静寂に満ちた狂気

「その子をどうするつもり?」
暗闇から女の声がした。
盗賊たちは身構えながら、攫ってきたばかりの少年を見る。
薄汚いベッドの上で、穏やかな寝息をたてて眠っている。

「なんだテメエ、どっから入ってきやがった」
「いいから答えて」
暗い廊下にたたずむ女の声には怒気が含まれている。
まだ若い女の声だ。
盗賊たちは安堵した様子だった。

「どうって、俺たちは何もしねえよ。なあ?」
くたびれた長椅子に座っていたガラの悪い男が、短剣を手にして立ち上がる。
「子ども好きの金持ちに買い取って貰うのさ。悪い話じゃねえだろ?」
下卑た笑い声が埃っぽい部屋にこだました。

「そう」
女は足音をたてずに部屋に入る。
灯に照らされたその目元は、黒いバイザーで覆われていた。

「なんだぁ!? お前、もしかして聖女か?」
女は答えない。
代わりに腰に差した黒い剣がひとりでに鞘から抜き放たれ、宙空に浮かぶ。
「お、おい待て! 尊い聖女サマがよ、俺たち一般人に刃を向けるってのか?」
「わかったから、剣をしまってくれ。俺たちの話を聞けって!」

――――――――――――――――――――

「それで、おじちゃんたちどうなったの?」
「ウエーンって泣いてたよ。もうしませ~ん、ゴメンなさ~いって」
少年を抱いたまま、ルジエリは大げさに泣く真似をしてみせた。
石畳が敷き詰められた街道の先に、孤児院の灯がうっすらと見えている。

「でも本当に危なかったんだよ。どうして知らない人についていったの?」
「おじちゃんたちが『ママに会わせてくれる』って言うから…」
少年は寂しげに目を伏せた。

「そっか。でも、これからは勝手について行かないで。約束だよ」
「うん! ゴメンね、おねえちゃん」
ルジエリは愛おしげに少年を抱きしめる。

「いいんだよ。いつだって、どこにいたって……貴方たちはおねえちゃんが絶対に守ってあげる」

――――――――――――――――――――

翌朝。
通報を受けた警備隊は盗賊のアジトに踏み込む。
彼らを迎えたのは、苦悶の表情を浮かべたまま血溜まりの中に転がる3つの生首だった。

コメント

  1. Teijin より:

    いかにも聖女ブリッツという話で気に入っています。
    ルジエリは一見子ども好きの善人に見えますけどやっていることは殺人です。
    しかもわざわざ『苦悶の表情を浮かべたまま』と書いてあることから苦しめて殺したことがうかがえます。
    無表情で死なない程度に切り刻む姿も想像できます。
    どうして残酷なことができるのかというとルジエリははっきりとふたつに分けているから。
    自分が大事に想っているものは命がけで守る。そうでないものは惨殺しても構わない。
    この極端さがルジエリの魅力であり作者さんが書きたいものだと思います。
    子どもを守るためなら人をたくさん殺してもかまわないのか?
    罪人なら殺してもいい?そんな世界観には見えません。
    エゴ丸出しの彼女が裁かれる時は来るのでしょうか。

    • akima より:

      ありがとうございます。
      結構初期に書いたものですが、ルジエリは構想が固まっていたキャラです。

      書いていただいた通りで「人は自分が大事に思うものだけを優先する」という部分を描いています。
      人間って、保護したい対象とそうでないものに対しての温度差がすごいですよね。(私もそうですが)

      聖女はみんなか弱い少女として生きていく中で、突然神から選ばれて強い力を手にします。
      その影響で精神的に歪みが発生するはず、という考えからみんな少しずつ狂いがあります。

  2. 匿名 より:

    現実の世界ではルールを破り思い通りにならないとたちまち暴力に訴え喚き散らす輩に直面する事が幾度となくあります。
    過剰防衛に問われる心配なく悪人を蹂躙できるシンプルな勧善懲悪は実にスカッとします。
    ルジエリが守り助ける事で育まれた人々と幸福に暮らせる日々が無事訪れる事を楽しみにしています。

    • akima より:

      ルジエリの行動が善か悪か、あるいは両方か。
      線引きは人によって違うと思います。
      残酷な世界でも弱いものを守ろうとする人はいて欲しいですね。

  3. 匿名 より:

    盗賊「待ってくれ!俺達は教皇庁に頼まれただけなんだ‼」
    教皇庁奴隷貿易部門「チッ失敗したか。使えん奴らめ!」
    教皇庁某部署「人体実験の部品が足りん。補給はまだか!」
    司教たち「麻呂を愉しませる御子は何時届くでおじゃるか?病気持ちはいかぬぞえ?」

    • akima より:

      教皇庁もさすがにそこまでは!なぜ麻呂!?
      あと子ども好きのお金持ちが本当にただの子どもを大事にする資産家だったりして。

      • 匿名 より:

        奴隷売買をしていないとしたら、某c教より健全ですね(笑)
        養子が欲しければ、もう少し選り好みできる場所で自ら目利きするはずなので…。
        悪役らしいクズ台詞を集めて悪ノリしてみました。
        麻呂に関しては娼婦・男娼を侍らせるオカマ言葉の司教をイメージしました。
        盗賊「あ、あんただって教皇庁の意向に逆らったら色々不味いんだろう?へっへっへっへっへ」

  4. 匿名 より:

    「ル ルジエリか……。 私は、もう駄目だ。いいか、よく聞け。世界のどこかで獣魔の帝王が復活しつつあるらしい。しかし密偵から掴んだ情報では帝王を滅ぼす御子もまた育ちつつあるらしいのだ。そこで御子がまだ分別をつけぬ子供の内に見つけ出し洗脳し利用する。それが教会の狙いだ。ルジエリ!子供達をっ、子供達を守ってくれ……!」
    こうしてルジエリは御子の調査を開始するのでした。 
    間章 幼好の戦士 完

    • akima より:

      獣魔の帝王を倒すために御子が勇者になって…
      王様から120ゴールド貰って旅に出る!
      あ、ルジエリの出番がなかった笑

      • 匿名 より:

        「おお聖女よ一般的な布の服すら身に着けていないとは何事だ。
        しかも興奮して悦んでいるとは…出て行けっ!」
        『お待ち下さい陛下。ローラは聖女様が唯一身に着けている世界樹の葉をいただきとうございます。(クンカクンカ)ローラは何時でも聖女様をお慕いしていますわ。ポッ』

  5. 匿名 より:

    すぐキレて人を殺すのだけどキレる理由は子どもを守るため。それって正しいの?という疑問を抱えながら読み進めています。三章のボス戦で活躍すると予想していたのですが外れました。

    • akima より:

      感情のままに力を振るうことができたなら…
      きっとルジエリと同じことをする人はいると思います。
      はたして私刑は許されるのでしょうか。

  6. 聖剣の目隠し乙女 より:

    子供達「ねえ、ルジエリお姉ちゃん。獣魔をやっつけた時のお話を聞かせて!」
    ルジエリ「そうねえ、悪い獣魔をこう、えい、やっ、バシュッ…て感じで」
    マルジナ「それじゃ盛り上がらないでしょう。
     『貴様には見えまい、影絶つ刹那の剣閃。 奥義 影刃! これが運命…』
    決め技の演出はこれ位熱く語らないと」

    • akima より:

      ルジエリはそんな説明しそうですね笑
      擬音で勢いを現していくタイプ!
      マルジナまで中2になってますね。
      あるべき場所に還れ!