朝靄の立ち込める山中、狩人のアルベルは静かに歩を進めていた。村一番の腕利きとして知られる彼の目は、獲物を求めて鋭く辺りを見回している。
その日、アルベルの狩りは上首尾だった。美しい角を持つ鹿を仕留め、満足げに微笑む。彼の村は小さいながらも、森の精霊とその恵みに感謝しながら静かに暮らす、穏やかな場所だった。
獲物を担いで帰ろうとしたその時、物音が聞こえた。「イノシシか?」そう思い近づいたアルベルの顔から、血の気が引いた。
そこにいたのは、周囲の木々と同じほどの背丈を持つ巨大な怪物だった。
黒々とした硬い外皮に覆われ、燃えるような赤い目を持つその姿に、アルベルは息を呑んだ。海から現れたという忌むべき怪物。まさか本当に存在するとは。
恐怖に震えながらも、狩人としての本能が働いた。アルベルは素早く弓を構え、矢を放った。矢は獣魔の目に命中し、おぞましい怒号が山中に響き渡る。
しかし、獣魔はその痛みにひるむどころか、冷静に矢を引き抜いた。アルベルが再び矢をつがえようとした時、恐ろしい事実に気づく。
矢筒はすでに空っぽだった。
獣魔の傷ついた目は煙を上げ、瞬く間に再生した。その赤い目がアルベルを凝視する。
「これで終わりだ」アルベルは覚悟を決めた。首から下げていた、精霊の姿を彫り込んだペンダントを強く握りしめ、目を閉じる。
しかし、予想していた痛みは訪れなかった。恐る恐る目を開けると、獣魔はじっとアルベルを見つめていた。そして、ゆっくりと踵を返すと、静かに山奥へと消えていった。
アルベルはその場に座り込んだ。なぜ自分が助かったのか、理解できなかった。ペンダントを見つめ、森の精霊に感謝の祈りを捧げる。
風が吹き、木々がざわめいた。まるで精霊たちが、アルベルの無事を喜んでいるかのように。
コメント
果たして、【二足歩行する人型の獣魔】と同一の者なのか?
獣魔が見逃す精霊の像は、獣の様な姿の神を受け継いだ物として、知性を感じさせる獣魔の目的が気になる所です。
残り2本のアズトラの宝剣を抜き、神獣を封印から解放しようとしているとか?
海底深く封印された獣魔神から、宝剣4本が流れ去って封印が弱まったことによりゲートニグ誕生。以後、獣魔が湧き出し襲来が増え続ける。
と空想してみました。
獣魔の狙い、に関する掌編になっております。
そこも少しずつ明らかになる予定です!
空想の内容に関しては…すごい!
ノーコメントでお願いします笑
これは面白い考察。二本はまだ獣魔の神に刺さったままとうことなら辻褄が合う。
アミニズムっぽい宗教の原型があってそれを信じているヤツは攻撃しないってことか。獣魔は自然を大事にしていて自然を破壊している人間を標的にしてるとか?
アルベルの集落で信じられているのは自然そのものに対する恩恵で、神という概念ではない様子です。
獣魔の目的とはなにか?
というのがこのお話のテーマですね。
獣魔はイマイチ何が目的なのかわかりませんでしたのでこの話は重要。まあコレ読んでも何が目的かわからんけどね(笑)
そうなんです、何が目的で、何が目的ではないのか。
そこも少しずつ明らかにしていこうと思っています!
この話何気に重要そう
そうですね、獣魔がなぜ人を襲うのかという目的に関係するお話になってます。
猪にしてはでかすぎて草なんだ
襲う対象じゃない人間なら攻撃されても反撃してこない
ということは
襲う対象じゃない人間なら獣魔をいつか倒せる可能性が・・・
草むらの奥でなんか動いたかな?と思ったら獣魔だった!
みたいな。
襲う対象じゃない人間であったとしても、執拗に攻撃したら反撃されると思います笑
獣魔にも使命があって、それを邪魔する人間なら十分襲う対象になりえますね。