絶空の緋剣

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中型獣魔が忽然と現れたのは、戦災孤児のための施設が立ち並ぶ区域だった。

もし逃げ遅れた子どもたちがいたら―― 想像しただけで背筋が凍りつく。 聖女ルジエリは知らせを聞くより先に、居住区へ飛んだ。

居住区の広場に、巨大な影が見えた。 周囲の建物を見上げるほどの巨体。 中型獣魔に分類されるサイズだ。 全身が青い鱗のような外皮に覆われている。

その周囲で人々が悲鳴を上げながら逃げ惑っていた。 ルジエリはさらに加速する。

しかし、獣魔の様子がおかしい。 だらりと両手を下げ、うつむいた状態で静止している。 その肩には赤い髪の聖女が退屈そうに座っていた。

「ゼハイン! どういうつもり!?」

獣魔の眼前に立ちはだかり、ルジエリは叫んだ。
怒気が街の空気を切り裂く。

「お、さすがに早いな。ひとりで来たのか」

獣魔の肩の上で聖女ゼハインは足を組んだままだった。
怒りに燃えるルジエリを前にしても、全身の力が抜けている。

「ご覧のとおりだ。この辺で獣魔を暴れさせよ――おっ!」

言い終わる前にルジエリが放った大剣型ブリッツがゼハインに向かって飛ぶ。
しかし、大剣は空中に浮かぶ槍によって弾かれた。

「この区域は子どもたちが暮らすための場所なんだよ。わかってるよね」

「もちろん。そうでもしねえとお前の本気が見られねえからな」

ゼハインが空中へと浮かぶ。
指を鳴らすと、眠っていた獣魔が目を覚ました。
その目が鮮やかな赤色に変わっていく。

「まずはコイツを沈めてみな。安心しろよ、俺は手を出さねえ」

近くの時計塔の屋根に降り立ち、ゼハインが宣言する。
呼応するように獣魔が吠えた。
同時に電撃が周囲を照らす。

背中にある特殊な器官から電撃を放ち、硬い外皮と高い敏捷性を併せ持つ獣魔。
通常なら聖女が3人がかりで迎撃にあたる相手だ。

「消えろ!」

激昂するルジエリにとって、放たれた電撃は脅威とはならなかった。
いくつもの光の筋を空中で躱し、突き出された鋭い爪に向かって斬撃を叩き込む。
二振りの大剣が舞い、獣魔の指が数本ちぎれ飛んだ。

咆哮をあげながら繰り出される爪は、ルジエリの体に触れることすらできない。
大剣が閃くたびに獣魔の黒い血しぶきが散る。

「ほう、たいしたもんだな」

屋根の上に立ち、ゼハインは観戦していた。
怒りに支配されながらも感応力で敵の挙動を先読みし、紙一重で避けつつ淀みなく攻撃し続けている。
何よりその速度は、すべての聖女の中でも並ぶものがいない。

子どもたちの顔がルジエリの脳裏をよぎる。
母が恋しいと泣く子を抱きしめた日。
自分が天啓を受けた意味に気づいた日。

――すべてはあの子たちを守るため。

怒号とともに振り下ろされた大剣によって、獣魔の左腕が肩口から斬り落とされた。

「これなら面白い戦いが見られそうだ」
ゼハインは満足げに笑い、視線をルジエリから遠くへと向けた。


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猛進の対価
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コメント

  1. 匿名 より:

    直情型ですねールジエリ
    そこを利用されなければいいですが
    この回でゼハインは人間ではないことが確定?

    • akima より:

      そうですね、行動原理がハッキリしてるタイプです。
      簡単に利用されそうなんですが、戦闘能力は高いのでなんとかなってる感じですね。
      ゼハインに関しては…まだ謎です!

  2. 匿名 より:

    中級ぐらいなら単独で倒せるっぽい
    ルドルザとは違うのだよルドルザとは

    • akima より:

      中級なら倒しきれるんですが、息切れはしますね。
      連戦はかなり危険です。
      ルドルザもかなり頑張ったんですが、強引すぎました。

  3. 山内禅定 より:

    オーゾレスはよく名前が出てくるのになかなか登場しませんね。

    • akima より:

      もうすぐ出てきます!
      個性的なリガレアの聖女の中でもとくに曲者です笑

  4. 聖剣の目隠し乙女 より:

    ゾルフレッドへの良い報告
    この話が出た当初は、北欧神話で勇者を集めるのと似た設定か、ゾルフレッドの遊び相手として強者を求めている風に想像していました。

    • akima より:

      ゾルフレッドのもとで戦える者を探してます。
      リガレア帝国には優秀な聖女も多いので、ゾルフレッドの代わりにゼハインが来た感じですね!