聖女皇の寝室から艶めかしい声が聞こえる。
中ではギルゼンスの他、男女4人が入り乱れていた。
行為中の護衛を任命された聖女サローザは、扉の前で気が狂いそうなほどの嫉妬心と戦っていた。
噛み締めた奥歯がキリキリと鳴っている。
————どうしてこんな仕打ちを……。
バイザーの下で涙目になりながら、サローザは両の手を強く握った。
華奢な拳がぶるぶると震える。
ギルゼンスに恋焦がれる彼女をわざわざ寝室の前に立たせたのは、もちろん嫉妬させるためだ。
焦らし、妬ませることで自分への想いをより強くさせる。
それがギルゼンスの狙いであることは理解できていた。
ただし、理解できたところで感情の濁流は止められない。
————私が! 私が一番ギルゼンス様を愛しているのに。
サローザはヴァルネイ共和国の西部にある砂漠地帯で育った。
砂漠は肥沃ではあるものの、水がないために作物が育たない。
そんな土地にある小さな村はおよそ希望という言葉とは無縁。
周辺の街に出稼ぎに行けるならまだ良い方で、物乞いや身売りで生計を立てるしかない者もいる。
誰もが生きることで手一杯であり、孤独を抱えている状態だった。
サローザはいつか大きな街で暮らすことだけを夢見ていた。
人がたくさんいる場所なら仲間もできるはずだと。
そしてある晩、天啓を受ける。
法力を授かった彼女はヴァルネイ共和国の首都ウクトで聖女として登用され、法王庁に仕える身となった。
念願だった街の暮らし。
夢はかなったと思えた。
しかし獣魔との戦いで手柄を立てることができず、怪我を負った彼女は戦線から外されてしまう。
見舞いに来るものもおらず、サローザは病棟の窓から海を見ることしかできなかった。
ふたたび全身が孤独感に包まれる。
治療が終わった後も何もする気が起きず、不安だけが心に留まり続けた。
天啓を受ける前までは、環境のせいにすることもできた。
独りなのは貧しい村のせいだと。
しかし、天啓を受けて法力を得ても立場は変わらなかった。
自分は世界から必要とされていないのではないか。
生まれてきたことが、そもそもの間違いだったんじゃないか————
自責の念は日に日に強くなっていく。
海沿いの見張り台でため息をつくサローザの肩に、そっと手を置く者がいた。
すでにウクトの救世主と呼ばれるほどに戦果を上げていたギルゼンスだった。
規格外の感応力を誇る彼女は複数の聖女を指揮し、沿岸に迫った大型獣魔をニ度も退けている。
戦場から離れた場所で狙撃に従事していたサローザは、空を舞うように獣魔を狩るギルゼンスの姿に憧れていた。
「争いのない、調和のとれた世界を作りたいの」
水平線に向かって、ギルゼンスは自身の夢について語った。
海を挟んでにらみ合う三国。
凶暴な獣魔たち。
それらが調和した世界など、サローザには想像もできなかった。
「あなたのような仲間が必要なの。サローザ。力を貸して」
ひとしきり語り終えた後、ギルゼンスはサローザを後ろから抱きしめた。
潤いのある柔らかな手が鎖骨に触れる。
薄っすらと甘い、花の香りがした。
憧れの人が、自分を必要としてくれている————
バイザーの下から熱い涙が溢れ出た。
サローザは声をつまらせてむせび泣く。
きっとこれまでの人生は今、この瞬間のためにあったのだ。
何があっても、ギルゼンスのそばにいること。
それがサローザにとって、唯一の生きる意味となった。
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コメント
「5人の枠」
ギルゼンスを孕ませて今以上にサローザを遠ざける恐れがある男から始末すれば、サローザが寵愛を受ける余地が生じますね。
ゆくゆくは聖女の寵姫5人からなるギルゼンス親衛隊に発展するかも?
しっかり避妊してるので大丈夫そうです。
サローザが独占することはできないのですが、それがまた彼女にとって執着する理由にもなっていたり。
親衛隊は面白いですね!なんでも言う事聞きそう。
聖女皇さまの性欲が強すぎる件w
英雄色を好むってこういうことなんですね!
何にでも精力的な人です…よく言うと
サローザ「ギルゼンス様、一度に付き合う相手は何故5人までのルールがあるのですか?
6人目を増やしたりしませんか? 例えば、私とか、わたしとか、ワタシとか?」
ギルゼンス「えっ?そんな、6人同時に付き合うだなんて、はしたないじゃない。恥ずかしいわ」
サローザ(ギルゼンス様の恥じらいの基準が分からない)
本人にしかわからない謎ルール…
そして謎の恥じらいポイント!
そういう理解しがたいルールが内側にあったりします。
サローザも大変ですね笑