ギルゼンスの掌から巨大な火球が放たれ、再生していくガルズレムの喉元へと一直線に飛んでいく。
轟音と共に大爆発が起こる。
あたり一面がそのまばゆい光に照らされ、海面までもが炎の色に染まった。
「ふふ、さすがに少しは効いたでしょう」
ガルズレムが放つ光は、明らかに弱まっている。
再生による神気の消耗が激しく、全身の動きが鈍っていく。
しかし、攻撃に転じたギルゼンスが『臨想』を解いていたことを、神獣は鋭く感知していた。
爆煙の中から巨大な腕が横薙ぎに払われる。
「…うっ…ぐふっ…!!」
血を吐きながら、ギルゼンスの体は弾丸のように海上へと吹き飛ばされていく。
彼女の小さな影がはるか彼方の海面に激突すると、巨大な水柱が天高く舞い上がった。
「嬢ちゃん――!」
グレイザの叫び声が戦場に響く。
水柱がゆっくりと崩れ落ちる中、海面に浮かぶ人影は微動だにしなかった。
「おらぁあああああっ!」
ソティアスが雄叫びを上げながら大鎌を振り上げ、ガルズレムの胸部に叩きつける。
しかし、斬り裂いたはずの外皮はみるみるうちに再生していく。
「ちっ!キリがねえな」
さらに海面スレスレで滑空していたユゼルテスが急上昇し、大槌で追撃する。
金属が岩盤に激突したような鈍い音。
ギルゼンスによる爆炎で焼け焦げた外皮の奥に、衝撃が伝わっていく。
「まだ足りないか…うっ!?」
胸部の様子を探るユゼルテスに向かって、神獣の翼が叩きつけられる。
腕に比べるとずっと軽い翼でも、聖女の体には致命的な衝撃だった。
後方に吹き飛ばされたユゼルテスを、ファズニルが抱きかかえる。
「だ、大丈夫!?ユゼ姉…あっ…!」
ファズニルが息をのむ。
抱きとめたユゼルテスは失神していた。
左腕が不自然な方向に折れ曲がっている。
「ファズニル!下がってな!」
グレイザは振り返らずにそう叫ぶと、長剣を構え直した。
――もっと深くまで浸透させないと、ファイマズの宝珠は壊せないみたいだね。
「待ってください!」
グレイザが感応力をめぐらせる。
背後からの声の主は、リカードを背負ったルジエリだった。
「少しだけ――あの神獣の再生を止める方法があります」
「言ってみな」
グレイザは振り返らずに言う。
「この神器で俺が神気の流れを止める。その間にあんたが仕留めてくれ」
リカードが手に持ったグレゼイルの滅斧を見ながら説明する。
「うまく飛び込めるのかい?」
「そこは私がなんとかします!」
バイザーで覆われていても感じられる、ルジエリの真っ直ぐな視線。
グレイザは思わず口角を上げた。
「わかった。やってみな」
「行きます!」
ルジエリはリカードを背負ったまま、高速で神獣に向かって飛翔する。
自らに向かってくる聖女に気づいた神獣は、刃物のように研ぎ澄まされた巨大な爪を振り上げた。
「じっとしてやがれ!」
ゾティアスが力任せに大鎌を、神獣の肘に叩きつける。
翼と腕の間をかいくぐり、ルジエリは念動力でリカードを放り投げた。
「狙いは胸だよ!」
「任せろ!」
リカードは短く応えると、神獣の胸部に着地する。
グレゼイルの滅斧を両手に持ち、振りかぶる。
「うおおおおおおおっ!」
叫び声をあげてリカードが斧を振り下ろす。
怪しい光を帯びた刃が、大気とともに硬い外皮を斬り裂いていく。
神気の流れを止める力を持つ神器――グレゼイルの滅斧はガルズレムの胸部に深々と突き刺さった。
傷口の周囲が灰色に変色していき、再生が止まる。
「うまくやったじゃないか」
海面に落下するリカードをルジエリが受け止めたのを確認すると、グレイザは長剣に法力をまとわせた。
青白く、儚い光が剣身を覆っていく。
「さて、あたしの番だね」
冷たい海風が戦場を吹き抜けていく。
その風は、もう二度と故郷の土を踏めぬかもしれない聖女たちの髪を優しく撫でていった。
風の音さえもが、別れの調べのように聞こえた。
コメント
リカード髪伸びた?
