空が照らされるほどの強い光。
そして巨大な山が崩落するかのような獣魔の叫び声。
幾多の戦場をともにしてきた聖女ガルフィズは、すぐにその光が聖女王ヴィゾアの天墜によるものだと理解した。
同時に、聖魔リンカージェが体勢を崩した。
従魔術でつなぎとめていたマナグロアが消滅したことによる反動。
ガルフィズはその瞬間を見逃さず、袈裟がけに大剣を振り下ろす。
黒い刃はリンカージェの肩口を深々と斬り裂き、鎖骨を断ち切った。
鮮血が舞う。
「ぐっ……うぅ……!」
自らの力に絶対の自身を持つリンカージェは鎧を着込んでいない。
その自信が仇となった。
「勝負あったわ。おとなしく投降しなさい」
黒い大剣を手元に戻し、ガルフィズは勝利を確信していた。
しかし、リンカージェの傷口からは薄く煙が上がり、修復が始まっている。
「何? 治ってる……のか? まるで獣魔だなコイツ」
数々の個性的な聖女を見てきたウェレジアにとっても、戦闘中に自分で傷を修復できる者は見たことがなかった。
リンカージェはゆっくりと後ずさった。
いかに圧倒的な戦力を持つ彼女でも、深手を負ったまま複数の聖女たちを相手にはできない。
マナグロアを倒した聖女たちがこの場所に駆けつけてくる可能性もあるのだ。
さらにはガルフィズの法力を帯びた斬撃が、リンカージェの自己修復能力を著しく低下させていた。
「いったん退く。貴様の名前を聞いてこう」
「ガルフィズよ。で、逃げられると思っているの?」
威嚇するように黒い大剣が刃鳴りをおこした。
しかしガルフィズは肩で息をしている。
体力、法力、どちらも限界に近い。
「勝負はこれからだろ?」
荒い呼吸を整えながら、聖女ウェレジアが盾を構えなおす。
しかしその盾は度重なる斬撃により、大きく変形していた。
防ぐにしてもあと数回もつかどうか、というところだ。
「次は殺す。覚悟しておけ」
そう吐き捨てると、肩口を押さえたままリンカージェは地面を蹴り、真上に跳び上がった。
見上げたふたりのもとに、黄金に輝く4本の大剣が降り注ぐ。
「待て、この……うわ!」
刺突の勢いは衰えていない。
ウェレジアは頭上からの攻撃を必死で弾いた。
いまや盾は半分ほどの大きさになっている。
追いかけようとしたガルフィズも身を守るので手一杯だった。
リンカージェはふたりを一瞥すると大剣を手元に引き寄せ、日が沈みはじめた地平線に向かって飛び去った。
その姿はみるみる小さくなっていき、やがて黒い点になって消えた。
「ちっ。逃げたか。今日はこれぐらいにしといてやるよ」
そうつぶやくとウェレジアは膝から崩れ落ちた。
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コメント
大ボスの一角と想像していたマナグロアが消滅してしまうとは意外です。
細胞を培養して他にスペアがあるのか、降魔術や従魔の契約で再召喚可能なのか。
3大獣魔より更に格上が続々登場するのか、気になる所です。
ちょっと惜しいのですがココで退場ですね。
再召喚ができるとなると…恐ろしい。
3大獣魔より更に格上は存在するのでいずれ登場させます!
エザリス王国の聖女は金髪がほとんどですか?
エザリスの聖女は金髪と青、水色の髪になっております!
リンカージェが自身を危険に晒す事を両親は望まないはずなので、ゼタリリア夫妻を巻き込まない様に何も伝えず行動を起こしたという事でしょうか。
ヴェイダル博士の後援を得られれば活動の幅は広がりますが、リンカージェ単独だと物資の不足に悩まされそうです。
リンカージェの存在自体、エザリスの人々は知らなかったりします。
リガレア帝国の端っこの村で育ちましたので。
ゼタリリアたちには何も伝えずに旅立ちました。
単独だと確かに限界がありますね…そこにゼハインが絡んでたりします。
リンカージェ「3大獣魔のマナグロアと言えど、単体では聖女達相手の時間稼ぎにもならなかったわ。他にもっと良い術は無いの?」
ゼハイン「従魔化可能に痛めつけたマナグロアを暴走したお前が徹底的にオーバーキルしたから本領を発揮できなかっただけだろう」
リンカージェ「ぐぬぬ…。鏡に映した分身を増やして戦わせられるような便利道具とか出せない?」
ゼハイン「そんな危険な代物は例えあっても貸さない」
リンカージェ「ねぇゼハイン、お腹空いた」
ゼハイン「待ってろ。今出してやる(こいつ自由だな)」
マナグロア君の株価が下がっていく…!
本当はスゴイ獣魔なんですけどね。
聖女側も十分対抗できる力があるので…
武器も使ってますし。
がんばれマナグロア!もう退場しちゃったけど!