沿岸の小国フィデア。その豊かな土地は周辺国の羨望の的となっていた。鉱物資源をめぐって戦争が繰り返され、フィデアの民も兵も疲弊し切っていた。
ダフニズ王の執務室に、ゾルオネ枢機卿が足早に入ってきた。その顔には、何か重大な決意が浮かんでいる。
「陛下、このままでは国が滅びてしまいます。古代遺跡に眠る魔導巨兵を使うべきです」
ダフニズ王は顔をしかめた。
「魔導巨兵だと? なにを言っているのかわかっているのか。あの忌まわしき兵器を使うなどと」
「はい。その力は圧倒的です。周辺国を瞬く間に制圧できるでしょう」
王は深いため息をついた。魔導巨兵。その名を聞くだけで、古の人々は震え上がったという。
あまりに強大な力ゆえに、戦争での使用さえ忌避されていた兵器だ。
しかし、他に選択肢はあるのか?
幾日もの熟考の末、ダフニズ王は重い口を開いた。
「わかった。国を守るためだ。魔導巨兵の使用を許可しよう」
その決断が、フィデアの運命を大きく変えることになるとは、誰も予想していなかった。
魔導巨兵の力は、まさに圧倒的だった。
周辺国はまるで砂の城のように崩れ落ち、フィデアは瞬く間に勝利を収めた。
しかし、それは新たな悲劇の始まりに過ぎなかった。
魔導巨兵と軍を掌握したゾルオネ枢機卿は、その野心を隠さなくなった。
「陛下、我々フィデア人こそが至高の民族なのです。なぜ、ここで止まる必要があるでしょうか?」
ダフニズ王は懸命に諫めた。
「もう十分だ、ゾルオネ。我々は国を守ったのだ。これ以上の戦争は必要ない」
だが、枢機卿の耳には王の言葉など届かなかった。
民や騎士たちの心はすでにゾルオネに惹かれていた。
彼らの目には、フィデアを守り、その名を世界に轟かせた英雄として映っていたのだ。
玉座の間で、ダフニズ王はただ一人、深いため息をついた。
――自分の判断は本当に正しかったのか…
その問いへの答えを見つけることなく、ダフニズ王は失意のうちに病に倒れ、この世を去った。
そしてゾルオネ枢機卿の野望は、さらなる高みを目指して燃え上がっていく。
フィデアの民はやがて気づく。彼らが手にした力が、呪いであったことに。
コメント
悪役に描かれがちだったフィデアも国王は良識ある人物だったのですね。
周辺国に攻められ疲弊し、存亡の危機に立たされた状況を覆した魔導巨兵とゾルオネが人心を掌握し、従う国民もまた慢心していったのは無理からぬ事とも言えます。
呪いの部分が気になります。
力に溺れ自制を失い、対抗する敵の団結と強化をもたらし歯止めが利かなくなるからか、忌避される程の代償が発生するのか。
ジャーナリストを殺害していた某大統領は海外から見たら恐ろしい存在ですが、開戦以前の国民にとっては頼もしい指導者に見えていたはずなのでゾルオネの支持も頷けます。
そうですね、でも王としては決断力に欠けるというか、優しすぎたのかもしれません。
周囲の国から攻められ続け、精神的にまいっていた部分もあります。
魔導巨兵は対人に対しては強力な兵器なのですが、結局のところ力による対抗にとどまらず、侵略につながっていきます。
結局のところフィデアは争いから抜け出られなくなります。
俯瞰でみるとええ~って思う人物でも内側からだと頼もしく見えたりもしますよね。
そういった心理も少しずつ書けたらと思ってます!
なぜ第三章が終わってから第三章の設定を掘り下げていくのか?
最中に挟もうかな…と思ったんですが、テンポが悪くなりそうな気がしたので後からサブストーリーを追加しておりますm(_ _)m
もともと資源が豊かだったから周辺国に資源を狙われて戦争になった。
戦争に疲れた人々は魔導巨兵を使って周囲を黙らせた枢機卿を認めた。
しかし魔導巨兵の力のせいで周辺国から恨みを買うことになった。
これが呪いというのなら理不尽だと思う。
元は資源を狙われていた側なので自分たちを守っただけなのに。
そうですね、フィデアから見るとその通りだと思います。
ただ、守るだけでなく侵略にも魔導巨兵を使いだしているので、結局それが火種になり…
戦禍から逃れられなくなってしまうんですね。
力を持つって怖いです。