ピズシエは、その手に込められた技巧で名を馳せた彫刻家だった。しかし、彼の心を真に捉えたのは、人智を超えた存在である獣魔だった。
獣魔——正体不明の魔物。その姿は恐ろしく、その力は破壊的だった。だが、ピズシエの目には違って映っていた。
傷つくたびに瞬く間に再生するその姿に、彼は不死の象徴としての神性を見出した。獣魔は、彼にとって神に最も近い生き物となっていった。
日々、獣魔の研究に没頭するピズシエ。その眼差しは次第に狂気を帯びていった。「己の内に獣魔の力を…」その思いは、やがて彼を取り返しのつかない決断へと導いた。
ある月明かりの夜、ピズシエは決行した。獣魔の細胞を自身の体内に取り込む手術を。その狂気の沙汰に、弟子のアルノーは必死に止めようとした。
「師匠、やめてください!人間の体には耐えられません!」
しかし、ピズシエの獣魔への憧れは既に理性の域を超えていた。アルノーの懇願も空しく、手術は始まった。
獣魔の細胞が体内に入った瞬間、ピズシエの悲鳴が夜の静寂を引き裂いた。人間の肉体は、獣魔の力を受け入れることができなかったのだ。
恐ろしい姿に変貌したピズシエは、自らの無力さに打ちひしがれるアルノーにつぶやいた。
「早く…逃げ…ろ…」
人々に称賛され、誰よりも優しかった師匠は人の心を失い始めていた。
獣魔にむしばまれた体がけいれんを起こし、怒号が鳴り響く。
発狂したピズシエは、アトリエ中を暴れ回った。アルノーは恐怖に震えながらも、最後の決断を下す。師を守るため、アトリエの扉に閂錠をかけたのだ。
扉の向こうからは、もはや人とは思えない奇声が響いてくる。アルノーは耳を塞ぎながら、涙を流した。
時が経つにつれ、ピズシエの体に異変が起きていった。その姿は徐々に縮み、皮膚は硬化していく。かつて美しい彫刻を生み出した手は、今や醜く変形していった。
やがて、アトリエ内は静寂に包まれた。恐る恐る扉を開けたアルノーの目に飛び込んできたのは、アトリエの中央に転がる禍々しい像だった。
それは、かつてピズシエが追い求めた獣魔の姿でもなく、人間の姿でもなかった。歪んだ欲望と狂気が具現化したかのような、言葉では表現し難い異形の彫刻だった。
アルノーは震える手で、その像に触れた。冷たく、固い。まるで石で作られたかのようだった。しかし、その表面には生々しい質感が残っていた。
アルノーは深い溜息をつきながら、静かにアトリエの扉を閉めた。外では、新たな朝が始まろうとしている。
だが、この部屋に閉じ込められた狂気の記憶は、永遠に消えることはないだろう。
コメント
深淵の像はピズシェが彫ったんじゃなくてそのものだったのね…その後人の手に渡っていつしか遺跡に埋もれてしまったのでしょうか
彼自身が彫刻になってしまいました。
弟子が保管していたのですが、アトリエも取り壊され、いつしかルモリカ遺跡に埋もれてしまった感じです。
3メートル級とはいえ、獣魔を閉じ込めて破壊されなかったアトリエは頑丈ですね。
この様子だと、獣魔化・発狂する事無く獣魔細胞と適合できたゼタリリアは聖女の中でも異例の存在でしょうか。(+ヴェイダル博士の天才性)
深淵の像で出たピズシエの名は完全に忘れていました。
鍵ぐらい破壊しそうなものですが、特に弟子のアルノーを狙っているわけでもなく、暴れてるだけだったわけですね。
ゼタリリアは法力を持っているので侵蝕されなかった説があります。
サローザ、ギルゼンスも同様です。
ピズシエは伝説の彫刻家なのですが、本筋にはそんなに関わってこないです笑
「お労しや師匠…なんというお姿に…」
項垂れるアルノーの肩に手を置き、震える拳にそっと手を重ねた獣魔が語りかける。
「嘆くな我が弟子よ。この身体とてそう悪いものではない。
泣くなアルノー。お前は優しいな。それに獣魔となって気付いた事がある。ハアハア
自分より小さく脆弱な肉体は可愛らしい…ガチムチ髭も中々…ウホッ」
誰よりも尊敬した師の代わり果てた人格に恐怖したアルノーはアトリエを飛び出すと鍵をかけ、二度と戻るまいと誓った。
アルノーはなんとかして師匠を止めたかった…だけど、その師匠が試してみたい気持ちをずっと抱えていたのを知っていたんですよね。
なので止められなかったという。
髪の毛が逆立ってるところとか地味に深淵の像と同じになってますね。芸コマ。
細かい部分まで見て貰えて嬉しいです笑
元々長髪だったんですが、髪が逆立ってそのまま体が朽ちていき…
自分自身が最後の作品になれるよう願った、という結末です。
pixivから来たんですけどコンセプトの割に文章が硬いというか地の文で説明したいタイプの書き手なんですかね
コンセプトはやわらかいですかね笑
目隠し×ハイヒール×高身長お姉さん
は自分の中では硬派なのですが…
会話は少なめですね。
その辺り、もう少し読みやすくするために工夫します!
どうやって彫刻の姿に変化したんだろう。自分で変化させたんでしょうか。
獣魔になってしまうことに対して抵抗した結果ですね。
自分の力を小さくしようと内側に向かっていくイメージを重ねたことにより、体が縮まって固まり、彫刻のようになってしまいました。