「イズディ、これちょっとヤバくない?」
聖女が待機する詰所の上空で、パルヴァズは獣魔の姿を見ながらつぶやいた。
杖を持つ手が小刻みに震えている。
全長はおそらく20メートルを超えるだろう。
蒼白い電光を纏った巨体は、天空の神のような威厳を放っていた。
龍を思わせる優美な姿は、紺色の鱗と青白い雷光のコントラストによって、より一層その神々しさを際立たせている。
口元に並ぶ牙は冷たい金属の輝きを帯び、その周りを這う電撃はまるで生命を持つかのように蠢いていた。
全身を取り巻く光の輪は、稲妻を従えた支配者の冠のようでもあり、その眼差しには畏怖すべき古の知性が宿っている。
まさに、雷霆の化身とでも呼ぶべき存在だった。
「予想以上ですね。だからといって逃げるわけにはいきません」
編み込んだ金色の髪を撫でると、イズデイルは盾を構え直した。
磨き上げたリガレウム製の盾は、持ち主の体をすっぽりと覆うほどに大きい。
自慢の盾が心もとなく感じるほどに、獣魔マナグロアは堂々たる威容を示していた。
なぜこれほど大きな獣魔が街に入るまで気づかなかったのか。
首都バトリグには聖女が待機する詰所が点在している。
感応力を使うまでもなく、聖女の誰かが視認できたはずだ。
しかし、街に迫るマナグロアの姿を見てイズデイルは納得した。
この巨大な獣魔は雲を割って現れた。
つまり、街のはるか上空から降りて来たのだ。
飛行能力すら規格外ということに他ならない。
空を切り裂き、電撃が走る。
建物が崩れ、住民たちの悲鳴が聞こえた。
「ボクが足止めします!」
相手の戦力を推し量る猶予はない。
真っ直ぐ飛び込むイズデイル。
その勇姿に向かって、電光が煌めく。
「ええ!? 正面から行くの?」
慌てながらパルヴァズは、後方からイズデイルの体を念動力で突き飛ばした。
すぐそばを電撃が通り抜けていく。
「助かりました、パル……ううっ!」
すかさず鋼の鞭を束ねたような尾が襲いかかる。
盾で防ごうとしたイズデイルは踏ん張りきれず、吹っ飛ばされた。
マナグロアの胸元に光が収束していく。
しかし電撃は放たれなかった。
代わりに、マナグロアの体の数カ所が爆発した。
「やり返してこねーやつなんて退屈だろ? 俺とヤろうぜ」
イズデイルは安堵した。
頭上からの声に聞き覚えがあったからだ。
聖女ベルナズは爆風に身じろぎもせず、腕を組んだまま獣魔を見下ろしていた。
「待たせてごめんね、ふたりとも」
対照的な優しい声。
大型の銃型ブリッツが機械音をあげながら、聖女王ヴィゾアに寄りそう。
「さあ、エザリスの聖女らしく優雅にブッ殺すわよ!」
開戦の宣言に応えるようにマナグロアが咆哮をあげた。
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コメント
窮地から援軍の展開が熱いです。
時系列を補完する分ストーリーが盛り上がります。
リズレウ、ザクネル関連は唐突感がありました。
聖女にはメイスが似合いますが、イズデイルの場合はメイスを持たず盾に集中している方が格好良いですね。
前後してしまって申し訳ないです!
読み直すとイズデイルとかいきなり登場しちゃってたので、追加してみました。
聖女紹介の記事をアップして、説明した気持ちになってまして…
イズデイルは防御専門な人なので今回は盾だけにしてみました!
聖女王はなにげに物騒なことを言っていますね(꒪ཫ꒪; )
聖人ではなく自らが善悪を決めるタイプということなのでしょうか!?
それはそれで人間らしくて魅力的だと思います!!!
ヴィゾアというかアズトラ教徒は力なき正義には意味がない、という考え方です。
なので悪と判断したら容赦なく殲滅すべき!となります。
過激ですね。
マナグロアと戦う前にイズデイルが参加する戦闘を1回描いて「ディフェンダーがいると頼りになる!助けられた!」と印象付けられると良かったように思います。
『「あの」イズデイルが吹っ飛ばされた!?』とすると3大獣魔の強キャラ感を強調しつつ、ディフェンダーの面目も保てるので展開をちょっと急ぎ過ぎた感じがします。
ディフェンダーの行動が「かばう」ではなく「身を守る」に見えていた事が惜しいです。
タンク職が序盤目立ちにくいのはRPGあるあるなのかもしれません。
実は序盤にちょっとだけ登場しています。
後から追加したお話なんですが…
https://seijyoblitz.com/1349.html
聖女は空を飛んで回避できるので、何かを守る時が本領発揮ですね!