「オラオラぁザコども!どんどんこい!どんどん!」
薄いピンクの髪を振り乱して、ノルディズが獣魔たちを斬り裂く。
彼女を中心とした半径3メートルほどの空間は、大剣型・斧型のブリッツが飛び交う殺戮地帯となっていた。
砂浜に黒い血が染み込み、波によって広げられていく。
小型獣魔、といっても体長5メートルはある。
丸太のような腕の先には刃物のごとき爪が並び、掴まれでもしたら人間などひとたまりもない。
グウォルフと名付けられた小型獣魔たちは獣のような吠え声を上げながら、海から街へと向かっていた。
その数7体。
経験を積んだ聖女なら単体に苦戦することはないが、これだけの群れとなれば話は別である。
天啓を受けてわずか1年しか経っていないにもかかわらず、ノルディズは3体目の獣魔の眉間を斧で叩き割っていた。
しかし、残った獣魔も続々と海中を歩いて向かってくる。
「一度退け」
頭の上から低い声がした。
空中で神気を取り込んでいたオルゼトは、速射砲とロケット砲型のブリッツを展開させた。
後ろに跳んだノルディズめがけて、4体の獣魔が突進する。
連続する破裂音とともに、雨のような銃弾が浴びせられた。
ひるんだ獣魔の1体に追加の砲弾が直撃し、轟音が鳴り響く。
周囲は爆風に包まれた。
炎に巻かれた獣魔たちが奇声をあげ、前のめりに倒れていく。
爆風に込められたオルゼトの念動力が自己再生能力を阻んでいた。
しかし1体のみが身体を海に潜らせ、消火を試みていた。
「させるかよ!」
ノルディズが跳躍し、潜った獣魔めがけて斧を投げる。
刃先が空を切り裂く音がした。
しかし再び海面から姿を現した獣魔は、斧を硬い外皮に覆われた腕で払い除ける。
炎はすでに消えていた。
その姿はさきほどまで戦っていた小型獣魔と少しだけ違っている。
「コイツは……!?」
意表を突かれたノルディズに向かって毒液が吐きかけられた。
右肘から肩がしびれるように痛む。
またたく間にノルディズの右半身は麻痺していた。
念動力によって浮いていた大剣型のブリッツが、音もなく地面に落ちる。
神経毒が皮膚を通して血液中に混ざり、体内を駆け巡っていく。
毒を吐いた獣魔は動けないノルディズに向かって腕を振り上げた。
オルゼトがノルディズの元に急降下する。
抱きかかえて飛ぼうとする瞬間に、横薙ぎの一撃がふたりを襲った。
「ぐ……! うぅっ!」
オルゼトがうめく。
念動力で防御はしたものの、上腕と肋骨は折れただろう。
鋭い痛みが上半身を駆け巡る。
吹き飛ばされたふたりは、砂浜に叩きつけられた。
ノルディズはぐったりとしたまま動かない。
毒と衝撃のショックで失神しているようだ。
ゆっくりと歩み寄る獣魔が怒りの声をあげる。
自らの身を焼いた聖女を睨んでいた。
オルゼトはゆっくりと起き上がり、装備を確かめる。
ロケット砲はさきほどの一撃で海中へと沈んでしまった。
手元に残った1機の速射砲型ブリッツは幸いにも壊れてはいなかった。
「ちっ……。ツイてないな」
呼吸を整えながらオルゼトがつぶやく。
残った速射砲の残弾数はゼロだった。
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コメント
小型獣魔相手と言えど苦戦する描写があると戦闘の緊迫感が出て良いです。
モブ聖女が従者の様に予備の武装を運搬・射出して補給を担当したリ、負傷した聖女を迅速に後退させる衛生兵的役割を担当すると(それだけの人員がいれば)主力聖女が十全に戦力を発揮できる環境になるかもしれません。
基本、獣魔は人間より遥かに強いので油断するとすぐ窮地に追いやられてしまいます。
なるほど、サポートしてくれる聖女がいればもっと余裕を持って戦えますよね!
予備の武装を運搬とかすごい助かるなぁ。
衛生兵的な聖女はいるのですが、今回は登場しませんでした。
法力の偏りが酷く技術を要する戦闘への適性は低いものの、重量物への念動力が抜きん出ている輸送担当【キャリア―】。
剣➔盾など、装備の換装が出来れば聖女の技術・適性次第で柔軟な戦術を展開できるのではないでしょうか。
・前哨戦の小型獣魔に対応して小回りが利く武器を消耗、続いて現れた中型以上の獣魔に通る威力重視の武器に変更。「レイピアが折れたか、クレイモアを出せ」
・手持無沙汰に見えてしまうディフェンダーが射撃武器で牽制。(自前で用意可能)
いくら兵站を整えても法力回復手段がないと肝心の聖女が潰れてしまいますね。
なるほど~!
運んでくれる聖女いいですね。
ディフェンダーももっと活躍させたいと思ってます。
法力の回復手段は実はオーゾレスが持ってたりします。
分け与える、なので無限ではないのですが、集気法で回復しつつ、なんてのもできます。
まだ出てないんですけども笑
法力分与というとソードワールドのトランスファーメンタルパワーみたいですね。
リンカージェの再生細胞が特異な能力として取り上げられていますが、聖女らしく回復魔法に似た物があると便利です。
・意識を失う様なダメージによるショック症状を一時的に抑えて戦闘を継続させる。(撤退もままならない状況で止めを刺される事を防ぐ為、安静にするべき戦闘不能者を無理やり稼働させる)
・自然治癒力を外部からも高めて重傷者の戦線復帰を早める。(全治3か月を3週間で治す)
※特別性を強調する為、戦闘中に傷を治せるのは獣魔の再生能力のみ。
トランスファーメンタルパワー…そういうのがあるんですか!
