爆風にさらされても獣魔はひるむことなく進軍を続ける。
何かに追い立てられているかのように、要塞に向かって飛び、泳ぐ。
「よーっし、やっとチャージ完了ッ!いっけえええ!」
聖女ミズハは叫びながら照準を中型獣魔に合わせていた。
砲型ブリッツには十分な神気が満ちている。
極東の島国エイシュからの移民であるミズハは、聖女としての戦果に飢えていた。
無意識下の差別から逃れるためには、獣魔との戦いで実績を作るしかない。
砲口が青白く輝いた瞬間、空気が震え、閃光が走った。
圧縮されたエネルギーが一直線に放たれ、空気を引き裂いていく。
轟音とともに、光の奔流が獣魔の群れへと突き進み、衝撃波が辺りを飲み込んだ。
「やばっ。私って強すぎない?」
水中を進んでいた獣魔の黒い影のいくつかは、力を失ったように海底に沈んでいく。
直撃を受けた中型獣魔は半身を爆破され、叫び声をあげることもなく絶命していた。
「ちょっとは感謝してよねぇ~。あんたがチャージしてる間、ずっと守ってたんだから」
炎をまとった鳥型の獣魔――ゴルーヴァが放った火球を盾で跳ねのけながら、リズトレアがぼやく。
銃弾をかいくぐり、数体の獣魔が接近している。
「全員下がれ!深手を負った者は要塞まで撤退しろ」
聖女イルザスは陣形を後方に下げると、自らを最前線に置いた。
あたりを飛んでいた獣魔がいっせいにイルザスへと鋭い視線を投げかける。
体の周りの空気を念動力で操作することで、迫りくる火炎と電撃をしのぐ。
ゴルーヴァの巨大なくちばしがイルザスの体に触れる、その瞬間――
砲型ブリッツから凝集されたエネルギーが放出された。
十二分に引き付けたその一撃は、ゴルーヴァの体を突き破り、後方に迫っていた鳥型獣魔を蒸発させていく。
「うへぇ、無茶するね。イル姉、約束忘れてない?」
「いい男を紹介しろって話だろ。覚えてるよ。ここで死ぬつもりはない」
頬をつたう血を手でぬぐいながら、イルザスが答える。
ブリッツが重く感じられていた。
大幅な法力の消費に加えて、かわしきれなかった獣魔たちの攻撃がイルザスの体に着実なダメージとなってあらわれていた。
しかし奮闘の甲斐はあり、20を超える獣魔の群れはいまや半数ほどとなっている。
「問題はあのデカブツどもだな」
イルザスがバイザー越しに睨むのは、大海をゆうゆうと泳ぐ3体の大型獣魔たち。
水面から露出している胸から上だけでも、その巨体ぶりがうかがえる。
「同時に3体はヤバすぎますねぇ。あたしらで、ちょっと牽制してみます?」
「いや、無駄撃ちはするな。我々は小型・中型の殲滅に集中する」
砲台型ブリッツを大型獣魔に向けるダルメザを、イルザスが制する。
広範囲に及ぶ爆撃は威力こそ大きいが、聖女が持つ法力の伝導率が低い。
そのため、獣魔の再生能力を十分に阻害できない弱点がある。
倒しきれない巨体を持つ獣魔には、法力を直に通せる近接攻撃が有効なのだ。
「りょーかい。ヴィゾア様ももうすぐ来てくれるみたいだし、あたしらが無理することもないかな」
「残りを蹴散らしていったん要塞に戻るぞ。大型はレイズウォルに任せる」
再び砲型ブリッツを構え、イルザスはつぶやく。
プルゼリフの面々にも余裕はない。
いずれも獣魔の攻撃によるダメージと法力を使いすぎた代償で疲弊しきっている。
彼女らの背後にある海上要塞では、今まさに対大型獣魔の特殊部隊 レイズウォルが出陣しようとしていた。
コメント
攻撃役の準備ができるまで防御役が敵を引きつける。MMOみたいな戦い方やね。
密集して長い槍で壁を作って進む、みたいな戦術がありますよね。
でもそれじゃ獣魔に蹴散らされてしまうので、散開する。
そうすると防御力の低い聖女が危ないので、盾役が攻撃を請け負う感じですね。
威力は高くても攻撃する事ばかり考えている聖女に対して、イルザスの判断力の重要性が際立っています。
引き際、攻め時、攻撃してもどうせ回復する大型獣魔に法力を消費するより再出撃に備える。
集団を相手に射撃戦を展開するプルゼリフには、感応力の範囲が広い聖女が索敵・観測を担うと特殊部隊らしさが出る気がします。(レドームを装備した戦闘機のイメージ)
レイズウォルは派手な戦闘が楽しみです。
リズトレア「えーと、イル姉、こちらの初老の御仁は?」
イルザス「紹介しよう。良い酒を作る男だ」
怯えみたいなものもあります。
早く戦闘を終わらせたい…的な。
でもそれじゃ敵を倒せないので、イルザスはしっかり攻め時を見極めている感じですね。
>レドーム
こういうものがあるんですね!
アンテナ部分を守る…戦闘においては索敵がとても大事なので、そういった聖女も書いていきたいなあ。
レイズウォルはもう少し派手になる予定です!
良い酒を作る男…笑
イイ男ではあるけども、リズトレアが求めているのはそうじゃないんです!
リズトレア「…今度のお年を召した方は?もう答えが分かった気がするけど」
イルザス「ほう聡いな。この方こそ私が知る限り、最高の男。究極の美酒を作る漢だ」
リズトレア「もっと若い男にイル姉の好みはいないの?」
イルザス「そうだな…、酒の特徴を的確に表現するソムリエに憧れる事がある」
リズトレア「強くて頼もしい男も良いと思わない?」
イルザス「確かに強い男は良いな。一晩中潰れずに飲み明かせる強い男には惚れ惚れする」
リズトレア(全部、お酒の事ばかり)
すごい!
イルザスのキャラクターを理解されてますね笑
お酒のことばっかりなんです。
そのついでに聖女やってます的な。
解像度たかいw
私もビックリ!
聖女であっても差別されるもんなんでしょうか?
外国人には厳しい国なのかな。
ヴァルネイ共和国にもいろんな国から来た人がいるのですが、なんとなく「あ、外国の人だ」的な感覚はあります。
治安がよくない、と聞いている国から来た人を無意識に警戒してしまう、みたいな。
エイシュ自体は特に危険視されていませんが、ミズハは「あまりよくわからない文化圏の人」という見方はされています。
そして!
三体の大型獣魔たちはまだ要塞にはたどり着かないのだ!
次回、レイズウォルの誕生秘話!
いやいやいや、さすがにお話を進めます!
戦闘開始です!
イルザス「弾切れだ。補給!」 後輩「はい!隊長!」
ミズハ「カートリッジが空だよ。交換お願い」 後輩「どうぞ!」
ダルメザがふらつき、苦し気に呻き声をあげる。
ジレミュー「大丈夫?お姉ちゃん?」
ダルメザ「ううっ…く、クッキー、ちょうだい」
ジレミュー「背嚢一杯に詰めたクッキーは、もう全部無くなっちゃったよ」
リズトレア「はい、ガソリン♪」
イルザス「気が利くな。兵站に酒を検討していた所だ」
イルザスにとってのガソリン!
それが酒なのだ!
ダルメザは窮地に陥ってますね笑
日持ちするお菓子をもっと運ばなければならないか…ブリッツを軽量化するしかない!