「おお~♡ イイ男じゃん。さっすがイル姉!わかってるぅ!」
リズトレアは腕を絡めながら、困惑したリカードの横顔を見上げる。
「おい、イルザス。ここらにウマい酒を出す店があるって――」
「悪いな、リカード。私は急用で行けなくなったんだ。今夜はソイツと楽しんでくれ」
イルザスは手短に説明すると、小さく手を振って人ごみの中に紛れていく。
追いかけようとするリカードの腕に、リズトレアが胸を押し付ける。
「まあまあお兄さん、いいじゃない♪ 私と一緒に飲みに行こうよ」
「なんだよ、やっと気持ちよく飲めると思ったのによ」
「大丈夫、私が気持ちよくしてあげる!」
「話が見えねえな…」
「んん~素直じゃないなお兄さん。もしかして照れてる? あ、素顔が見たいのね」
首をかしげるリカードに向かって、リズトレアはバイザーを上にずらす。
長いまつ毛が薄い影を落とし、瞳は宝石のように輝いていた。
光が差し込むたび、その瞳はささやかな光を受けて、きらめきを放つ――
「いや、どういうことだ?」
「ほら、ね。『バイザー美人』じゃないでしょ。ねえ、どこで飲む? それとも先に宿に行っちゃう?」
リズトレアはぐいぐいとリカードの腕を引っ張る。
が、その体はびくともしない。
「強引なやつだな…悪いが妻も子もいる身でな。他を当たってくれ」
「……ハアア!?どういうこと!?話が違うじゃない!」
「いや、だから――」
「んんん!イル姉ぇええ!だましたなァアアア!」
リズトレアは両腕を震わせて雑踏の中で叫ぶ。
数多の戦場をくぐり抜けたリカードも、ただただ立ち往生するしかなかった。