「これはこれは……ギルゼンス様」
ブリッツを製造しているルカヴィ社の研究所長バイアンは突然の来客に面食らった。
すでに日は落ちている。
ヴァルネイ共和国の元首であるギルゼンスが研究所へ訪ねてきたのだ。
背後には護衛の聖女サローザがたたずんでいた。
「近くを通りかかったの。研究の成果について聞かせてもらえる?」
幼子に向けるような優しい微笑み。
「ええ、わかりました」
その穏やかさが、逆にバイアンにとって重圧だった。
サローザは中には入らず、入り口を守っていた。
応接室にギルゼンスを通すとバイアンは研究資料を手に取り、長椅子に腰掛けた。
上目遣いで彼女を見る。
「それで核心はつかんだの?」
肘掛けに頬杖をついたまま、ギルゼンスは問いかけた。
バイザーで目元は隠れているが、鋭い感応力でバイアンが狼狽しているのに気づいているだろう。
「ええ。獣魔と融合した後、自我を保つ方法ですが……」
バイアンは言いよどむ。
せわしなく目が泳いでいた。
「話して。これは大義のためなの」
「は、はい。
聖女を融合させる方法があります。
普通の人間が獣魔と融合するとその精神も取り込まれてしまいますが、法力を持つ聖女なら自我を保てるはずです」
ギルゼンスは足を組み替えると小さくうなづいた。
額から伝う汗を、バイアンは拭えずにいた。
「それで、そのことを知っている者は他にいるの?」
優しく諭すような声だった。
————知っているのは自分だけだ。
だとしたら、どうだというのか。
そもそも、ギルゼンス様は一体何をしようとしているのか?
獣魔と融合するなど、まともな考えではない。
正気を無くしてしまわれたのだ。
誰かが……誰かが止めなくてはならない。
これは国を揺るがす大問題に発展しかねない事態なのだから。
バイアンはゆっくりと懐の短銃に触れた。
彼女はすぐそこに座っている。
この距離なら外すことはない。
————ギルゼンス様が居なくなっても、法王ディメウス様がいればヴァルネイ共和国は安泰だ。
自らにそう言い聞かせて引き金に指をかける。
「ありがとう。バイアン」
ギルゼンスが立ち上がるのと同時に、所長の口が大きく縦に開いた。
「あっ! かっ……!」
必死に抵抗するも、体の中で自由に動く箇所はなかった。
すでに、彼の体はギルゼンスの念動力の支配下にある。
バイアンの右手が本人の意思とは無関係に動き出す。
銃口がゆっくりと口内に向けられた。
そして、重たい銃声が2度、鳴った。
↓NEXT
コメント
人を殺すことなんてなんとも思ってないですねー聖女皇サマ。今ところは時系列にそって更新されてるってことでいいんですかね?
そうですね、自分がやろうとしてることのためならどれだけ犠牲が出ても気にならない人です。
共感性が全然ないんですね。
できるだけ時系列に合わせてますが、若干前後するかもです!
ルカヴィ社は法王庁が支配してるんですよね。研究所の所長のバイアンがギルゼンスを撃とうとしたということは法王がギルゼンスを敵視してるからですか?
細かい設定まで見ていただいて嬉しいです!
バイアンは法王寄りですね。
法王ディメウスはギルゼンスのことを敵視までいかないですが、懐疑的に見てます。
優秀な能力とまともな判断力を併せ持ったバイアン所長は立ち絵が出る間も無く消されてしまいましたか…。
サイコパスなギルゼンスは自分に都合が良い世界を創造する為に、まだまだあらゆる非道を行う気がします。
退場でございます…
立ち絵どうしようかな笑
ギルゼンスは暴走してますが、どこか止めてほしいと思っている部分もあったりします。
すぐ退場する大司祭にも立ち絵があったので、名前付きキャラに敬意を表して言ってみましたが余程の重要人物でもない限り端役の男キャラのイラストは無くて良いと思います。
ここまで来るとギルゼンスに残された良心の欠片に驚きです。
そういえば彼も割りと早かったですかね。
物語的にはまあまあ重要なキャラなので…
ギルゼンスも本当はこんなやり方が正しくないのは心のどっかではわかってるんですが、それ以外の心が塗りつぶしている感じですね。
研究所のえらいさんまで殺してしまって大丈夫なんでしょうか
ギルゼンスのやり方だと有能な味方まで減っていきそうですけど
みんなで幸せになるという概念は薄いですね。
利用して用がすんだら消してしまう。
その辺りは徹底してます。
感応力で感情の変化を読み取られると嘘も通用しない、情報の駆け引きでも聖女が圧倒的に有利ですね。
ザルビエ社、ルカヴィ社共に優秀なトップが不在となりましたが、研究は滞りなく進歩を続けられるだけの優秀な人材が揃っているのでしょうか。
リガレアのザルビエ社は資金力、技術力、ヴェイダル博士の画期的な見識から知見を得た後継者たちが研究開発分野を牽引していくイメージはあります。
ポーカーとか強そうですね笑
両社は研究員がたくさんいるので大丈夫です。
国から補助金も出ていたり…
ヴェイダル博士の後継者たちも活躍しております。
ただ、ヴェイダル博士もリガレア帝国の端っこで現役の研究者としてがんばってます。