礼拝堂の奥にある古い木製の扉を、聖女マルジナは静かに押し開けた。
心地よい香木の匂いが漂う部屋に足を踏み入れると、そこには舞踊の師であるエリゼアが待っていた。
丸椅子に腰掛けて片面太鼓を膝に挟み、微笑を浮かべている。
銀色の髪が陽光を反射し、柔らかな光の輪のように揺れていた。
その優しげな風貌には温かさが宿っているが、瞳の奥には揺るぎない芯の強さが見える。
60年以上の人生が刻まれた顔立ちは穏やかでありながら、どこか戦士のような気高さを感じさせる。
「さっそく始めましょう」
師の言葉に、マルジナはうなずいて軽やかな衣に着替えた。
やわらかな布が彼女の動きに自然と馴染む。
エリゼアが片面太鼓を軽く叩き、リズムが部屋に響き始める。
マルジナはその音に合わせて一歩を踏み出した。
足の運び、腕の流れる動き――彼女の舞いは優雅でありながら力強く、見る者を引き込む美しさを持っていた。
しかし、突然太鼓の音が途絶えた。
「――迷いがあるのね」
そう問いかけるエリゼアの声は、ただの質問ではなく、マルジナの胸を貫く真理そのものだった。
師の眼差しには、ただの指導者ではなく、長い年月をかけて信念を貫いてきた者だけが持つ静かな威厳があった。
「迷い…ですか?」
マルジナは思わず問い返したが、心の中には答えが浮かんでいた。
仲間を守りきれなかった過去、そしてこれから失うかもしれないという恐れ。
それが胸に渦巻き、踊りに影を落としていた。
エリゼアは優しい目でマルジナを見つめた。
「心配事を抱えたままでは、体も鈍ってしまうわ。舞いは心とひつにならなければ」
「でも、どうすれば…?」
「ただ無心で音に身を委ねてみるの。余計なことを考えず、純粋に音を楽しむ。何を心配しているのかは知らないけど、大丈夫。きっとうまくいくわ」
マルジナは深く息を吸い込み、エリゼアが再び叩き始めた太鼓の音に意識を集中した。
余計な思考をそぎ落とし、ただ音の流れに身を任せる。
次第に彼女の動きは研ぎ澄まされ、迷いの影が薄れていく。
大切な人々を守れるように、技を磨き上げる。
進むべき道は、その先にある。
師が満足げに太鼓を叩き続ける中、マルジナの踊りはどこまでも伸びやかに、そして力強く続いていった。
コメント
サブストーリーに登場する大人はまとも説。
年齢って書かれてない(ですよね?)けどマルジナは二十代前半ぐらいと思って読んでます。
そうかもしれない!
メインはどうしても悪役っぽい感じになってしまいますので。
年齢は特に公開していってないですが、マルジナはそんな感じになってます!
歪みが見られない心が澄み切った女性キャラ、BLITZでは初めてかもしれない。
迷いや恐れを見抜き諭す師は力に偏りがちな聖女にとって重要な存在ですね。
良い話ではあるものの、飄々としたマルジナがルジエリを弄って可愛がる話も見たかったです。
そんなはずは…!?
あれ?そうかも笑
どっか歪んだ女ばっかり出てきますからねぇ…
聖女は力押しに頼るものが多いので、もう少し正しい道について考えてほしいものです!
今回はマルジナの紹介を兼ねたサブストーリーなので、ふたりのお話はまた改めて…
ユゼルテスの母ゼレイクは勇敢で真っ直ぐでしたが、描かれない歪みを秘めていたかも。
名前付きで純真というと薬草詰みの少女リリー位でしょうか?
「幽遊白書」樹の迷台詞「コウノトリを信じている可愛い女の子に無修正のポ〇ノを突き付ける時を想像するような下卑た快感」
穢れを知らない少女に爛れた遊びを教える事に悦びを見出す聖女も良そうですね。
ギが付く人とか、オで始まる人とか(笑)
ゼレイクはどこか歪みがあったのかな。
ユゼルテスもまあ変わってますけどね笑
リリーはさすがにまだ純真です。
この先どうなるかわかりませんが…
迷台詞笑
うーん、ちょっと想像できない快感ですねぇ。
無垢な少女にはそのままでいてほしい。
エリゼア…ザ行を含む名前。
そして戦士のような気高さ。
もしや!?
おお!
エリゼアはどうでしょう。
一応、60代の聖女も存在します。
もしやエリゼアがゾティアスたちの師匠とか?
それも面白いですね!
でもエリゼアはリガレア帝国の人なんです。
ゾティアスたちの師匠はまた別の人で、五章で登場予定です!
イラスト、優雅でいいですねーお姉さん聖女はルジエリやリンカージュよりリアル寄りになってる気がします
そこはちょっと迷いどころなんです。
割りとリアルめが好きで作風にも合っていると思ってるんですが、実写みたいにはしたくなくて…
間を模索してる感じですね。