日暮れが迫る南の城門は、一帯が焦げたような土ぼこりに包まれていた。
魔導巨兵の巨体が鈍くうなりを上げ、今にも門を破壊しようとしている。
その前に立ちはだかっていたのは、擲弾銃を手にした聖女ゼフィナ。
淡く赤紫に輝く宝石が埋め込まれたブリッツは、彼女の念動力に呼応し、かすかに震えている。
「やっぱりまたあなたなの? 懲りない人ね」
ゼフィナが、気だるい口調で笑う。
「やられっぱなしは性に合わないからな――っと!」
ベルナズがいい終える前に、敵意むき出しのままゼフィナが擲弾を撃ち込む。
爆音とともに爆風を舞った。
あわてて後方へ飛んだベルナズだが、逃げた先にも擲弾が配置されており、またしても爆発が起きる。
激しい衝撃波が門の石壁を揺らし、巻き上がる砂塵のせいで感応力が鈍っていく。
「ケッ、いきなりかよ!」
ベルナズは4機のブリッツを展開し、かろうじて次の擲弾を撃ち落とす。
しかし、ゼフィナはさらに幾つもの擲弾をたくみに操り、爆風の流れでベルナズを追い立てるように仕掛けてくる。
ぶわりと巻き上がった煙の壁が逃げ場をふさぎ、火をふくような爆発音が途切れることなく響いた。
「これでもう逃げられない……でしょ?」
ゼフィナの声はどこか楽しげで、獲物を追い詰めた狩人のようだった。
実際、爆風による圧迫感と強い振動で、ベルナズは姿勢を崩してしまう。
「調子に乗りやがって…!」
ベルナズは飛んでくる擲弾を空中で撃ち落とすべく、ブリッツを忙しく操作した。
何発かは成功して大きな爆発を相殺できたものの、内心は焦りを感じていた。
――このままじゃ、防戦一方で終わるな。
覚悟を決めたベルナズは、乱戦のなかで相手の動きを観察していた。
ゼフィナが擲弾を撃ち込むたびに、ブリッツにすえられた赤紫の宝石が脈動するように光っている。
爆風と同時に、彼女の感応力が一段高まる様子が見えた。
「そういうことか。だったら――」
「ははっ、しぶといけど、もう終わりよ!」
ゼフィナは擲弾を多面的に飛ばす。
爆風がさらに拡大し、空気が肌を突き刺すような圧力をもたらした。
音が耳鳴りになるほどに増幅する中、ゼフィナの宝石がひときわまぶしく輝いた。
――今だ!
ベルナズはベルトに仕込んでいた照明弾をゼフィナに向けて放つ。
次の瞬間、あたりは閃光と轟音に包まれた。
「くっ……ああっ!?」
感応力を高めていたゼフィナの感覚は、いずれも通常時の倍以上に鋭敏になっている。
まぶしさと鼓膜を貫く大音響で身体がこわばり、念動力が一気にゆるんだ。
擲弾は統制を失い、周囲へばらばらに落下していく。
「スキだらけだぜ」
ベルナズは素早く銃を構えると、ゼフィナの擲弾銃を正確に撃ち抜いた。
甲高い破砕音を立てて、唯一の武器が砕け散る。
「あ、ああ……!」
衝撃と閃光から回復しきれぬうちに、ゼフィナは攻撃手段を失った。
体を起こそうとするが、目の前には銃を突きつけるベルナズが立ちはだかる。
「次は、当てるぜ。どうする?」
ベルナズの声は冷たいが、どこか勝ち誇った響きが混じっている。
「くっ……わかったわ。参った……」
ゼフィナは疲れ切った声でそうつぶやき、弾け飛んだ武器の残骸を見下ろす。
ベルナズはその姿を確認すると、銃を少し下げた。
「てこずらせやがって……。ま、城門を壊す前に止められたし、よしとするか」
「ふん。私たちも十分に仕事はこなしたわ」
うつむいたままゼフィナが言う。
――やっぱ、こいつらは足止め役ってことか。こっからが本番だな。
ベルナズはバイザーを外し、王城の方角を見た。
すでに日が沈みかけている。
静まり返った空に、夕闇を知らせる夜の風が通り過ぎていった。
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コメント
閃光弾けっきょく使わんのかい!と思ったらここで活躍するとは
実はちゃんと携帯してました!
これがベルナズ流の活用法。
爆煙、轟音、閃光、砂嵐、霧…悪環境に影響を受けないとばかり思っていた感応力に意外と弱点あり。
ゼフィナは強力な武装に慢心して優勢な戦況を楽しんで決着を引き延ばしていた様に見える。
予備の銃を調達できなければゼフィナは大幅弱体化。
重く強固な檻に収監できれば一応拘束可能なものの、人手不足の状況で1線級の聖女が牢まで連れて行く時間が惜しい。
今にも門を破壊しようとしていた魔導巨兵の攻撃に耐え続けた城門は意外と頑丈。
いろんな情報が一気に頭に入ってくるのですが、処理性能が上がっているわけでもなく。
情報が増えすぎるとかえって戦闘には不利になったり。
ゼフィナは擲弾が尽きなければ戦えますが、それだけでベルナズには勝てない、と判断して投降です。
城門、がんばりましたね笑
>擲弾銃を手にした
がニ回あるのくどくね?
あうっ
本当だ…ありがとうございます!
直しました!
ベルナズの銃って手で操作してたのか
手で操作することもあり、念動力だけで撃つこともあります!