対峙する聖魔

海面がゆっくりとドーム状に盛り上がり、流れ落ちる水が球を作る。
空中に浮かぶ水の球はギルゼンスの目の高さまで登っていく。

その中央には短い黒髪の女がいた。
足元には気絶したふたりの聖女――ルジエリパルゼアが倒れている。
やがて表面をつたっていた水がなくなり、その姿が露わになった。

「ご無沙汰ね、ギルゼンス。お元気そうでなによりだわ」
聖女オーゾレスは念動力でルジエリたちを運び、ゲイルード海上要塞の屋上に降り立った。
白い石床は紫色の夕闇に染まっている。

「ご覧の通りよ。あなたが用意したオモチャは全て蹴散らした。さて、思い残すことはないかしら」
ギルゼンスは立ち上がり、徹甲弾を模した黒いブリッツを両脇に展開させた。

「あらあら、ずいぶん強気ね。法力も獣魔の力も無限じゃない。だから、コレが欲しいんでしょ?」
空中に静止した杖型のブリッツを、オーゾレスが指でコンコンと叩く。
中には空洞があるらしく、乾いた音が響いていた。

両者は対峙したままバイザー越しににらみ合う。
互いの距離は二十歩ほどしか離れていない。
いつでも仕掛けられる間合いだ。

「くっふふふ…。話が早くて助かるわ。そのブリッツ――いえ、神器をよこしなさい。大人しく渡せば命だけは見逃してあげる」
「あら~、力づくで奪えばいいじゃない?どうしてそうしないのかしら」

「もちろん、あなたを殺して奪ってもいいわ」
「だったらお喋りしている時間はないわよ?じきに他の聖女たちも駆けつけてくる。消耗した今、複数の聖女を同時に相手にできるのかしら。見ものねぇ」
オーゾレスは大げさに肩をすくめて微笑んだ。

ギルゼンスは目を閉じ、周囲に感応力をめぐらせる。
大型獣魔との戦いで生き延びた聖女と、プルゼリフの面々。
傷つきながらも再度出撃するための準備を進めているのが視えた。

「ふふ、食えない女ね。複数を相手にするのはキライじゃないけど、一度に5人までって決めてるの」
音もなくギルゼンスの体が浮かび、オーゾレスのはるか頭上の空中で静止する。
その右腕が突如として黒く染まり、手のひらに燃え盛る炎が現れた。
炎は次第に勢いを強め、巨大な火球となって要塞を照らす。

「まあ大変」
オーゾレスは杖を掲げ、念動力で周囲の海水を引き寄せる。

「あっはははは!また会いましょう、オーゾレス。生きていたらね」
ギルゼンスが手のひらを掲げるのと同時に、猛烈な勢いで炎の渦が放たれる。
激しく舞い踊る炎が空中で勢いを増し、赤く煌めく火の嵐が要塞を呑み込んでいく。

高笑いが赤く染まる空にとどろく。
戦いの終わりを告げるその笑い声は、疲れ果てた聖女たちの耳に突き刺さるように響きわたり、やがて余韻を残して消えていった。

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生還の約束
「おお~♡ イイ男じゃん。さっすがイル姉!わかってるぅ!」 リズトレアは腕を絡めながら、困惑したリカードの横顔を見上げる。

コメント

  1. 匿名 より:

    この2人の掛け合いが見たかったのよ(笑)
    食えない女って言ってますけど、それアナタもね~~!!!

    • akima より:

      熱い自己紹介。
      曲者ぞろいのなかでも特にややこしいふたりなので、対峙させたかったんですよね。

  2. 聖剣の目隠し乙女 より:

    要塞を呑み込む炎<凄まじい規模ですが、聖女達に聞こえている描写から聖女は無事ですね。
    要塞の被害の程は如何に。
    炎の嵐を放って笑い声が消えていく。力を使い過ぎて一時撤退?。
    ゼハインは強力な駒をスカウトに来ないのでしょうか。

    • akima より:

      さすがに要塞を丸ごと焼き尽くすパワーは残ってないですね。
      ご明察の通り聖女は無事です。
      オーゾレスが引き上げた海水バリアもあるし、聖女もおのおのが念動防御できますので大丈夫!
      ゼハインからしたら扱いにくすぎて、微妙だと思います笑

  3. 匿名 より:

    よくみたらルジエリの剣が刺さってる

  4. アルストロメリア より:

    周りが海だったからいいものの陸地でやられたら・・・
    聖女全滅ですねw
    エルゼナグと同等の炎を使えるとしたら作中最強では!?

    • akima より:

      一応念動防御はできますが、火力強すぎて死者も出てきますね。
      海があって良かった…
      でも海が仇になる敵もいるかも?
      今のところ最強クラスに強いですね。