「お姉ちゃん、砲弾持ってきた」
「んあ、ありがと」
ダルメザは新人聖女である妹分のジレミューから砲弾を受け取ると、ブリッツに装填しはじめた。
「お姉ちゃんが準備してる間、わたしが攻撃しておくね」
「ん?え、ちょっと」
ダルメザが引き止める間もなく、ジレミューは大砲型のブリッツを小脇に抱えて高度を下げていった。
よく目立つ赤いリボンと、ひとつに束ねた金色の髪が戦場に舞う。
「ジレミュー、勝手な真似はするな!持ち場に戻れ」
「すぐ戻りますから!」
イルザスの声にも耳を傾けず、ジレミューは海中を泳ぐ獣魔の群れに近づいていく。
「ここまで来て先輩たちのサポートだけなんて、つまんないもんね。実戦経験を積まなきゃ強い聖女にはなれないでしょ」
ジレミューはつぶやきながら大砲の照準を獣魔の群れに合わせた。
すでに装填された砲弾に念動力を付与する。
――昏い海を見ると思い出す。
炎に呑まれる街と人々の悲鳴。
成すすべもなく獣魔に殺されていく自警団の男たち。
幼いジレミューは必死に走った。
死にたくない――頭の中は生き延びることでいっぱいだった。
保護を求めて転がり込んだのは、ダルメザの住む屋敷だった。
家族を失ったジレミューを不憫に思ったダルメザの両親は、彼女を暖かく迎え入れ、自らの子どものように接した。
以来、ジレミューとダルメザはまるで姉妹のように暮らしてきたのだ。
月日が流れ、凄惨な過去を忘れかけたある日――
ジレミューは天啓を受ける。
神から授かった法力。
この力があれば、街を襲った獣魔たちを殲滅できる。
そう確信した。
ジレミューはすでに聖女として戦っていたダルメザの後を追い、エザリス王国の聖女の一隊に参加する。
家族を殺した獣魔への復讐。
保護してくれたダルメザの家族への恩返し。
聖女として戦うことで、どちらの願いも同時に叶えることができる。
ジレミューは逸る気持ちを抑えきれないでいた。
轟音とともに海上で爆発が起こる。
爆風の中で小型獣魔が叫び声をあげていた。
――いい気味だ。今や泣き叫ぶのは獣魔の方だ。
ジレミューは気づかないうちに、歪んだ笑みを浮かべていた。
「へっへーん、どうですか先輩!たいしたもんでしょ」
ジレミューは得意満面で聖女たちを見上げる。
ほとんど同時に、海面の影から何かが射出された。
「わっ、わっ!?なに?」
慌てて旋回し、身をかわすジレミュー。
そのすぐ近くを小型獣魔が放った毒液がかすめていく。
ジレミューの体がふっと軽くなり、ダルメザの近くまで念動力で引き寄せられていった。
「十分な高度がないと反撃食らっちゃうよ?これに懲りたら勝手なことしないでね~」
「ううっ…お姉ちゃん、ごめん……」
「ま、威力は申し分なしだったよ。ヘコむのは後にして一緒にこいつらやっつけちゃお」
「う、うん!了解!」
再びジレミューが大砲を獣魔の群れに向ける。
プルゼリフの聖女たちによる空からの爆撃は、さらに激しさを増していった。
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コメント
ついに妹成分()が追加されたか・・・長かったな。というのは冗談ですが多種多様な聖女が登場すると飽きにくいとは思います。ところで大砲系の聖女には漢字二文字の必殺技みたいなのはないんですかね。
妹成分少なめ、というかほとんどありませんね…
姉成分が多すぎる。
これは作者の好みが反映されすぎています、がそういう作品なんです。
必殺技!
ありますよ!
天墜のように、今後登場予定です。
焦燥の砲撃って文法的に変じゃないですかね。進撃の巨人・・・逆襲のシャアともまた違うような。
確かに違和感ありますよね。
いただいた例もそうですが
邪智暴虐の王を除かなければならぬ
とかかっこよくないですか?
王の暴虐を除かねばならぬ
の方が意味は伝わりやすいかもしれませんが、上の方がスゴみを感じます。
昏炎とか謎単語も作り出してますので、そのあたり御愛嬌ということでひとつ。
強い聖女になる事を「焦っている」というより、自己顕示欲からスタンドプレーに走りがちな傾向に見られます。
良い影響を受けて素直に成長して行くと良いのですが…。
【短慮の急降下】、【浅はかな新兵】、といった所でしょうか。
まだまだ青い聖女ですね。
あまり戦士として完成しきっている聖女ばかりもなんですし、未熟さも描いていきたいなと思います。
成長したらきっと強くなるはず!
