「ごめんなさい、ヴィゾア様。わたし、勝手なことを……」
首都バトリグにある病院の一室で、聖女ルドルザは身体を横たえていた。
話すたびに骨がきしむ。
「いいの。わかってるから。今は身体を休めて」
聖女王ヴィゾアは優しく微笑みながら、ルドルザの髪を撫でた。
「生きて帰ってくれただけで十分よ」
瀕死のルドルザを抱いて街まで戻ってきた聖女ムーゼルも別室で体を休めている。
命に別状はないが法力を使い切ったことで疲労しきっていた。
「あいつが現れた時に頭が真っ白になって。結局、ムーゼルまで危険にさらすことに……」
ベッドに横たわったまま、ルドルザは窓から外を見た。
炎を操る獣魔ギレルガルとの戦いの後に気を失ってから丸二日間も眠っていたのだ。
まだ身体に力が入らなかった。
椅子に背を預けて、ヴィゾアも窓の外に目をやる。
小さな鳥の親子が枝の上で木の実をつついていた。
ルドルザは聖女として十分な戦力を持っている。
それでも、単独で中型の獣魔に挑むのは無謀だ。
普段ならそんな行動を取るわけがない。
しかし、彼女は眼の前で親を焼き殺されたのだ。
我を失ったとしても無理はない。
ヴィゾアがかける言葉を探している時、あたりに爆発音が響き渡った。
驚いた鳥たちが一斉に飛び立つ。
窓際に駆け寄ったヴィゾアが見たものは、街に降りそそぐ雷だった。
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迎撃作戦
獣魔の奇襲時に聖女たちが集まる大広間で聖女王ヴィゾアが次々に指示を飛ばす。