夕方の陽射しが、朽ちかけた石柱をやわらかく照らしている。
乾いた風が通り抜けるたび、床に散らばった砂や小石がささやかにかすれる音を立てた。
かつては人々が集い、信仰の場となった神殿にはもう静寂しか残っていない。
「で、やっぱ集会なんてやってねー…よな」
笑みを浮かべたまま、ベルナズは石柱のひとつに座り込んだ。
彼女の感応力の範囲外から、ただならぬ気配がただよっている。
ベルナズの読み通り、酒場でこの場所について話した青年も、神聖軍の一員なのだろう。
「おい、誰が相手してくれるんだ?なんなら全員まとめて、でもいいんだぜ!」
空に向かって声を張り上げる。
正面から決着をつけるのことこそ、ベルナズが望む戦い方だ。
だが、彼女の問いに答える者はいない。
少しだけ間があいた後に――
「コルゼティ様のお言葉通りね。ベルナズはすぐ誘いに乗るだろうって」
冷めた声とともに、空から擲弾が降ってきた。
「上か」
ベルナズは身じろぎせず、砲型のブリッツを上空に向けると、擲弾を空中で撃ち落とす。
爆発音が神殿跡に鳴り響いた。
爆煙の向こうに薄っすらと人影が現れる。
「本当にひとりで来たのね。わたしはゼフィナ。歓迎するわ」
艷やかな声とともに、ふたつの擲弾が射出された。
ベルナズは石柱を蹴ると空中にふわりと浮かび上がり、擲弾の軌道から離れる。
爆発を背に、体の左右に砲型ブリッツを展開させ、人影を撃ちまくる。
炸裂音が夕日に染まった街の空気を震わせた。
「オラァ!どうした?逃げてばっかりかよ!」
いまだ姿を見せない聖女 ゼフィナの影に向かって、ベルナズの操る4つの砲型ブリッツが次々と砲弾を放つ。
市街戦用に火力を弱めているとはいえ致命傷を与えるには十分だ。
ゼフィナは迫り来る弾幕を辛うじて空中でかわし、転がった石柱の陰を走り抜ける。
携えた黄金の銃型ブリッツから、擲弾が放たれた。
「ケッ、おせえ!」
ベルナズは念動力で弾を叩き落とし、間一髪で爆心地を外す。
「ふう、たいしたものね。4つのブリッツを同時に、それもこんなに精密に扱えるなんて」
ゼフィナが空中に浮かびながら、バイザー越しにベルナズを見下ろす。
繊細な金色の髪が風に揺れた。
「ふん。わかったら大人しく投降しろよ」
ベルナズは勝ち誇ったように鼻で笑う。
無言で微笑むゼフィナの擲弾銃にはめ込まれた赤紫の宝石が、不気味な光を放ち始める。
次の瞬間、撃ち出された擲弾は先ほどより明らかに速度を増してベルナズに迫った。
「なっ――!?」
反射的に後方へ跳躍するベルナズの目の前で、擲弾が爆音を轟かせる。
彼女はとっさに念動防御を展開させて爆風を抑え込んだ。
だが、周囲に連鎖的に投げ込まれた擲弾まで防ぎきれない。
合計8発もの擲弾が追尾するように飛来し、石柱や壁面に着弾して爆炎を撒き散らす。
「……なんだと!? この……!」
ベルナズは慌てながらも4機の砲型ブリッツを駆使して擲弾を撃ち落とす。
空中で爆風が起き、その反動で彼女は大きく後方へ吹き飛ばされた。
「ぐっ、げほっ……あんの野郎……!」
粉塵が舞う中、地面に手をつきながらベルナズは周囲の感応を探る。
しかし、すでにゼフィナの気配は跡形もなかった。
――8つの擲弾を同時操作だと?数が多すぎる。あの宝石の力か……?
思考する間もなく、再び複数の擲弾が頭上に降りかかる。
その時――
「こっちよ」
冷たい声とともに、ベルナズは崩れた壁の陰へと強引に引き寄せられる。
念動力で彼女を救い出したのは、駆けつけたベルザリアだった。
直後に爆発が起き、激しい火の粉と煙が舞う。
「なんだよ、お前もいたのか?」
「これだけ派手に戦っていればすぐに気づくわ」
ベルザリアはそう返しながら、ベルナズの腕を抱き寄せ床を蹴り上げて空へ飛び上がる。
地面では爆風が荒れ狂い、石柱や壁がさらに崩れ落ちる。
その一方、神殿の奥でわずかに金色の髪が揺れたのが見えた。
「そこか!」
ベルナズが砲撃を放つが、煙の中の人影は空へ跳び去っていく。
「ま、こんな所かしらね。邪魔が入ったことだし、仕切り直しましょう」
夕陽を背に、ゼフィナの声が冷たく響いた。
金色の髪に赤紫の宝石の光が交錯し、彼女のシルエットが妖しくも美しい。
「てめえ、待ちやがれ!」
ベルナズは追撃しようとするが、ベルザリアが制止するように肩をつかむ。
「おやめなさい。まだ伏兵がいるかもしれないのだから。いったん他の聖女と合流するわ」
ゼフィナはすでに遠くの空を駆けている。
――あの宝石、ただ法力を増幅させるだけでなく、操作できるブリッツの数を増やす効果があるの?
