神の血脈

幼いコルゼティは、真冬の冷たい風が吹き荒れる夜、熱に浮かされてベッドに横たわっていた。
頬は真っ赤に染まり、小さな額には冷たい布が置かれている。
しかし、高熱のせいで彼女の体はどんどん熱を帯び、布もすぐに温まってしまう。

「大丈夫、心配しないで。コルゼティ」
母が耳元でささやく。
手を握り返してきたその掌は、冷たくも温かくもなく、ただ震えていた。
「あなたは神の生まれ変わりなのだから。きっと乗り越えられるわ」

その言葉に安心したのか、コルゼティは母に向けて弱々しい笑顔を見せたが、すぐに目を閉じた。
彼女の意識は次第にぼやけていく。

すると、不思議な光景がまぶたの裏に浮かんできた。
金色の光が差し込む暗闇の中に輝く立ち姿。

その女性は、まるで夢の中から現れたような、幻想的な姿だった。
「……女神……?」
小さくつぶやくコルゼティの言葉に応えるように、女性はしずかに微笑んだ――

翌朝、目を覚ましたコルゼティは、夢が現実だったのではないかと思うほどに体が軽くなっていることに気づく。
昨夜の高熱はウソのように消え去り、彼女はむくりと起き上がった。

「お嬢様!」
「なんということでしょう!」
驚きと喜びの声をあげる付き人たちを横目に、コルゼティは確信していた。
あの夢はただの幻ではない。

自分は「神の生まれ変わり」なのだと。

その日を境に、コルゼティの周囲は彼女を褒めそやす言葉で満ちあふれるようになった。
コルゼティが何をするにも、付き人たちは口々に「さすが神の生まれ変わりです」と称賛する。

その声に、彼女は疑うことなく信じ始める。
自分は特別な存在なのだ、と。

しかし、それから間もなくしてロイヴェスト家に暗い影が落ちる。
コルゼティの父、アウルヴィンが病に倒れたのだ。

辺境の地と呼ばれるエザリス王国の最南、アズカー地方に追いやられてからというもの、彼の目にはかつての誇りや野心の輝きはなくなっていた。

ロイヴェスト家は古くから『神の血筋』を引くと言われる名門であり、彼は自分こそが王の座に最もふさわしいと信じていた。

しかし、現実は冷酷だった。
エザリス王国の中心から遠ざけられた彼は、国の中枢に対する憎しみを抱えながら病床で静かに息を引き取った。

その死の知らせを受けたコルゼティの心には、喪失感と怒りが渦巻いていた。
どうしてこんな扱いを受けなければならないのか。
なぜ正当な血筋であるはずの父が辺境で命を落とさねばならないのか。
彼女は王国に対して、深い憎しみを抱き始めた。

それから数年後、15歳の春のことだった。
朝日が差し込む静かな庭園で、コルゼティはふと足を止めた。
まるで時間が止まったかのような静寂の中、空から光が降り注いできたのだ。
厳かで、美しく、あたたかい光だった。

「これは――」
驚きとともに光をあおぎ見たその瞬間、彼女の全身を何かが包み込むような感覚が襲った。
次第に胸の奥からわき上がる確信が彼女を支配していく。

「天啓…神に、選ばれたというの?」

その日、コルゼティは天啓を受け、聖女としての力を授かった。
だが彼女にとって、それはただの使命ではなかった。
彼女自身の『神格』を証明する瞬間だったのだ。

コルゼティは、神の祝福を受けた自分こそが、エザリス王国の真の支配者にふさわしいと確信した。
そして、その信念はゆっくりと、しかし確実に大きな反逆の炎へと育っていくのだった。

NEXT↓

荒涼たる大地
灼熱の日差しが、アズカー地方の鉱山を照らしつけていた。 荒涼たる大地に吹きつける風は乾いて熱く、中央の華やかな貴族生活とはまるで別世界のよ...

コメント

  1. 匿名 より:

    ママンはやさしい人だけど変な思想に毒されているのか
    それとも元気づけるために思想を利用したのか
    どちらかで印象が大きく変わるな

    • akima より:

      8:2ですかね…
      お父さんの方はガッチリ神の血筋、ってところを信じていたので徐々に影響されて信じていたというか。

  2. 聖剣の目隠し乙女 より:

    コルゼティ父が失脚した理由は王族の権力争いか、それとも教皇庁によるものか。
    「神の一族」の神がアズトラ以外を指していたら教皇庁には都合が悪い存在ですね。
    エザリスの国王と聖女王は同一の役職でしょうか?
    国王は世襲が基本とすると、大貴族ではあっても王族ではないヴィゾアの「聖女王」は新たに設けられた称号なのでは。
    天啓まで特別な力を持っていなかった神が神に選ばれ神の祝福を受ける…ロイヴェスト教の思考回路怖いw

    • akima より:

      もちろんみんな大好き教皇庁です笑
      中央から有力な貴族を辺境に飛ばして、中央は自分たちで牛耳るという。
      ザクネルは辺境にアズトラ教徒を増やしたかった、という狙いもありますが…

      エザリス国王は聖女王と同じです!
      もとは国王だったのですが、新たに即位したヴィゾアは聖女だったので「聖女にして王」という意味で初の聖女王という役職が生まれました。

      ロイヴェスト家は自分たちが神の子孫で人間の中では最高に尊い存在!
      みたいな思想を受け継いでいて、まあ、ちょっと思い込みが激しい人たちなんです笑

  3. 匿名 より:

    『神の血筋』をひく人間が

    天啓で神の力を使えるようになって

    もしかして生まれ変わりどころかワタシが神そのもの!?

    きっとそうだわ!

    …ってコト!?

    • akima より:

      半信半疑だったのですが、神の奇跡に直接触れたことで思い込みが強化されていったわけですね。
      夢の中で見たのがせん妄による幻覚なのか、それとも神の啓示だったのか…
      天啓自体は本当に神からの啓示なんですけども。

  4. なげーよ より:

    やっとコルゼティが出てきたか
    前章の引きはちゃんと説明されるのか・・・?

    • akima より:

      面目ないです_(┐「ε:)_
      これから活躍してくれますんで…
      前章の引きについてはご説明いたします!この章で!

  5. 匿名 より:

    いつのまにか六章がはじまっていた!?明日も休みなので読ませてもらいますヨッ

  6. 匿名 より:

    神って別次元に旅立ったんですよね。子孫は残った?別の神もいるのかな

    • akima より:

      この伝承自体が本当のことなのかアヤシイものでして。
      別の神もいますよ!