回復は度合いをうまいこと調整しないと、戦闘に緊張感がなくなるので難しいですね。
全治3か月を3週間で治す、はいいと思います!
その場で大怪我が治っちゃうと、どうせ治すんだろうなってなっちゃうので。
獣魔の再生能力もうまいこと取り込みたいですね。
ノルディズの目隠しデザイン変わってませんか?
そうなんです、前回のチクチクしたやつは微妙だなと思って…
キャラクター紹介のページも差し替えいたしましたm(_ _)m
https://seijyoblitz.com/169.html
仮面型の刺々しい金属バイザーはとがった部分が顔に当たると痛そうに見えていたので、顔立ちを柔らかくより魅力的に際立たせる良い変更だと思います。
額(前髪の下)に装着したサークレットやティアラからシャッターの様に布を垂らして法力で顔に密着させると開閉がより簡便になる気がします。
(金属片を眼前に微妙な力加減で滞空させ続けるのは集中力リソースの無駄遣いに思えて)
金属製バイザーは防具的な役割も果たしたり…
で、強そうな女を演出する上で気に入ってます笑
でも布+装飾も今後はたくさん作っていきたいです!
本編が!進んだ!
それはさておき小型の獣魔といえど数が多いと苦戦するものですね。
ノルディズは最初調子よさそうだったのにな~。
すいません、サブストーリーが多すぎて…
思いついたら書き留めておきたいタイプなんです。
小型獣魔も複数現れると苦戦します!
ノルディズも序盤は無双モードだったんですが、一瞬の隙が命取りになってしまいます。
この調子で本編すすめちゃってくださいな
リガレアだけ長い気がするー
そうですね、急ぎます!
けっこう書きためてたんですが、途中で路線変更してしまいまして…
毒の獣魔がやっと出てきた。なにげに初ですよね。獣魔の紹介画像からずいぶん時間がかかりましたねー。いろんな攻撃をしてくる獣魔の登場を楽しみにしてます。
そうですね、お初です!
電撃・炎、と直接的な攻撃が目立ちましたが、毒を使った搦め手系の獣魔も出したいなと。
構想だけはたくさんあるんですけどね~
搦め手と言えば、空戦主体の聖女は蜘蛛の巣の様なネットに弱そうですね。
海底の圧力に耐える獣魔が圧力を変動させる能力を備えていれば、加圧・減圧の範囲に補足した聖女を昏倒あるいは知覚・運動障害で戦闘不能という事もありえます。
(悪くすると即死攻撃なので、法力防御を超えた分は行動阻害の塩梅)
外見イメージは海底に生息する貝やヒトデなど鈍重な生物を大型化した感じでしょうか。
真空や火焔による無酸素も瞬時に意識を刈り取れます。
言われてみれば網には弱そうですね。
基本飛びながら移動してるところがあるし…
あと防御・耐久は高くないので身動きできないとすぐに倒されちゃいます。
貝やヒトデ型の獣魔も面白そうですね!
・獣魔が磁性を持つ鉱物を大量に摂取したリ、体内電流によって強い磁力を発生させてBLITZを阻害。
・植物、茸タイプの胞子で幻惑・同士討ち。
・巨鳥の羽ばたき、サンドウォームが吐き出す「ハブーブ」クラスの砂嵐でシューターを始めとした機械系BLITZの故障。
・脳波に干渉する周波数の電気信号を送り込み、夢や幻覚を見せる事で正しい情報を認識できなくさせる。
・毒素を広範囲に散布して、攻撃に気付かない内に酩酊状態となって正常な判断が鈍り運動の正確性が損なわれる。
いやらしい状態異常で聖女が苦戦、窮地に陥る場面をもっと見たいです。
茸タイプも恐ろしいですね!
BLITZは獣魔にとっては阻害したい対象ではあります。
獣魔側も進化してくるとまた激化しますね、戦いが…!
毒や幻覚など怪しい系は登場する予定になっています。
パワー勝負以外も書いていきたいですね。
オルゼトは軍人ぽくていいね
各キャラクターへの名前のリンクも復活させてほしい
黙々と任務を遂行する、ってカッコイイですよね
キャラリンク追加しました!
忘れてました…!
皆レガリアの新ストーリーが楽しみらしくコメントが多いですね。
麻痺、負傷、意識不明、武器喪失、弾切れとピンチのオンパレードで次回への注目が高まります。
神気を集めた荷電粒子の弾丸を打ち出せれば切り札になりますが、速射砲の構造とオルゼトの法力では厳しそう。
戦闘不能に追い込む麻痺毒は危険な一方、レギュラーを比較的安全に窮地に追い詰める便利な攻撃です。
・ヒュドラ:触れた土地の空気、吐き出す吐息を吸うだけで苦しんで死ぬ。解毒方法無し。
・バジリスク:視線・吐息に触れた者は生物・無機物問わず毒気で石化し砕け散る。
返り血に触れた手足は腐り落ち死に至る。
・モルボル:おぞましい外見から繰り出される状態異常の数々。
・FF:集団の群れが立て続けに放つ全体混乱・麻痺、石化・即死のコンボ
嫌な攻撃の先駆者は色々参考になります。
リガレアの話も書ききってから投稿したら良かったのですが、見切り発車してしまいました笑
麻痺毒系は出しておきたかったので書けてすっきり
モルボル怖いですね…状態異常が重なるなんて
防御・回復方法も用意しないといけませんね