🌐 Language / 言語
🇺🇸 [English Edition]
🇯🇵 [日本語版]
ヴィゾアは、大貴族の屋敷で育った。
けれど、誰からも娘として扱われたことはなかった。
彼女の母は、屋敷で働いていた使用人だった。
正妻にうとまれ、わずかな金だけを渡されて追い出されたという話を、ヴィゾアは後になって知った。
物心ついた頃には、もう母はいない。
広い屋敷の中で、ヴィゾアはいつもひとりだった。
冷たい視線。
聞こえるように交わされる悪口。
食卓に呼ばれない日もあった。
それでも、父は何も言わなかった。
助けることも、叱ることもない。
ただ、そこにいないものとして扱った。
それでも幼い頃のヴィゾアは、いつか父が振り向いてくれるのではないかと思っていた。
けれど、その期待も長くは続かなかった。
十六歳のある夜――
ヴィゾアは偶然、屋敷の地下室へ迷い込んだ。
そこには、大量の武器が並んでいた。
剣、銃、火薬。
見たこともない兵器たち。
それだけではない。
机には地図と書類が積まれていた。
争いの記録、輸送経路、契約書。
小国同士の戦争。
争っていたはずの双方へ、同じ屋敷から武器が売られている。
しかも、戦が長引くほど利益が増える仕組みだった。
意図的に争いを煽り、さらに武器を売る。
人が死ぬほど、金になる。
ヴィゾアは、書類から目を離せなかった。
獣魔を倒すためではない。
民を守るためでもない。
ただ、人が人を殺すための武器。
その裏で、父は笑っていたのだ。
翌朝。
屋敷の外で、ひとりの少年が泣いていた。
父を戦で失ったという。
昨日まで生きていた人が、突然いなくなる。
泣いても戻らない。
誰かが奪った命。
その誰かの後ろで、ヴィゾアの父は金を数えている。
不快感が腹の底から急激にせり上がってくる。
己に父の血が流れている、そう考えただけで激しい吐き気を覚えた。
――それからだった。
ヴィゾアが教会へ通うようになったのは。
静かな祈りの時間だけが、息をつける場所だった。
正しき者には、力が必要。
弱き者を守るために。
理不尽を止めるために。
その言葉を、ヴィゾアは信じた。
間違った人を止められる強さがほしかった。
誰かが泣く前に。
誰かが奪われる前に。
正しいことを選べる力が。
そして、ある日。
光が胸を貫いた。
優しく、あたたかく。
それでいて、決して逆らえないほど強く――天啓だった。
聖女として選ばれたのだ。
知らせを聞いた父は、狂喜した。
初めて、ヴィゾアを娘として見た。
否。
聖女という価値として見た。
「素晴らしい!素晴らしいぞ!これで我が家も安泰だ!」
呼び出された部屋。
机の上には、ひとつの銃が置かれていた。
冷たく、重く、美しい装飾が施されている。
「受け取れ」
父は笑っていた。
「聖女として戦うお前のために、特別に用意したのだ」
ヴィゾアは静かに微笑んだ。
「ありがとうございます、お父様」
その瞬間。
銃が、ひとりでに浮かび上がった。

父の笑顔が止まる。
銃口が、ゆっくりと眉間へ向く。
「な、何を――」
ヴィゾアは穏やかな声で言った。
「間違った人を止めるのは」
静かな微笑み。
少しも揺らがない目。
「正しいことでしょう?」
父の顔から血の気が引いた。
「ま、待て……!」
「わたしは、そのために選ばれたんです」
乾いた銃声が響いた。
冬の空気は、静かだった。
屋敷を出る時、ヴィゾアは一度も振り返らなかった。
寒さは感じない。
胸の奥には、あの光がまだ残っていたからだ。
正しいことをした。
そう思った。
そして、その思いに迷いはなかった。
数年後――王都では、ひとりの聖女の名がささやかれていた。
誰より先に戦場へ立ち、獣魔を退け、民を守る少女。
気づけば人々は、彼女を王と呼ぶようになっていた。
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コメント
資金力=装備の質≒聖女の武装戦力となる事から、各国の女王クラスの聖女は軒並み貴族・王族クラスの出自のイメージがありましたが、聖女王達はいずれも不幸な境遇を撥ね退けて立ち上がって来たのですね。
そして、もれなく歪んでいる(笑)
良心枠の聖女や常識人程、変態性を持っていそう。ドラッグオンドラグーンのレオナールの様に。
基本的に逆境に立ち向かう人間に天啓が下るような節はあります。
例外もあるんですけども。
ヴィゾアもしょせん自分が正しいと思っていること=正義なので、救いたいものだけを救っているという感じですね。
変態性は聖女皇サマが担当です笑
清廉潔白っぽいヴィゾア様も親殺しなのね。。
まーじでまともな女が出てこない(笑)
獣魔を屠り去って聖女王にのしあがっているわけですから結果として「力が正義」がまかり通っている。
皮肉ですね。
そうなんです。
結局力づくで正義だと言っているだけ…なんですね。
リガレア帝国と大きくは変わらなかったりします。
う~ん、武器を売っていたことは褒められた行動じゃありませんが、それだけでいきなり殺してしまうのはどうなの?仮にも自分の父親なわけですよね?なぜ武器の取引に手を染めていたのかを聞くぐらいのことはしたらどうなのかなと思いますけど。自分が冷遇された腹いせもあるのかな。
そうですね、ちょっと極端な行動なのですが…
