「生まれ出づる喜び――それも束の間の夢。刹那の美しさ 深き哀しみを宿す」
病室に穏やかな声が響く。
ゼルロズは花瓶から一輪の花を手に取った。
薄いピンクの花びらが小さく揺れている。
眼前のベッドにはロズタロトが目を閉じ、静かに横たわっていた。
包帯にくるまれた胸元に、そっと花を添える。
「はかなくも尊し。せめて――花を抱いて眠れ」
「生きてるわよ、バカ」
不快げにロズタロトがつぶやく。
ダルガロスの突進に巻き込まれた彼女は、複数の骨折と打撲により、起き上がれないほどのダメージを負っていた。
ただし、命に別状はない。
「しぶとい」
「はあ?なんですって?」
「静かにしろ。傷に響くぞ」
窓際のベッドで上体を起こしたパルゼアがふたりを制した。
彼女もまた、リガレア帝国お抱えの典医から全治一ヶ月と診断されている。
「あのねぇ、元はといえばあんたが無理するからでしょ?あんなにバカでかい獣魔を受け止められるわけないじゃない」
「リガレアに身を寄せる者を見殺しにはできないだろう」
「だからって限度があるでしょ――うっ 痛ッ!」
「私への文句は後でゆっくり聞いてやる。今は寝ていろ。ゼルロズ、お前もだ」
痛む胸を押さえ、ロズタロトが顔をしかめる。
比較的ダメージの少ないゼルロズは手を頭の後ろで組みながら、ふわりと空中に浮かんだ。
そのままゆっくりとベッドに着地し、横たわる。
「退屈」
「今は傷を治すことに専念しろ。いつまた獣魔が現れるかわからん」
そう言ってパルゼアはベッドに手をつき、立ち上がった。
たったそれだけの動作で体中が軋んでいる。
その体が、見えない力によってゆっくりとベッドに押し戻されていった。
「あらあら。パルちゃんも寝てなきゃダメよ?」
病室の入口にオーゾレスが立っている。
人差し指を立てて顎に当てたまま、困ったような笑みを浮かべている。
「私を子ども扱いするな」
「まあ~反抗期?大人ならワガママ言わずに眠ってなさいな。後始末は私に任せておいて」
術者であるゾルオネ枢機卿が死んだことにより降魔術は解け、ダルガロスの巨体はアテヤ霊脈へと戻っていった。
だが、破壊された街はそのままだ。
街の修復、怪我人の治療、やることは山ほどある。
パルゼアは観念したように短くため息をついた。
再びベッドの上で天井を見つめるしかない。
オーゾレスの念動力を跳ね返すだけの力は、今の彼女にはない。
「じゃあね。勝手に起き上がったらお仕置きよ♡」
オーゾレスは病室を出ると、薄暗い廊下を歩き出す。
小さな雨音が聞こえてきた。
神妙な面持ちで、バイザー越しに窓の外を睨む。
――いずれにせよ、あの子たちはしばらくお休みね。
リガレア帝国の主力3名が戦闘不能となっている今朝。
海沿いの見張り台から不穏な報せがオーゾレスの元に届いた。
獣魔とおぼしき巨大な影が複数、ゲイルード海上要塞に向かっているのが確認された、と。
「さて、これでまた忙しくなるわ。まずは各国の聖女を集めて迎撃準備、ね」
窓の外には灰色の雲が低く垂れ込め、重苦しい空気が大地を覆っていた。
かすかに遠雷が聞こえる。
未曾有の危機は瘴気に満ちた海を越え、もうすぐそこまで迫っていた。
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コメント
マイペースなゼルロズ。
毎度言い返すロズタロト。
無理するなといいながら自分は無理しようとするパルゼア。
三者三様でほっこりします。
要塞の話を待ってました♪
でも三大獣魔よりスケールダウンしないか心配。
さっそく無理して動き出そうとするパルゼアが書きたかったんですよね。
結構なダメージがあるんですが、あんまりゆっくり寝てるところが想像できない聖女です。
海上要塞、やっと登場します!
三大獣魔より…ある意味強いキャラが出てくるので大丈夫だと思います!
詩で語るゼルロズはCCFF7のジェネシスを思い起こさせます。
強キャラ3人組で電波な詩にも意思疎通可能な所が微笑ましいです。
いよいよ特殊部隊登場、待っていました。
ギルゼンスが悪どい暗躍でヘイトを稼いだのに対し、オーゾレスは裏の顔を隠して綺麗に立ち回っている点が上手に感じます。
ゼルロズは基本、詩でそれっぽいこと言ってますが、普通に会話もできます。
あまり何も考えてなさそうな気もしますが笑
プルゼリフ、レイズウォルはやっと登場させられます。
長らくお時間をいただきました。
オーゾレスは裏の顔が表なのか、敵か味方かよくわからない聖女として活躍して欲しいと思ってます!
3人のやり取り+オーゾレスいいですねー
重たい話が多いのでこういう軽妙な話も混ぜていってほしい
そしてやっと海上要塞が出てくるのか
続きも楽しみにしてます
もう少し会話を増やしたいんですが、どうしても地の文が多くなってしまい…
説明が多くなると退屈なのでもう少しやり取りだけで見せていきたいですね。
海上要塞は3つの国を紹介する話の後に、3国が合同で守る話を書きたい、という思いから生まれました。
頑張って書きます!
