目覚めた時の気分は最悪だった。
体に力が入らず、起き上がれない。
脇腹が脈動に合わせてひどく痛んだ。
見慣れない石壁。
リカードが横たわるベッドの周りには小さなテーブルが置かれてあり、その上にはよくわからない器具が並べられていた。
国境付近での戦い――
仲間を逃がすために殿を買って出たリカードは奮戦し、なんとか敵を撤退させることに成功した。
しかし、その代償として彼の脇腹を敵軍の槍が深々と貫いたのだ。
戦いに明け暮れた日々に、幾たびも死を覚悟することはあった。
リカードは悲嘆せず、生き残るために山を下る。
失血が進み、朦朧とする意識の中で、女の声がした。
覚えているのはそこまでだ。
気が付いたら見知らぬ部屋で、ベッドに横たわっていた。
体には包帯が巻かれ、治療を受けた跡がある。
だが、直感でもう自分は長くないと気づいていた。
深手を負い過ぎたのだ。
「国境の視察なんて退屈だったけど来てよかったわ。リカード、気分はどうかしら」
不意に扉が開く音と、女の声がした。
聞き覚えがある。
女はゆっくり歩みを進めると、横たわるリカードの胸元に手のひらを乗せた。
「三国にその名を轟かせた最強の勇士。ここで死なせるのは惜しいわね」
女は白く細い指先をリカードの腹部に沿わせる。
「あんたが助けてくれたのか…?」
短めの黒い髪。
透き通るような白い肌。
目隠しに黒いドレス。
リガレア帝国の聖女であることはわかったが、面識はなかった。
「そう。倒れた貴方に応急処置をほどこして、ここに運び込んだ。でも、このままじゃあなた、長くはもたないわ」
聖女は口角を上げ、唇をなめた。
「そうか」
リカードは死を受け入れようとしていた。
自らの信念のためとはいえ、彼の手も血にまみれている。
いつかこんな日が来るだろうと、どこかで思いながら戦い続けてきたのだ。
「あらあら、潔いわね。でも、残された妻と幼い子どもたちは悲しむでしょう」
聖女は大げさに天を仰ぐ。
「…あんた、俺の何を知っているんだ。何が狙いだ」
リカードの声には明らかに動揺が混じっていた。
「うふふ。歴戦の勇士でも家族のことに触れられると弱いのね。リカード、貴方はこのまま死なせるにはあまりに惜しい逸材よ。だから、その生命を私に預けてみない?」
聖女の両手がうっすらと光を帯びた。
「生命を…?俺に何をさせたいんだ」
リカードの問いに返答はなかった。
再び扉が開き、黒ずくめの男が部屋に入ってくる。
男が持っていたのは鈍い光沢を放つリガレウム製のケースだった。
表面には無数の細かい傷。
微かに聞こえる低い振動音と、時折もれだす青白い光。
「アテヤ霊脈で採取した獣魔の因子。うまくいけば貴方の傷ついた臓器を修復できるはずよ」
「獣魔だと?バカな。人間なんぞ獣魔に取り込まれて終わりだろうが」
最強の兵士を作るために獣魔の力と取り込もうとした実験。
それがどんな結末を生んだか、リカードは長く続く紛争の中で幾度も見た。
人として生き、人として死ぬ。
それが自然なことだと信じてきた彼にとって、聖女の提案は耐えがたいものだった。
「ふふふ、そうね。再生する獣魔の細胞が人間の体を侵食し、取り込んでいく――
ただしそれは、普通にやればの話よ」
聖女の両手の光が強まり、薄暗い部屋を照らす。
「手術中は貴方の頭と胸に私が法力を流す。これで獣魔の侵食を和らげることができるはずよ。多分だけど」
「そんなこと、できるわけが――ぐっ!」
激痛がリカードの言葉をさえぎる。
彼の体には、聖女に対抗する力は残っていなかった。
「感謝しなさい、リカード。貴方は神の力を手にするの。私たちが『新たな神話』となるのよ」
聖女が白い歯を見せて笑う。
薄明かりに照らされた横顔には、狂気と理性が共存していた。
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コメント
かみ‐よ【神代・神世】神が統治し、活動していたという、人の世に先立つ時代。つまりオーゾレス(ほぼ確定)は現代を神が統治していた時代に戻すのが目的?人間たちが好き勝手やる世の中になったことをラージェマは嫌そうにしてましたけどこれから先に関係してくるのか。リカードのように獣魔の力をゲットして神に近づいた人間と神から天啓で力を授かった聖女たちで新たな神話を作るつもりなのか。神の力を得るも気になるセリフ。アテヤ霊脈で採取した獣魔の因子と言っている。獣魔=神なのか。
黒髪の聖女(一応伏せます笑)の狙いはタイトル通りですね。
神の統治していた時代をもう一度作りたい、というものです。
でも巻き戻して神に統治してもらうのではなくて、自分たちが新たな神となり、後に神話として語られる側になるというだいそれたものです。
当然ラージェマが知ったらブチギレ案件です笑
獣魔と神の関係についても今後明らかにしていく予定です!
