重なる暗雲

「わざわざ誘いに乗ってひとりで出向くなんて。ベルナズ!あなた、自信過剰にもほどがあるわ」
めずらしく感情を露わにしながら、ジグナがたしなめる。

「うっせーなぁ。ちょっと油断しただけだろ」
「その”油断”のせいで何人の聖女が命を落としたか。知らないわけじゃないでしょう!」
淡い夕日の光が高い窓から差し込むだけの、がらんとした王城の広間。
聖女たちが集まるこの場所は焦燥感に包まれていた。

「まあまあ。わたくしのお陰で事なきを得たのだから。これからどうするかを考えましょう」
今にもつかみかかろうとするジグナを、間に割ってはいったベルザリアが抑える。

「あぁ!?邪魔しただけだろうが、てめえ!」
格下と侮っていた無名の聖女に遅れを取ったことは、ベルナズのプライドを大いに傷つけた。

「ああ~もう、いちいちケンカしないでよぉ。みんな一度落ち着いてってば」
たまらずパルヴァズが仲裁に入る。

どこに敵が隠れているかわからない、というストレス。
さらには、指導者であるヴィゾアの不在は少しずつ聖女たちの余裕を削り取っていた。

「ふう…熱くなってごめんなさい。パルヴァズの言う通りね」
ジグナが自分を落ち着かせるように言う。
「そのゼフィナという聖女は宝石の力を試していたんでしょう。そして、十分な手応えを感じていったん退いた。ということは――」

「攻勢に出るでしょうね。エザリス王国の聖女とも十分に戦えることがわかったんですもの。ただ、いつどこから攻めてくるかはわからない。夜襲に備えて見張りを増やすべきね」
ベルザリアが腕を組み、その細いあごに指をあてた。

そして――突如として轟音が割り込む。
大理石の壁を揺らすほどの衝撃が走り、大きな窓からオレンジ色の光が一瞬きらめいた。
石柱が立ち並ぶ広間に、その爆発音だけが虚しく反響していく。
けたたましい音を立てて、扉が開け放たれた。

「みんな、出動よ! 東と南の門から同時に火の手が上がったの。魔導巨兵らしき影も見えるわ!」
血相を変えて飛び込んできたのは、大剣型のブリッツを携えた聖女 ガルフィズだ。
後ろで束ねた艷やかな金髪が、呼吸にあわせて揺れている。
沿岸の守備を後輩聖女に任せて王城へと戻った彼女が見たものは、門の上から立ち上る爆煙だった。

「休む暇も与えないってか。上等じゃねえか。面白くなってきやがった」
ベルナズはそうつぶやきながら、口元をかすかに吊り上げる。
その勝ち気な笑みには、これから起こる混乱をまるで歓迎するかのような余裕さえ漂っていた。