北の果てに広がるヘウズ侵蝕領域。そこから押し寄せる獣魔たちは、陸地に向かって南下していた。
赤い眼を光らせながら海から近づくその姿を目にした各国の指導者たちは、恐怖と混乱に陥った。
これまでに獣魔の襲撃は幾たびもあったが、明らかに間隔が狭まっている。
ヴァルネイ共和国の法王ディメウスは、重苦しい表情で窓の外を見つめていた。
――このまま獣魔たちの南下が進めば、三国いずれも滅びてしまう。
彼の脳裏にひとつの計画が浮かんだ。壮大で、そして無謀とも思える計画。
ただし、それが唯一の希望でもあったのだ。
ディメウスは各国の指導者たちに呼びかけた。
我々は力を合わせ、三国への入り口となるゲイルード海に要塞を築かねばならない、と。
その言葉に、多くの者が困惑の表情を浮かべた。
海の上に要塞を築く――莫大な費用と労力が必要となるだろう。
だからといって、彼らに他の選択肢はなかった。
海底の地形の調査、そしてその環境に応じた適切な基礎工事。
海水や潮流、波浪などの過酷な環境に耐えうる構造設計。
埋め立てや構造物の設計まで、求められる物資の量と時間は無限に感じられるほどだった。
水深の浅い海底に岩を積み上げ、その上から土砂を流し込むことで島を造成する。
そんなことが本当に可能なのか――誰もが不安を抱えながら大規模な工事が始まった。
しかし、その間も獣魔たちは待ってはくれない。
次々と押し寄せる敵に対し、通常兵器はほとんど無力だった。
ディメウスは聖女たちが持つ法力こそが獣魔への唯一の対抗手段だと説き、三国から聖女を集める。
聖女たちは交代で最前線に立ち、獣魔たちを迎え撃つ。
多くの犠牲を払いながらも、彼女たちはディメウスの描く未来を信じて戦い、海上では昼夜を問わず工事が続いた。
長い年月を経て、三国の領土防衛の要となる海上要塞が完成した。
その姿は、まさに人類の叡智と決意の結晶だった。
「我々はこれを、ゲイルード海上要塞と名付ける」
ディメウスは宣言した。その声には、誇りと希望が満ちていた。
その後、要塞には最新鋭の武器が配備され、三国の聖女たちの中でも最高戦力が配属されることになる。
ヘウズ侵蝕領域からの脅威に、ついに有効な対抗手段を得たのだ。
しかし、安堵の空気は長く続かなかった。
ある日の夕暮れ時、見張りを務めていた聖女の顔から血の気が引いた。海の向こうに複数の巨大な影が見えたのだ。
「こ、これは…」
声が震えた。
これまで見たこともないほどの大群だった。
聖女は警報の鐘を鳴らし、要塞中に緊張が走る。
聖女ミズハは要塞の屋上に作られた高台に立ち、バイザー越しに海の向こうを見つめた。
その顔には、決意と不安が交錯していた。
「見た感じ、相当ヤバいよね~あれ。でも逃げるわけにもいかないか」
砲型のブリッツを握りしめ、小さくつぶやく。
獣魔が海上要塞にたどりつくまで一日もかからないだろう。
聖女の闘いの歴史に、新たな一頁が加えられようとしている。
その行方を、誰も予測することはできなかった。
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コメント
幾つもの困難を超えて事業を成し遂げたディメウスの功績は偉大ですね。
要塞建設に至るまで獣魔の襲撃から守り抜いた聖女に「第二の聖女」がいたりするのでしょか?
主に特殊部隊枠と思われる新しく紹介された聖女達には、趣味や性格を想像させる情報が少ない事が気になっていました。
内面が設定されていない聖女は、かつてない激しい戦闘で犠牲者となる?
ディメウスさんは他の人の心を動かす魅力がある男ですね。
第二の聖女は建設より前に現れていますが、この戦いに参加していたのかどうかはまだ謎です!
レイズウォルの皆さんはそれぞれサブストーリーなどで補完していこうと思っております。
とりあえず今回はジレミュー、もうひとりの新キャラの掘り下げですね。
新キャラが多すぎるかもしれない…でももっといっぱい出したい…
なかなか要塞に到着しない獣魔たち・・・
ウッ!
ちょっとテンポ悪いですかね。
今回は特に思惑とかが少なく、獣魔が要塞に到着しちゃうと迎撃して終わるので、それ以外のお話が長くなってるかも。
気にする必要ないでしょ。ゲイルード海上要塞も個別の説明を読んでなければ何かわからんよ。
ありがとうございます。
話をわかりやすくしたい、というのは根底にありますね。
あとテンポよも良くしたいと思ってます。
固有名詞のリンクはあるといいねー一回読んでも忘れてることがあるからな
そうですね、できるだけリンクさせて本筋がわかりやすくなるように工夫したいと思ってます!
このバイザーかわいくないよな
シューターっぽくて気に入ってるんですけどね~。
横から見るとなんかな…とは思いました。
海域の中で比較的浅い場所を探して土砂で埋めていくのって高い建築技術が必要ですよね。土木作業用の魔導巨兵も存在してたりして。そうなると部分的には現代日本より科学が進んでいるとも言える?
魔導巨兵はそういった使い方もありますね!
念動力や神気の概念もありますので、現代日本より部分的には便利だったりします。