書き手――好きすぎ問題
そう――好きなんです。
間や緊迫感、臨場感を出したい時にいいですよね。
無謀な単騎突出でもフォローが入る、ローゲルクとの差よ。
爆撃型の新人は反撃を受けない高度を保つ等の事前講義は無いのだろうか?
法力有効距離の縛りがあるからB29やドイツ宇宙爆撃機(後のスペースシャトル)の様にアウトレンジから撃つ戦法は使えないけど。
やはりジレミューは可愛いですね。
ドイツ!?
なぜか軍事関係にくわしい人が多い!?
弾道飛行により地球の反対側(対蹠地)でさえも爆撃できる…みたいなのもありました。
このあたり勉強しないとですね。
ちょっとスケールがでかすぎて聖女の能力には当てはめられないかもですが…地球の反対側とは。
ジレミューは早く活躍したくて無謀な攻撃を仕掛けちゃいました。
間が悪いとこれだけで戦線離脱してしまいそうですが、今回は運が良かったですね。
Silbervogelゼンガ—を検索した所、致命的な問題点が幾つもある机上の空論だった様です。
昔読んだ本でテスト終了次第、実戦配備する段階と書かれていたので勘違いしていました。
そうなんですか!
ちょっと壮大すぎたんでしょうか。
でも創作するうえでは知っておくと世界観構築に広がりが出そうですね!
いつもありがとうございますm(_ _)m
妹分って割とよくいるキャラだと思うんだけどここでみると新鮮ですね。。
そうですね、序盤に出てきてもおかしくはないのですがそこは聖女BLITZなので。
でも今後も若年系聖女は登場予定です!
逆も!
ジレミューは元気で優しい子のように思えますが利己的というか自分が助かりたいだけみたいなところも感じられます。気づかないうちにゆがんだ笑みを浮かべていたりどこか性根がひん曲がってしまっている描写が気になります。
余裕があるときは周りも見えますが追い詰められると自分の生存で精一杯になります。
誰だってそうかもしれませんが、そのラインが人より低めというか、まあ利己的ということで間違いないです。
聖女BLITZに登場する聖女はどこか性格や思想が歪んでしまっております。
1話から読んでいる者です。キャラクターの魅力を伝える前に話を進めてしまっている気がします。各キャラクターの逸話をひとつでもはさんでおけばもう少し感情移入できるんじゃないでしょうか?話が進むのが速いのはテンポのよさを生むので賛成ですが新しい登場人物を出すペースが早すぎると感じてしまいます。
ご意見ありがとうございます!
こちらは他の方からもご指摘いただいている点でして…
読み手からすると「なんか知らない人同士が戦っている」という描写になってしまっていたり。
これはひとえに私の実力不足でして、聖女の個別の記事である程度説明できたつもりになっていました。
テンポの良さは最重要視している点ではあるのですが、そのためにそれぞれのキャラの掘り下げを端折ると上記のような問題が出てくるのだと思います。
そのため4章まで書き上げた段階で、一度また各キャラの掌編を作っていきたいなと考えておりますm(_ _)m
ダルメザは裕福な家の子だったんですね。
自警団のひとたちは犠牲になったのだ。
このころは聖女はまだいなかったのか到着していなかったのか。
比較的恵まれた環境で育ちました。
なので美味しものをいっぱい食べさせてもらえたんですね。
自警団の人々は国に頼らず街を守ろうとしましたが…獣魔の力は圧倒的でした。
聖女はいますが、到着する前に襲撃されてしまった形です。
砲弾は後ろに控えている新米聖女たちが運んでいるのでしょうか。プルゼリフは砲弾がないと戦えなさそうですから意外と重要な役割を担っていることになりますね。ヴィゾアみたいな神気だけでレーザー砲を撃てる聖女は少ないということですか。
そうです!新米聖女は自分たちにできることで必死に貢献しております。
プルゼリフの面々は実弾系が多いですね。
神気を凝集させて撃つのは、そういう武器を扱える者だけでして全体の数は少なくはなります。
実弾に念動力を込めるほうが簡単、ということですね。
当てるのはけっこうムズイみたいです。
ダルメザ「これからは独断専行しちゃだめだよ?心臓が止まるかと思ったんだから」
ジレミュー「ごめんなさい。お姉ちゃん…」
ダルメザ「おかげでたったの3食しか食事が喉を通らなかったよ」
ジレミュー(そっか…おかわり2人前しか食べてなくて変だと思ったけど、それ位心配かけちゃってたんだ)
言いそう笑
たくさん食べるのが正義なお人なもので。
ジレミューも心配ですよね3食だと!