「あらあらまあまあ……ずいぶんと暴れたものね」
戦場に似合わない間延びした声。
パルゼアが振り向いた先に、見慣れない女が立っている。
聖女としての力に目覚めたパルゼアは、駐屯地をまたたく間に制圧した。
あたりには負傷した兵士や、魔導巨兵の残骸が転がっている。
「私はオーゾレス。敵じゃないわ」
無言で前傾姿勢を取ったパルゼアに対して、女が言った。
妖しい光沢のある黒髪、同じ色をした目隠しにドレス。
怪しげな風貌だった。
「何の用?」
「あなたを探していたのよ」
間髪入れずオーゾレスが答える。
優しげな微笑み。
しかし、どこか得体のしれない雰囲気をまとっていた。
「私たち聖女の力で、世界を変えたいの」
一歩踏み出しながら女が言う。
「うんざりしてるのよ。貴方もそうでしょう?」
――聖女の力で?
パルゼアは眉をひそめた。
自分の他にも同じ力に目覚めた者がいるのだ。
「くだらない争いの繰り返し。私たちが終わらせましょ?」
オーゾレスが、魔導巨兵の残骸に腰掛ける。

「そのための力だもの」
いくつかの瓦礫が浮かび上がる。
彼女の周りだけ、重力が消えたかのように。
ふいに、ひとつの瓦礫がパルゼアに向って飛んだ。
「何が狙い?」
パルゼアは空中に手をかざし、瓦礫を止める。
「ふふふ……力が必要なのよ。世界を丸ごと変えるだけの、ね」
オーゾレスが意味深に唇をなめた。
「貴方は強い。でも、ひとりじゃ国には勝てないわ」
少しの沈黙があった。
父のような優しい人が、理不尽に殺されない世界を作りたい。
それがパルゼアの想いだった。
しかし、今の世界を変えるには力が必要なのだ。
そして彼女の言うように、パルゼア個人の力では足りない。
「いいだろう」
パルゼアが小さく息を吐いた。
「話だけは聞いてやる」
「そうこなくっちゃ♪」
オーゾレスは大げさに手を広げた。
パルゼアは燃え続ける駐屯地を振り返る。
崩れ落ちた兵舎。
黒煙を上げる魔導巨兵。
父を殺した兵士たちの亡骸。
もう、この街に未練はなかった。
「他にもあなたみたいな聖女がいるのよ。紹介するわ♪」
オーゾレスは静かに微笑み、歩き出した。
パルゼアもまた、その背を追う。
それが、後に大陸を揺るがす帝国の始まりだった。
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