「早くここから逃げるんだ!」
「いや! お父様ぁ!」
ルドルザが何不自由なく育った家が、激しい炎に呑まれている。
その炎の向こうには黒い大きな影が見えた。
龍を思わせる禍々しい頭部、赤く光る目。
幼いルドルザにとって信じられない光景が広がっていた。
「お嬢様、こちらです!」
「離して! お父様が!」
使用人に抱きかかえられ、ルドルザは必死に手を伸ばした。
炎に包まれ、倒壊した壁の下敷きになった父は必死に這い出そうとしている。
耳をつんざく咆哮とともに、巨大な影から炎が吐き出された。
父が目の前で消し炭になっていく————
目覚めは最悪の気分だった。
また、あの夢————
父と母が炎の中で息絶えていく中、何もできなかった自分。
動悸がおさまらない。
背中をぬるい汗がつたった。
10年前、アルディウス公爵邸は獣魔に襲撃された。
見通しの良い海辺の丘に建てられた公爵邸は、今は取り壊され跡形もない。
襲撃後、教会で保護されたルドルザは、両親を失ったショックから食事もままならない状態だった。
それから数日、失意の中で彼女は天啓を受ける。
天から降り注ぐ優しくも力強い光。
女神アズトラの祝福によって得られた法力。
ルドルザは理解する。
これは復讐の力だと。
ラムゼイ社に特注したチェンソー型のブリッツは、あの日見た獣魔の外皮も切り裂くだけの力を持っているはずだ。
ルドルザはベッドの上で、振るえる手のひらを見つめていた。
必ず、両親の仇を討つ。
あの獣魔の絶叫を聞きながら斬り刻んでやる。
鮮やかな青い双眸に暗い炎が宿っていた。
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コメント
ギレルガルを斃し両親の仇を討ったルドルザですが、本当に目的は達成されたのでしょうか。
公爵という重要な地位、獣魔の攻撃目標にしては人口が少ない立地。
権力闘争の為に獣魔を引き寄せる仕込みが行われたのではないかと勘繰ります。
ルドルザの父は教皇庁の不正を暴こうとして始末された、等。
そうですね、なんとなく攻めてきたわけではないです。
ちゃんと理由があってのことですが…
こちらもサブストーリーとして追加していこうと思います!
もし、ルドルザの両親が教皇庁に謀殺されたとしたら…。
ルドルザとリンカージェは復讐の悲願を同じくする者として共闘し合える友となる、そんな気がします。
アルディリア家が中央から離れた場所で暮らすことになった原因には、教皇庁が絡んでいます。
辺境にこそアズトラ教を広めたいザクネル君の仕業ですね。
間接的にですが、ルドルザの両親が亡くなってしまう原因を作ったとも言えます。