自らに火炎が吐きかけられるとわかっていても、聖女ルドルザは身動きできないでいた。
中型獣魔の一撃をまともに食らってしまったのだ。
数カ所の骨折のほか、内臓も痛めただろう。
せめてもう一太刀————
必死でブリッツを操作しようとする中、獣魔ギレルガルの不快な悲鳴が平原に響き渡った。
金の細工を施した短剣が、赤く光る眼に深々と突き刺さっている。
「あーあ、生きてる? 無理しないでよねぇ」
馴染みのある間延びした声。
褐色の肌と対象的な白いバイザー。
「ムー……ゼ、ル……」
痛む胸を押さえながら、ルドルザが絞り出した。
「よ、っと! 飛べる?……ムリか」
振り下ろされた爪をかわしながら、聖女ムーゼルは血に塗れたルドルザを抱き上げる。
力なく、ぐったりとしている。
彼女に残された法力がわずかであることは、身体に触れた瞬間に理解できた。
「さ~て、貴方を抱えたままじゃ逃げ切れないし。絶体絶命、だねぇ」
吐き出された火炎を念動力で押し返しながら、ムーゼルは頬を伝う汗を拭った。
怒りに燃えるギレルガルの周囲には、草木は一本も残っていない。
「……右に、まわって」
ルドルザのか細い声には、まだ戦意が感じられる。
あるいは執念か。
その名状しがたい想いにムーゼルは賭けることにした。
「どうせジリ貧だもんねぇ。やっちゃおうか」
ルドルザを抱きかかえたまま浮遊すると、潰した左目の方へと回り込む。
一瞬、ギレルガルがふたりの姿を見失った。
残った右目に、強烈な西日が差し込む。
「行くよ! しっかり決めてねぇ。まだ死にたくないし」
ムーゼルは本音をこぼしながら、龍のような巨大な頭部へと一直線に飛んだ。
体の中に残った、わずかばかりの法力。
それらをかき集めてルドルザは願う。
刃が獣魔を切り裂く姿をイメージする。
天から授かった力を、今この時に使わずしていつ使うのか。
ギレルガルの足下に転がっていたブリッツが、目を覚ましたように浮かび上がる。
「あああぁぁぁああ!!!」
回転を再開した鎖鋸が、短剣の作り出した小さな傷跡に滑り込んでいく。
吹き上がる葡萄酒のような血が、平原を濡らす。
対峙する両者の絶叫の中、ギレルガルの頭部はゆっくりと斬り裂かれていった。
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コメント
最初の方は全然コメントなかったんですねw
自分はこの話とか好きだけどな
今は少しだけ見てもらえるようになりました
でも始めたころはアクセス一桁でしたね。
大切な家族を奪う惨劇に見舞われたルドルザが因縁の怨敵との決着をつける話、自分も大好きです。
最初の頃は反応が早いPixiv一択でしたが、今はこちらへのコメントが主になりました。
最初の方のお話ということもあり、シンプルな仇討ちを意識していました。
最近はなぜかX経由のアクセスも増えています。
誰かアップしてるのかな…やってないんですけどね笑
この子達お気に入りなんだけどその後いっこうに出てこない
現在ケガで療養中です。
もう少し後でまた登場します、これで終わりじゃありませんので…!