ち続ける。
獣魔の時代において、彼女たちは剣であり、盾であり、そして希望だった。
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コメント
18年後だったんだ。これ最初から書かれてましたっけ?
これは後から追加させたテキストです!
エピソードから第一章に移行する際に結構時間が経っているのですが、わかりにくいというお声をいただきまして足しました。
これが一話っぽい気がする。
第一章の一話なので始まり感あるかもです。