大型の銃型ブリッツが、ヴィゾアの体を包むように淡い光を放つ。
銃身内部の神気導管が螺旋を描き、周囲の神気を貪欲に吸い込んでいく。
空、海、そして遠く離れた山々の神気——
すべてが一点に収束し、法力結晶を通して砲型ブリッツの中に流れ込んだ。
「くっ……!」
膨大な神気の奔流に、ヴィゾアの体がきしむ。
天獣の力を取り込んだ体であっても、これほどの量を一度に扱うのは限界に近い。
目と耳から垂れた血が、赤い筋を作った。
それでも彼女は微笑んでいた。
女神アズトラから授かった天啓。
選ばれし者としての使命。
この瞬間こそが、自らの信じる正義そのものなのだと確信していた。
「これで……終わりよ!」
ヴィゾアの声が天を震わせる。
銃型ブリッツの収束レンズがまばゆいばかりの光を放ち、圧縮された神気が一筋の光線となって射出された。
天墜――聖女王の切り札がついにガルズレムを襲う。
轟音。
海が割れ、空気が裂ける。
光の奔流がガルズレムの左腕と左半身を貫通し、巨大な黒い塊が宙を舞った。
神獣の絶叫が空に響き渡る。
巨大な切断面から、漆黒の血が噴水のように吹き上がった。
悠久の時を生き抜いた神獣が苦痛に身悶えする。
海面に激突した左腕が巨大な水柱を上げ、周囲の海水が神獣の血で黒く染まっていく。
「ああ……なんて美しい」
ヴィゾアは陶酔に身を震わせた。
自分こそが女神アズトラの正義を体現する存在。
聖女たちの王として、悪を裁く権利を持つ者。
その確信が、彼女の全身を法悦で満たしていく。
「これが…これこそが、正しく神に選ばれし者の力!」
ヴィゾアは背中から4本のアズトラの宝剣を抜き放ち、体の周囲に展開させる。
黄金に輝く神器が、念動力によって宙を舞った。
疾風のように降下する聖女王。
4本の宝剣が同時に閃き、ガルズレムの巨体を縦横に斬り裂いた。
神鉄の刃は神獣の外皮を容易く切り裂き、黒い血が海を染める。
「これが神意!あなたは私に滅ぼされるべきなのよ!」
勝ち誇った笑みを浮かべるヴィゾア。
だが、ガルズレムの傷口はゆっくりと塞がり始めていた。
「ヴィゾア!深追いするな!」
パルゼアの叫びが海上に響く。
ガルズレムの残った腕による爪撃を、渾身の念動力で弾く。
「ヤツにはまだ力が残っている! 一度退け!」
しかし、ヴィゾアにはパルゼアの声が届かない。
神を討つ快感に溺れ、己の力に陶酔しきっている。
聖女王としての誇りが理性的な判断を曇らせていた。
「まだよ!まだ終わっていない!」
ヴィゾアは宝剣を構え、再びガルズレムに向かって突進する。
神獣の巨大な牙が迫るが、間一髪でかわした。
「とどめよ!」
4本の宝剣を束ね、ガルズレムの傷口に深々と突き刺す。
神器から法力が奔流となって流れ込み、再生を阻害していく。
左半身に広がる大きな傷の修復が完全に停止した。
「もう傷は癒せない……正義の勝利よ!」
勝利を確信したヴィゾアの背後で、何かが風を切る音がした。
鞭のようにしなるガルズレムの尾。
巨大な質量が、超高速で彼女の華奢な体を襲う。
嫌な音が響いた。
聖女王の美しい体は無惨に斬り裂かれ、白いドレスが鮮血に染まる。
4本の宝剣が力なく宙を舞い、一本ずつ海へと落ちていく。
「あ……ああ……こんな……」
ヴィゾアの唇から血の泡があふれた。
女神への信仰も、聖女としての誇りも、もはや彼女を支えることはできない。
重力に引かれ、聖女王の体が海へと墜ちていく。
昏い海の底へ――永遠の静寂の中へ。
波間に沈みゆく金色の髪が、最後に陽光を反射して煌めいた。
それは、エザリス王国の栄光とともに海に消えていく、一筋の光だった。
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コメント
やばそうだなーとは思っていましたが。。
しっかり死んだ描写があるからヴィゾア復活はなさそうですね
最後に全能感を得て散っていったので本人は納得して…
るかな、どうでしょう…
次々に倒された神々が不死と評した神獣の腕を断ち胴体を貫通。
神獣を深く傷つける聖女の攻撃力は神獣に敗れた神々を超えているのでは?
最大級の天墜を放った上で宝剣4本を同時使用した接近戦。
威力も法力容量も段違い。
アズトラの模造大剣に結晶核を搭載しても浅い傷しかつけられなかったリンカージェに対して、容易く切り裂く。
流石に神鉄の剣は違う。
油断し切って直撃を受け動かないギルゼンスはまだ生きている可能性があるものの、文脈だとヴィゾア死亡…。
慢心で自滅するのはヴィゾアが先になるとは。
決着がついていないコルゼティにとって大幅に有利になる。
謎の決めポーズでとうとう厨二がばれてしまった。
天獣と融合&神器保持&長時間の集気法、とバフ大盛りの一撃のため、超威力になりました。
弱い神よりダメージ量では勝っていますね。
宝剣での攻撃もリンカージェよりは強めです。
しかしコルゼティも予期しない形でヴィゾアは退場でございます。
決めポーズは全能感に浸っている感じを表現してみました!
パルゼアの言う通り下がっていたらヴィゾアは無事だったかもしれないけど天墜のダメージを再生されていた可能性もある。過剰な追撃ではなかったと思いたいだけなのかもしれないけど。やっぱりヴィゾアは当たったら一発で死ぬのか。
そうですね、宝剣でのダメ押しがないと天墜の大きな傷を塞がれてしまう可能性は高かったです。
なので必要な追撃ではあったのですが、自分の力を高く見積もりすぎました。
パルゼアや同格のディフェンダー以外は鎧や盾では防げない威力なので、ヴィゾアはひとたまりもありませんでした。
天堕は他の技とは一線を画した威力すね!
ゼルロズみたいに技使用後に戦闘不能にならない点も◎
タメがでかすぎるのが難点だけど外から集めた神気で撃てるから発動後のスキもないと思えばありかな。
まじめに最強候補の聖女だったんじゃないでしょうか。
ため時間が長すぎるので、他の聖女の力を借りないと撃てないという大きな弱点があります。
一対一だとまず使えません。
その代償に威力は聖女が使える技の中では最高峰ですね!
対大型の敵限定の攻撃面だけ見たら最強候補になると思います。
天墜は対獣魔に相応しい切り札。
長い法力収束時間を仲間が稼ぎ、巨大な敵を撃つロマン技。
使い手がいなくなる痛手は大きい。
2代目天墜の使い手を育成する余裕はあるだろうか。
武器の相性だとミズハが候補に挙がる。
まさにロマン技ですね!
二代目がいるといいのですが、ヴィゾアの固有技なので難しいかもしれない。
ミズハもタメ撃ち系なので成長すればチャンスあるかな!?
お盆はバタバタしていて
やっと読み終えました
可哀想だけど最後幸せそうでよかった
ありがとうございます!
ヴィゾアはまさに最高潮でした。
最も活躍した聖女かもしれません。