開戦の狼煙

大気が鳴動する。
それが獣魔の咆哮であることは明らかだった。
遠目にもエルゼナグが覚醒したことがわかる。
黒々とした巨体の周りに炎が渦巻いていた。

「なるほど、あれか」
ユゼルテスがバイザーをずらして視認する。
単純なサイズはもちろんのこと、体から発せられる圧力が段違いだった。
法王ディメウスが他国への救援を提案するのにも納得がいった。

「やはり聖女皇様の意識は無いようだな」
アムネズの声には悔しさがにじみ出ている。

「完全に起きてるッスよね……いったん帰ります?」
ファズニルは渋々ながらついてきていた。
地下神殿で不用意に祭壇へと近づいたのは自分なのだ。
それなのに、アムネズは封印が解けたのは自らの責任だと思っている。
放っておくことはできなかった。
……が、早くも後悔し始めていた。

エルゼナグが体を反らし、大きく息を吸い込んでいる。

「まさか、この距離で撃つ気か?」
眉をひそめながらユゼルテスがつぶやく。
まだ両者の間は50メートルほど離れている。
吸い込まれた周囲の神気が獣魔の体内で魔力へと変換され、熱線として吐き出された。
凄まじいエネルギーが光となって放出された。

「面白い!」
ユゼルテスは熱線をかわすと山なりに飛翔し、一気に間合いを詰めた。
間近で見るエルゼナグの体は表面に赤い光の筋が走り、禍々しい棘と鱗で覆われていた。
槍のごとく突き出された尾をかわした先に、鋭利なかぎ爪が振り下ろされる。

「まずは力比べだ!」
渾身の念動力を込めて振り上げられた槌型のブリッツが、エルゼナグの手首に直撃した。
金属の塊をぶつけ合ったような、鈍い音が響き渡る。
10分の1にも満たない人間が振るう鉄槌に弾かれ、エルゼナグは驚いたように目を見開いた。

「もお~いきなり突撃しないでよ!」
遠間から攻撃バフを付与したファズニルが叫ぶ。
動機がおさまらない。
無鉄砲な聖女は何人も知っているが、ユゼルテスは輪をかけて命知らずだった。

無言のままアムネズも斬り込んだ。
ファズニルのバフ付与があれば、攻撃は通るようだった。

超重量を誇る槌の打撃と、回転する刃の斬撃。
それらを振り払いながら、エルゼナグは尾を操り、引っかきと噛みつきによる攻撃を繰り出す。
巨体にもかかわらず恐ろしい速度で動き、勢いが弱まることもない。
その体力は無尽蔵と思われるほどだった。

こう着状態が続いた後、エルゼナグの振り回す腕がユゼルテスをとらえた。
とっさに槌で防御するが、その勢いは殺せない。
上腕に激痛が走った。
そのまま後方に吹き飛ばされる。

「ユゼル————!」
駆け寄ろうとしたアムネズにしなる尾が襲いかかった。
鋭い風切り音が鳴る。
ファズニルが念動力でアムネズの体を突き飛ばす。
それでも、尾の先端が脚を打った。

「くっ……!」
アムネズが苦悶の表情を浮かべる。
すね当てが砕け、露出した脚は紫色に変色していた。
骨が折れたようだ。
動きが鈍ったアムネズに向けて、エルゼナグは大きく口を開けた。
舌の上に炎が集まり、火球が作られていく。

燃え盛る火の玉が吐き出される寸前、エルゼナグの側頭部が爆発した。

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逆襲の金猫
爆発で生じた煙の中に人影が見える。 風がその姿をあらわにした。 金色の髪が揺れる。

コメント

  1. 匿名 より:

    おー!かっこいいですユゼルテス。いまのとこ一番好きかも。
    わきのところは開いてたんですねw
    強気発言が目立ちましたけどたしかにこれなら自信満々にもなるかも。
    エルゼナグの頭を爆発させたのはシューターの誰かでしょうか??

    • akima より:

      お気に入りのキャラなので力が入ってしましました笑
      わきのところはちょっと開いてます。涼しそう。
      エルゼナグの側頭部を攻撃したのはシューターですね。
      次回登場します!

  2. 匿名 より:

    斥候というか威力偵察になっていますが、速度・防御のバッファーやディフェンダーは来ていないのでしょうか。
    いよいよレイズウォルの登場と思いきや、紹介済みのメンバーにはシューターがいないみたいですね。
    イゼは様子を見ている…?

    • akima より:

      威力偵察!確かにぴったりですね。
      眠ってたらそのまま様子を見るつもりだったんですが…
      ユゼルテスは奇襲を仕掛けそう。
      まさにボスキラーのレイズウォルが適任なんですが、実は同時期に海上要塞も交戦中だったりします。
      イゼたちは首都ウクトを守って、もし斥候隊がやられたら迎撃するつもりですね。

  3. 山内禅定 より:

    動きがあるイラストで好みです。
    ユゼルテス…最初から殺る気満々w
    ニ章も大詰めといったところでしょうか。
    続きも楽しみにしています。

    • akima より:

      躍動感を出すのは難しいです。
      ユゼルテスは私の当初の想定より大暴れしてくれています。
      勝手に動き出す感じで。
      ニ章もあと数話になります。
      読んでいただけると嬉しいです!

  4. 匿名 より:

    武人タイプの喋り方二人との会話にッス語尾が来るのがよき。打撃は通じてるみたいですけど早速ピンチ。増援はシューター?

    • akima より:

      ちょっとかぶってますよね。
      強い女大好きなのでどうしてもこの話し方になってしまいます。
      ユゼルテスの打撃はエルゼナグにも通用するレベルなのですが正面からやり合うにしては体力差がありすぎ状態です。
      援軍にかけつけたのはシューターです!

  5. 匿名 より:

    大型獣魔から殴られたらきほん防御する方法ってないん?
    ノーダメは回避するしかないんか

    • akima より:

      念動力で押し返す、というのがセオリーですね
      でも大型獣魔だとパワー負けしてふっ飛ばされます
      ノーダメージは無理かな?
      聖女の中で防御最強のパルゼアならなんとかという感じです
      回避するにこしたことはないです