ヴィゾアはエザリス王国の大貴族グレイラント家に生まれたが、彼女の母は正妻ではなく、屋敷で働いていたメイドだった。ヴィゾアの母は正妻からうとまれ、金を渡されて屋敷を追放されたのだ。以来、ヴィゾアは常に蔑まれ、召使のような扱いを受けて育った。
ヴィゾアの幼少期は、母のいない孤独な日々だった。彼女が物心ついたときには既に、周囲の冷たい視線と嘲笑が日常だった。
ヴィゾアの際立った美しさと聡明さは、正妻やその子どもたちからも嫉妬と憎悪の対象となり、彼女はますます孤立していった。父ライムスは一度も彼女をかばうことはなく、その存在を無視し続けた。
彼は貴族としての威厳や高貴さは持ち合わせておらず、金銭のためにラムゼイ社を通じて他国に武器を売りさばいていたのだ。しかも、その兵器は獣魔を倒すためのものではなく、人間を殺すためのものばかり。
ライムスの冷酷な商売に対する評判は、家の中でも外でも悪名高かった。
ヴィゾアが12歳になったある日、彼女は偶然にも父の秘密を知ることになる。屋敷の地下室に忍び込み、そこに保管されている大量の武器を目にしたとき、彼女は父の真実の姿を悟った。
忌まわしい『死の武器商人』である父を憎み、体に流れる父の血を呪った。その時、ヴィゾアの中に父とは違う道を歩む決意が芽生える。
救いを求めたヴィゾアは、エザリス王国の国教であるアズトラ教に傾倒していった。彼女はアズトラ教の「正義を成すためには力が必要」という教義の一部を、「力あるものこそが正しい」と解釈した。
貴族としての権力や富ではなく、純粋な力と信仰に基づく正義を求めるようになったのだ。
ある日、ヴィゾアの胸を優しい光が貫いた。それは女神がもたらした天啓だった。祝福を受けた瞬間、彼女は念動力と感応力を得る。
ライムスは娘が聖女として選ばれたことを知り、狂喜した。彼にとって、それは家の名声を高める絶好の機会だったからだ。
ライムスに呼ばれたヴィゾアが部屋に入ると、机の上にはラムゼイ社で作られた銃型のブリッツが置かれていた。
「よくやったぞ、我が娘よ。この銃で聖女としての使命を全うするがいい」
上機嫌で言うライムスに、ヴィゾアは優しく微笑んだ。
「ありがとうございます、お父様」
その瞬間、ヴィゾアの念動力が発動し、銃型ブリッツがひとりでに動き出した。銃口がライムスの眉間に向けられると、彼は驚きと恐怖に凍りついた。
ヴィゾアの微笑みは冷たく、決意に満ちていた。
「女神の御名のもとに。聖女として正義を執行します」
寒々とした冬空に、乾いた銃声が鳴り響いた。
外に出ると、冷たい風がヴィゾアの頬を撫でた。彼女は顔を上げ、星空を見上げる。これからの戦いがどれほど過酷であろうとも、彼女は決して揺るがない。ヴィゾアは胸の中にある光を感じながら、歩き始めた。
その後、数多の獣魔を葬り去り救世主と崇められた彼女は、天啓からわずか2年でエザリス王国の玉座についた。
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コメント
資金力=装備の質≒聖女の武装戦力となる事から、各国の女王クラスの聖女は軒並み貴族・王族クラスの出自のイメージがありましたが、聖女王達はいずれも不幸な境遇を撥ね退けて立ち上がって来たのですね。
そして、もれなく歪んでいる(笑)
良心枠の聖女や常識人程、変態性を持っていそう。ドラッグオンドラグーンのレオナールの様に。
基本的に逆境に立ち向かう人間に天啓が下るような節はあります。
例外もあるんですけども。
ヴィゾアもしょせん自分が正しいと思っていること=正義なので、救いたいものだけを救っているという感じですね。
変態性は聖女皇サマが担当です笑
清廉潔白っぽいヴィゾア様も親殺しなのね。。