うでムッキムキやな!
おばさま、ここで死ぬ気か・・・
その辺り、生成の精度不足でした_(:3 」∠ )_
かなり再現できたと思ったんですが、細部がまだまだですね。
グレイザはいろいろと思うことがあるようです。
最近の生成は若くスリムな傾向でより好み。
「甘口の約束」のパルゼアや第五章「神眼の導き」アムネズ「刹那の勝機」ギルゼンス辺りあたりから若干幼く可愛い絵に寄った印象。
立ち絵ではずんぐりむっくりなおっさんだったリカードも若者らしく凛々しい姿に。
ちょっとカワイすぎるなーと思うこともあるんですけども。
サラッとしたアニメ調に近くなったので見やすいかなと。
リカード、立ち絵めっちゃ気に入ってるんです☺
ずんぐり…笑
リカード&ルジエリっていいコンビですよねw
グレイザには生き残って欲しいが最後の分が不穏すぎる!
割とうまがあうというか、連携がスムーズだったりします。
単純な戦技についてはリカードが良いお手本になってたり。
ラストの一文は寂しい気持ちで書きました。
再生による神気の消耗が激しく、全身の動きが鈍る<重要部位への追撃でこれだけ弱るなら、御使い達とそれ以上の神々が束になれば再生の暇を与えず封印に持ち込めそうに見える。
ギルゼンスが攻撃の際、臨想を解除したのはそれだけ消耗が激しい為温存したのか、全力の火球とは併用出来ないのか。
攻撃後の観測を怠って臨想を解いたままでいる所にとうとうギルゼンスの慢心が表面化してしまった。「…やったか!?」
この辺りは断刃の演算による超反応を維持し続けられたラージェマに軍配が上がる。
ようやくリカードがチャンスを作るものの、一撃入れるだけで精一杯。この作品で飛べないのは厳しい。
次回、「グレイザ散る」
フラメンコギターが似合いそうなグレイザの別れの調べのイメージBGM「果て無きモノローグ」
全力の炎アタックと臨想は同時発動が厳しいですね。
できないこともないけど、獣魔の力と聖女の力を同時に使う形になるので相性が悪いというか。
上手く調和できればいいんですが…
ギルゼンスに関しては自分の攻撃を過信していたのと、一時的な神気切れもありますね。
ラージェマなら避けられたと思います。
そうなんです、リカード飛べなくて…
大体空中戦になっちゃうんですよね。
フラメンコギター笑
ここめっちゃ笑いました。ホントだ…思わずYouTubeで検索して聞きましたよ。
この言語化はちょっと嫉妬してしまいますね。
ニコニコ動画の「MAD 蒼穹のファフナー Right of Left 果て無きモノローグ」は映像+歌詞付きで、より情感豊かに鑑賞出来ます。
聞いてきました!
素晴らしい動画ですね☺
ギターって哀愁があっていいな…
リカードちゃんと受け止めてもらえてよかった(笑)おばさまは死に場所を、探していたのではないかと予想します。最愛の息子も失い弟子にも先に死なれ自分だけ生き延びていることにも怒っているのではないでしょうか。神が相手なら不足はないだろうからここで自分の命を華々しく散らせて後続の聖女に託すつもりなのでは。幸いユゼルテスのような優秀な聖女もいることですから。あれ?書きながら思ったんですがユゼルテスは弟子なんですか?
そのまま海に落ちるのも結構あぶないですね。
高さがありますから…!
グレイザは確かに、なんで自分より早く弟子たちが死ぬんだ、という憤りを感じています。
守りきれなかった自分の力に対する怒りもあり…
ユゼルテスは直接の弟子というわけではないのですが、指導はしています。
もっとも、あまり指導する部分もなかったようですが…