黒ずくめの男はヴェイダル博士、それとも他に優秀な人物が?
オーゾレス直々に法力を注がれれば成功率・適合率ともに高水準を期待できますが、頭数を増やす時期にはかなりの劣化版になりそうです。
キャラ紹介では超感覚で狙撃、脚力で瞬間的に間合いを詰め「獣魔にも有効な近接武器」を叩きこむ戦法を予想していました。
法力を併用した獣魔因子移植手術だと肉体強化以外の特殊能力を得られるのでしょうか?
飛行や念動防御を獲得できると戦い方は相当変わってきます。
魔導巨兵に搭乗するのが最も戦力増強に繋がる気がしますが、是非生身で暴れて欲しいものです。
黒ずくめの人物はヴェイダルの弟子です!
優秀です、彼には及びませんが。
脚力で間合いを詰めて…というのはまさに!です。
近接戦闘を得意としています。
術式に法力を使用しているため副作用は少なめにはなり、安全性も増すのですが飛行・念動防御はありません。
感応力も使えないのですが五感は強化されているので、それで戦っていく感じですね。
魔導巨兵も乗りこなせますが、背負っている斧を活用する予定になっております!
リカードはいったいなんの任務についていたのか。そこを掘り下げると脱線するから伏せているのか。それとも何かの伏線なのか。
そうですね~一応任務は設定あるのですが、そこも書き出すとその任務を命じた人や属する組織についても掘り下げる形になり…
本筋が進まないので、何かしらの任務という流れで書いております。
やめろショッカー!戦士リカードは改造人間である。彼を改造したオゾママは、世界征服をたくらむ悪の聖女である!
!?
検索しました!
仮面ライダーって改造人間なんですね…そしてその改造をしたのは敵側なんですか。
敵を倒すために博士に改造してもらって対抗する力を得た、とかではなく。
オゾママ笑
世界征服というか、もっとえらいことしでかそうとしています。
戦う度に強化された感覚神経・反射神経・運動神経が広がって行く…。
この神経節が脳に到達した時、戦うだけの生物兵器になってしまうのだろうか?
解析中の古代の碑文には、戦士の末路が記述されている…。
そんな不安を押し込め、身体の変化を気遣う医師や仲間にサムズアップで答える。
仮面ファイターリカードは今日も戦い続ける!
仮面ファイター笑
たしかに仮面のファイターではある!
頑張れリカード!
聖女の法力で暴走を抑えないといけない体になってしまいました。
死ぬよりはマシかもしれませんが…
獣魔の力を利用しようとする動きは活発だったわけか。
聖女の法力でしか対抗できないとなると他の人はヒマだもんな~。
それこそ魔導巨兵なんてものもあるわけだけど大型獣魔を倒せるほどではなさそうだ。
強化された人間がどのぐらいの能力を持っているのか。
あまり強すぎないといいな~。
ヒマ笑
聖女に何もかも任せてしまうのはプライドが許さない、という男勢もいそうです。
ていうかいますね絶対。
魔導巨兵は大型獣魔を倒すにはパワー不足ですね。
数によってはいけるかもしれませんが…
獣魔の力によって強化されたリカードは超人的な力を発揮できますが、聖女ほどは人間離れしていませんね。
ここまで一気読みしましたが登場キャラの名前がわかりにくい。パッと見て男か女かわからん…リカードは男っぽいけど。書き手はそれぞれの立ち絵とキャラ紹介で説明した気になってるのかもしれないけどもう少し各々の心理描写が欲しい。ゲームの説明書にのってる登場人物紹介みたい。
読んでいただいてありがとうございます!
一応ザ行がついているのが聖女というルールがありまして、登場人物のほとんどが女性になります。
ただ、どちらかわかりにくいというのはありますので、聖女○○と表記するなど、もう少し工夫したいと思います。
それぞれの心理描写についてもサブストーリーで書いていく予定です。
ジオンのモビルスーツみたいな濁点名が多いとは思っていましたが、ザ行ルールは気が付きませんでした。(ズケルグとか)
若き日の ザ クネルは遠目に見ると、聖女の様な美形に見えますね。
ゾ ルオネ「儂も女性の様に美しいと浮名を流したものだ」
ラー ジ ェマ「人間の女どもは私を見ると惚れ惚れとした表情を浮かべるのは何故だろう?」
ゲルググみたいなズケルグ笑
ザ行縛りは後で思ったより大変だな…ってなりました。
ザクネルたちもそういえばザ行…
ちなみに彼は公式で割とイケメンという設定があったりします。
ゾルオネは厳ついおっさんですね。でもスキな人はいそう。
ラージェマは中性的なイケメンです。希少!