まーじでまともな女が出てこない(笑)
獣魔を屠り去って聖女王にのしあがっているわけですから結果として「力が正義」がまかり通っている。
皮肉ですね。
そうなんです。
結局力づくで正義だと言っているだけ…なんですね。
リガレア帝国と大きくは変わらなかったりします。
う~ん、武器を売っていたことは褒められた行動じゃありませんが、それだけでいきなり殺してしまうのはどうなの?仮にも自分の父親なわけですよね?なぜ武器の取引に手を染めていたのかを聞くぐらいのことはしたらどうなのかなと思いますけど。自分が冷遇された腹いせもあるのかな。
そうですね、ちょっと極端な行動なのですが…
ヴィゾアは正義に背いた人間は殺してでも排除すべき、という過激な考えになってます。
自分が信じる正義に則した人間にだけとても優しい。
華やかさと正しさを打ち出してますが、結局闇を抱えてるんです。
あくまで正義を成すために力が必要なだけであって力があれば何をやっても正義ってわけじゃないんだよなぁ
仰るとおりですね。
しかし念動力のような強力な力を手にした人間は、万能感にひたってしまうのではないかと思っています。
自分は特別で、裁く側の人間だと勘違いしてしまうかも。
暴力で他者を脅かして人身売買するルジエリ編の犯罪者がその生涯で積み上げて来たであろう豊富な余罪の分まで苦しむ事は自業自得ですが、一応正規の商売として確立されているはずの武器商人を殺す事はいささか正義の線引きが潔癖に過ぎる様に思います。
ラムゼイ社の関連商社として合法的に輸出したのか、非合法のルートで密輸していたのかで又変わってきますが。
悪人を生かしておく事で取り返しがつかない多大な犠牲・悲劇・不幸を増やし続ける事に比べれば、味方に優しく敵に無慈悲なヴィゾアはまだ有り難い存在と言えます。
争いが絶えない時代・世界で理不尽な権力を振りかざす暴君は枚挙に暇が無いのが実態です。
合法・非合法どちらもやって私腹を肥やしてた感じですね。
でも、どちらにせよ法の裁きを受けるべきでヴィゾアが直接手を下すのはいけませんね。
ヴィゾアは弱い民の味方ではありますが、守るべき対象の選定方法は自分の一方的なジャッジになっていることは気にしていなかったり。
正義というテーマは難しいですね。
より大量の武器が売れる様に国同士が争う様に仕向けた決定的な証拠を発見していれば、ヴィゾアの粛清に自然な説得力を持たせられたはずなのが惜しいです。
決定的な証拠は見つかりませんでしたね。
ヴィゾアはどこかで父を一方的に断罪することを願っていたのかもしれません。
ファンタジーな物語世界の司法がどの程度機能しているか不明瞭な部分はありますが、この段階の「正義と公正」は腐敗した教皇庁の所有物になっている気がします。
争いや悪徳が蔓延る世界では聖女の独善によって救われる人々は大勢いると思います。
そうですね、まさしく1章で書きたかった部分です!
宗教というか、信仰心はとても人を強くするものだと思います。
でもそれ故に危ない部分もあり…
混沌とした世界でなら生きる道しるべにもなり得るのですが、結局自分以外のなにかにすがるという危険は消えません。
独善の是非もまた大きなテーマですね。
ヴィゾア達が執行する正義によって守られる大勢の人々の平和から差し引きすれば些事にすぎませんが、父殺しは正義にかこつけて私怨を晴らしたかっただけなのだろうとは思います。
ヴィゾアは自分のことを神に選ばれた存在だと思っているので、自分の行動は正義である、みたいな思想も持っています。
冷遇されてきた子ども時代から一転、急に大人の男でも楽に殺せる力を手にしたので、さらにその思想は加速していきました。
でも、本人は気づいていないって感じですね。