ヴィゾアは正義に背いた人間は殺してでも排除すべき、という過激な考えになってます。
自分が信じる正義に則した人間にだけとても優しい。
華やかさと正しさを打ち出してますが、結局闇を抱えてるんです。
あくまで正義を成すために力が必要なだけであって力があれば何をやっても正義ってわけじゃないんだよなぁ
仰るとおりですね。
しかし念動力のような強力な力を手にした人間は、万能感にひたってしまうのではないかと思っています。
自分は特別で、裁く側の人間だと勘違いしてしまうかも。
暴力で他者を脅かして人身売買するルジエリ編の犯罪者がその生涯で積み上げて来たであろう豊富な余罪の分まで苦しむ事は自業自得ですが、一応正規の商売として確立されているはずの武器商人を殺す事はいささか正義の線引きが潔癖に過ぎる様に思います。
ラムゼイ社の関連商社として合法的に輸出したのか、非合法のルートで密輸していたのかで又変わってきますが。
悪人を生かしておく事で取り返しがつかない多大な犠牲・悲劇・不幸を増やし続ける事に比べれば、味方に優しく敵に無慈悲なヴィゾアはまだ有り難い存在と言えます。
争いが絶えない時代・世界で理不尽な権力を振りかざす暴君は枚挙に暇が無いのが実態です。
合法・非合法どちらもやって私腹を肥やしてた感じですね。
でも、どちらにせよ法の裁きを受けるべきでヴィゾアが直接手を下すのはいけませんね。
ヴィゾアは弱い民の味方ではありますが、守るべき対象の選定方法は自分の一方的なジャッジになっていることは気にしていなかったり。
正義というテーマは難しいですね。
より大量の武器が売れる様に国同士が争う様に仕向けた決定的な証拠を発見していれば、ヴィゾアの粛清に自然な説得力を持たせられたはずなのが惜しいです。
決定的な証拠は見つかりませんでしたね。
ヴィゾアはどこかで父を一方的に断罪することを願っていたのかもしれません。
ファンタジーな物語世界の司法がどの程度機能しているか不明瞭な部分はありますが、この段階の「正義と公正」は腐敗した教皇庁の所有物になっている気がします。
争いや悪徳が蔓延る世界では聖女の独善によって救われる人々は大勢いると思います。
そうですね、まさしく1章で書きたかった部分です!
宗教というか、信仰心はとても人を強くするものだと思います。
でもそれ故に危ない部分もあり…
混沌とした世界でなら生きる道しるべにもなり得るのですが、結局自分以外のなにかにすがるという危険は消えません。
独善の是非もまた大きなテーマですね。
ヴィゾア達が執行する正義によって守られる大勢の人々の平和から差し引きすれば些事にすぎませんが、父殺しは正義にかこつけて私怨を晴らしたかっただけなのだろうとは思います。
ヴィゾアは自分のことを神に選ばれた存在だと思っているので、自分の行動は正義である、みたいな思想も持っています。
冷遇されてきた子ども時代から一転、急に大人の男でも楽に殺せる力を手にしたので、さらにその思想は加速していきました。
でも、本人は気づいていないって感じですね。
書き方を見るに作者はヴィゾアの行動を完全否定しているように見えますが具体的にどこが問題と考えているんですか?一応でも武器の流通が減るなら犠牲になる人間も減るわけで。完全に間違った行動ととらえられている点が気になりました。
まず第一に暴力を止めるために、暴力を使っていることですね。
まずは対話すべきだと思います。
ヴィゾアは暴力を否定しようとして暴力を行使してしまっているわけで、大きな矛盾を抱えていますよね。
他にも法で裁く、対話する、武器業界へ訴えかける…などできることはあったはずです。
あとは、個人的な価値観や感情に基づいた正義だというところもマズイですね。
ヴィゾアにとっての正義が他の人にとっても正義であるか、というと疑問です。
エザリス王国は法治国家なのに、法によらない暴力で解決してしまっています。
というわけで、自分のなかで色々と捻じ曲げて正当化しているだけで、彼女が取った行動は彼女が嫌う暴力そのものなわけですね。
ただ、目の前の不当な暴力を止める、などの緊急時には法ではなく暴力が必要になることもあると考えています。
そもそも獣魔は法律なんて守りませんし…ですが、ヴィゾアの行動はやりすぎですね。
結局彼女もギルゼンスやパルゼアのように歪んだ人格の持ち主というわけです。
法で裁く:教皇庁が牛耳る法治の正義は買収されてしまうのでは。
対話:話し合いに応じて改心できる様な心ある人物は、そもそも悪役として殺されない訳で。
武器業界の利益を不正な手段で横取りしている、この辺りが落し処。
歪んだ人物だらけの世界観で突然力を得た人物が自己正当化するのは仕方ないとして、ジグナ辺りが法治国家として個人的価値観に基づく正義を諫めず放置するのは如何なものか。
ギルゼンスは問題児代表として、パルゼアは比較的理性的でまともな印象。
心正しい父を非道なやり方で殺された時に、なりふり構わずブチ切れた位で。
法がなければ人々は獣にすぎない…
として
問題はその法を作ったのが誰なんだ!
という部分だったりしますね。
誰かにとって都合の良い法だったり。
ギルゼンスも環境のせいがあったりしますが、パルゼアが一番3王の中ではまともかもしれません。
ただまあ、聖女の力でたくさんの兵士を殺めていますので、まともと言えるのか…