一難去ってまた一難・・・が様式美になってますねwこれで三章は終わりでしょうか。リンクのまとめもぜひ。
そうなんです、平和はまだまだ遠い…
三章はこれで終わりになります。
次回は四章、海上要塞編ですね。
読む順番も整えてリンクを整理したいと思います!
大型獣魔と三大獣魔ってどのぐらい強さに差があるの?
三大獣魔:90-100
大型獣魔:70-80
中型獣魔:40-60
小型獣魔:20-30
ぐらいの気持ちで書いてます!
でも個体差もあります。
国同士の争いを収め統一したリガレア帝国の運営を軌道に乗せ、グエイジス討伐により海洋掘削の安全性を確保したオーゾレスは伝説の神器宝物を探す為暗躍を開始したのでした。
第3章 3大獣魔の終い 完
そんな感じかもしれません笑
リガレア帝国のために動いているのは間違いないですが、そこから先もなんか狙ってそう。
この三人をメインにして話を進めた方がよかったんじゃないかな。登場人物が多いと感情移入しづらくなるよね。作者としてはたくさん出したいんだろうけどオルゼトとか出番すくなすぎ。
うーん、そうかもしれない。
オルゼトはほとんど2話ですもんね。
リガレア帝国の聖女はこんな感じですよ、的な章なので3人に絞ってしまった方が伝わりやすかったでしょうか。
勉強しますm(__)m
3章かけて国や聖女が担当する役割などの膨大な基礎情報を説明。
3大獣魔が登場する1~3章がチュートリアルだった様に思えてきます。
プロローグが世界観の説明、1~3章でこんなお話ですよ、的な感じですね。
派生する話もたくさん書きたいんですが手が追いつかない…
アテヤ霊脈の説明が全然ないんですけど
そうですね、神気が集まる聖地的な場所なんです。
また掌編としてアップしたいと思います!
会話が多い方がどんな性格なのかわかりやすいし読みやすいです
そうですね。
登場人物も多いのでもう少し会話多めを意識してみます!
次の章もオーゾレスが出てくると思っていいのかなこの展開は
登場します!
彼女の本当の狙いも少しだけ明らかに…
やっとチュートリアルが終わったぐらいなんですかね。全部で何章までとか決まってるんでしょうかね。
そうですね、メインの舞台と設定を説明しおえた、みたいな。
全部で、は全然考えていないです…
思いつきで自分の好きなものを放り込んでいるので笑
4章なかなか始まらねーな
ウッ
申し訳ないです。
現在、鋭意執筆中です!
オーゾレスって裏切りそうな描写があるのが気になってます。仲良しトリオと決別するのは見たくないなー
裏切ると言うか、利用して何かを為そうとしている様子です。
腹黒い聖女なので何を考えているのか…
三人との対立は…あるかな?
ゼルロズ「不動のパルゼア、天剣のゼルロズ、百式のオーゾレス、…、……、もうけんのロズタロト、我らリガレア四天王」
ロズタロト「どうせ私が四天王最弱と言いだすんでしょ?」
ゼルロズ「四天王最弱は最強に次いで話を長く描かれる優遇ポジション。友よ 愛を抱いて眠れ。さらば そして ありがとう」
ロズタロト「だから死んで無いってば。後、もうけんは猛犬みたいで嫌なんだけど」
ゼルロズ「…飛空のロズタロト」 ロズタロト「聖女は皆、飛べるじゃない」
ゼルロズ「包帯に覆われた身体 紅蓮の火力 無限弾のロズタロト」
パルゼア「お前達、大人しく寝ていろ」
百式カッコイイ!
無限弾もめっちゃつよそうです笑
四天王最弱は最強に次いで話を長く描かれる…た、たしかに。
その発想はなかったです。
でも大体一番はじめに登場して、目立ちますよね。
最弱とか言われてるけど優遇ポジションだったのか…。
ゼルロズ「ロズタロトは…え~と…、……、…………???」
ロズタロト「ちょっと、黙り込まないでよ。褒める所が何も思いつかないみたいじゃない」
パルゼア(【不動】のパルゼアか。フフ♪)
パルゼアまんざらでもなさそう笑
三章で出てきたリガレア帝国の聖女はルジエリとマルジナコンビぐらいしか戦えない状態ですよね。あとはオーゾレスか。要塞編は特殊部隊と各国から派遣された聖女で戦うことになるのかな。
三章だとそうですね。
無理しそうな人がいますが…笑
特殊部隊はリガレア帝国の聖女だけで編成されているわけではなくて、各国から派遣された聖女で構成されています。
わかりにくくて申し訳ないですm(_ _)m
ベルナズは第四章にも登場すると予想。
今のところ一番出番が多い聖女だとおもいます。
敵の数が多い時に活躍できそうな聖女ですよね。
さてどうでしょうか!
エザリスチームは回復する時間はありましたし、登場する予定です。
確かにベルナズは戦闘シーンが多いですね。
しかもマナグロア、ギルゼンス、エルゼナグと強敵とばかり戦っています。
なんか勝手に出てくるんですよね笑
さて三章ラストが投稿されて丸々一か月が経過したわけですが。。
ウッ!
今やっと四章の半分ぐらいが書きあがりました。
それに合わせた挿絵イラストも用意できたので、ぼちぼち始動いたしますm(_ _)m
挿絵の獣魔は新顔ですね。流れ的に次の話で登場するのかな。サイズは大型獣魔っぽい。
ご明察のとおりです!
新しい大型獣魔が複数登場します。