🌐 Language / 言語
🇺🇸 [English Edition]
🇯🇵 [日本語版]
診療所の灯りは、一晩中消えなかった。
海風が窓を叩く。
古い木枠が、かすかに鳴った。
外では村人たちが息を潜めている。
誰も騒がず、祈らない。
あまりにも酷い姿だが、少女はまだ生きていた。
奇跡なのか。
悪い冗談なのか。
ヴェイダルには分からない。
普通なら、とっくに死んでいる。
それでも、胸だけがかすかに上下していた。
細い呼吸と、今にも消えそうな脈。
それでも、まだ終わっていない。
ヴェイダルは机の上を見る。
小瓶の中で、黒い組織が微かに動いていた。
船で採取したものだ。
切り離されたはずなのに、まだ生きている。
裂けた断面が、ゆっくり塞がろうとしていた。
死んでいない。
いや、死を拒んでいる。
ヴェイダルは少女を見る。
このままでは死ぬ。
それだけは分かる。
他に方法もない。
ならば――
「……試すしかない」
小瓶を持ち上げる。
ほんのわずかに、手が震えていた。
成功する保証はない。
むしろ失敗する可能性の方が高い。
だが、目の前にある命を見捨てる方がずっと嫌だった。
そして、知りたかった。
この異常な生命は、人を繋ぎ止められるのか。
少女は、生き延びられるのか。

ヴェイダルは水で手を洗うと、器具を並べた。
ランプの火が揺れる。
外套を脱ぎ、袖をまくった。
「始めよう」
誰に言うでもない。
十時間を超える手術が始まった。
骨。
筋肉。
裂けた血管。
焼け焦げた傷口。
人の身体は、あまりにも脆かった。
触れるたびに、それを思い知らされる。
止血。
縫合。
切除。
つなぎ直していく。
それでも足りない。
少女の呼吸が、何度も止まりかけた。
ヴェイダルは小瓶を見る。
黒い組織は、まだ動いている。
迷う時間は、もうなかった。
慎重に切り分ける。
そして、少女の傷口へ置いた。
最初は何も起きなかった。
だが、黒いものがゆっくりと動き始めた。
傷口へ伸びる。
裂けた肉と、砕けた骨へ。
まるで生き物のように。
ヴェイダルの目が細くなる。
傷口が、閉じていく。
ありえない速度だった。
だが次の瞬間。
少女の身体が、大きく跳ねた。
呼吸が乱れ、脈が暴れる。
皮膚が黒ずみ始めた。
熱い。
額に汗がにじむ。
「……駄目か」
つぶやいた瞬間だった。
少女の身体が、微かに光った。
淡い光だった。
傷口へ集まるように揺れている。
すると暴れていた黒い組織が、少しずつ落ち着き始めた。
呼吸が戻る。
脈も、わずかに安定する。
ヴェイダルは息を止めた。
少女はまだ、生きようとしている。
夜は長かった。
ランプの火が小さくなり、湯が冷める。
布が血を吸い、何度も器具を洗った。
何度も呼吸が止まりかけた。
そのたびに、ヴェイダルは手を止めなかった。
救いたかった。
知りたかった。
そのふたつは、もう分けられなくなっていた。
やがて、窓の外が薄い銀色へ変わっていく。
朝だった。
少女の呼吸は、静かに続いていた。
失ったものは戻らない。
腕も、脚も。
それでも命だけは、そこに残っていた。
ヴェイダルは血に濡れた手を見る。
彼女を救った。
……いや、本当にそうなのか。
分からない。
ただひとつ確かなのは。
もう後戻りはできない、ということだった。
↓NEXT

コメント
過疎ってて草
よくこんなんで続けられたな
そうですね、始めてからしばらくはアクセスゼロでした。
数人、とかでもなく本当にゼロ。
でも書きためていたので投下していくしかなかったんですね。
続けていくうちにぽつん、ぽつんとコメントを貰えるようになって…初期からコメントしていただいている方には頭が上がりません。感謝しかないです。
おおーっ内容が増えている・・・
イラストに釣られてきましたが文章も増えているのがいいですね。
正直ヴェイダルは何を考えているのかよくわからない人でしたが(!)葛藤が読み取れるようになりました。。
獣魔の再生能力と再生を止める聖女の方力のせめぎあいが熱いです。
また見ていただいてありがとうございます!
そうなんです、プロローグがさっぱりしすぎているな、と気になっていたので…
イラストとともに内容を厚くしました。
ヴェイダルがどういう人なのかももう少し掘り下げたいな、と。
結構大事なキャラクターなので…。
「神聖と禁忌が、同じ寝台の上で噛み合った」等、表現の一つ一つが素晴らしいです。
正に、人外の法のタイトルに相応しい。
構想にようやく文章が追い付いてきた感じでしょうか。
ちょっとサッパリしすぎてるなというのはずっと気になっていたので…
あとリンカージェ登場からいきなり成長してるので、もう少しそこも簡単でいいから説明したいなと。
読み返すといろいろ粗が見えてキリがないです笑
ガルズレムを屠る為、ゾルフレッド自ら創り出した神鉄の剣。
再生力を奪う特別製の剣に斃されてもゲートニグの細胞は活動を続ける。
大元の存在がいる限り獣魔は殺されてなおその肉体は不滅なのか、原初の獣魔はただの大型獣魔ではなかったのか。
絵も文章も魅力を増したリメイク版は【聖女BLITZ Additions (revision reboot revive restart)】といったところでしょうか。
斬撃のあたりは再生が止まるんですが、全身には法力が行き渡ってない、というところでしょうか。
ゲートニグ、めちゃデカイですし笑
大本の存在が倒れても獣魔は全然元気だったりします。
人間が発見したのがゲートニグが最初というだけで、他にもいたりします。
若干のホラーみがあっていい。ヴェイダルもいい人そうにみえて「歪んで」いるわけで。。
そうなんです、ヴェイダル博士もやっぱりどこかおかしいのです。
マッドな雰囲気を出したくて、こんなイラストになりました。
新しい話が増えるだけでなく書き増ししているだと・・・!?
プロローグは全面改修しました!
いきなり世界観設定の説明ばかりしていたので…
それでも読んでいただけた方には頭が上がりません。
獣魔細胞への拒絶反応を抑える法力が感染症をも防いでいたと考えると、重傷を負った聖女の生存率が向上しますね。
致命傷を負い意識が戻ったら酷い傷で生かされていた、という方が想像したくない残酷な状態ではありますが…。
侵食してくる獣魔を聖女の力が抑えた…!
ということなんですが、感染症はコワイですね!
小説版の時はそこまで意識してなかったんですが、実際絵にするとすごい凄惨で…今更なんですけども。