ベルザリアはため息交じりにバイザーを外し、空を仰ぐ。
紅く染まる残照の中で、彼女らに匹敵するか、あるいはそれ以上の速度でゼフィナの影が小さくなっていった。
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コメント
目隠しをしたお上品貴族聖女が擲弾をばらまいてくるってどんな話を書くんだ…
イラストを見たところでどういう状況かわかりませんからね…!
このイラストは立ち絵の雰囲気がくずれてなくてよき
ありがとうございます!
その辺り勉強中です。
3Dが使えたら再現性カンペキになりそうなんですが
擲弾銃は異なる弾を使い分けるイメージがありましたが、先制攻撃の擲弾に毒物/化学物質が仕込まれていなくて良かったです。
ゼフィナ自身の広い感応範囲に加え、遅い弾速に慣らし急加速する巧みな戦術。
8発もの擲弾誘導とスピード自慢の聖女と同等以上の速度、極上品質の宝石による増幅が凄まじいですね。
強化ゼフィナが想像以上に強かった…。
ベルザリアはスタンドプレーに走る事無く、冷静に協調できる人物と分かった事が今回の収穫。
それはそれで恐ろしいですね!
擲弾の種類によってはベルナズをもっと追い詰められたかも?
普段は4つぐらいですが、8つ同時に操れるとなると結構厄介です。
ベルザリアも性格がアレなだけで、一応エザリスの聖女ではあるんです笑
擲弾(てきだん)とは、弾頭に炸薬や化学剤を装填した飛翔体で、比較的近距離の敵を攻撃する武器です。
初めて知ったw
そうなんです、私も書く前に調べて初めて知りました。
ちなみに検索したら「グレネード」という言葉が出てきて、あ~なるほどってなりましたね。
擲弾(てきだん)
「擲(てき)」=投げる
「弾」=爆発する兵器、あるいは弾丸
つまり、「投げて使う爆発物」の総称です。現代では主に手榴弾(グレネード)のことを指す。戦術的に相手を制圧したり、混乱させるために使われます。
擲弾兵(グレネーディア)という兵種もありました。17〜18世紀のヨーロッパでは、「擲弾を投げる訓練を受けた兵士」が編成されていた。ちなみに精鋭部隊とされていました。
ンなるほど!
めっちゃわかりやすいです。
ありがとうございます!
擲弾というか手榴弾という呼び方がしっくりきますね。
ゼフィナが使っているのは爆弾型のデカイ弾丸みたいなのをイメージして書いてました。
グレネーディアという響き…かっこいい…
聖女BLITZの世界ではゼフィナがグレネーディアの第一号ですね☺
思ったんだけど念動力で操作してるなら引き金はいらないのでは?
念動力でも弾丸は飛ばせますが、引き金をひいて撃った方が早く飛ばせます!
指でなくても操作はできますから、引き金の形をしていなくてもOKですね。
ゼフィナの擲弾銃は大型の擲弾を1、2発装填する物に見えますが、作中の描写では一度に8発以上間髪入れずに射出しています。
拳銃の様に複数の弾丸を内蔵して、再装填するまで連発できるという事でしょうか。
アズカライトの操作対象増幅が強力でも銃の装弾数を超えた運用はできない筈。
マガジン式、あるいはスピードローダー(リボルバーに6発1セットで弾を込める道具)で素早く再装填するか、擲弾銃を複数用意して絶え間なく擲弾をばら撒き続けているとか?
有象無象の神聖軍に対しては暴徒鎮圧用の催涙グレネードを打ち込めるゼフィナが適しているものの、敵側にいるのが残念。
感応力は過剰な情報を術者自ら取捨選択している一方、感覚が通常より何倍も鋭敏で過剰な情報を即座に遮断出来ないとしたら閃光轟音を発するスタングレネードが聖女にも有効、むしろ弱点という事に。
1発ずつ装填するタイプになっています!
なので、複数の弾は念動力で射出しています。
そのぶん、弾速はゆっくりにはなるのですが…
そこにブリッツから発射した擲弾が混ざってきたり。
ベルナズもびっくり。
ウッ
感応力は鋭敏になりますが、それが仇となる場合もありますね。
これ以上は…言えない!
榴弾を念動力で投擲できても、銃の炸薬で撃ち出す方が弾速・飛距離で格段に優れる。
ベルナズを驚愕させた弾速を得るには極上石ブリッツ銃から撃ち出す必要がある様な?
アズカライトで法力自体を増幅して投じても8発を速く自在に操れるとしたら、強力な宝石さえ持っていれば重く邪魔な銃を否定する事に。
投げ込んだ擲弾の大半が投擲で、擲弾銃に装填して速射した擲弾は誘導弾の合間に1~2発。
大型の弾数を収納するポーチやバックパックはお洒落では無いので、擲弾を搭載した携行具をブリッツとして随行させているとか。
その場合、ゼフィナに付随して移動する弾薬庫を撃てば誘爆に巻き込めるw
法力が及ぶ範囲で聖女本人からは遠く相手に近い位置から不意に石礫を飛ばせば、ブリッツ同士で戦うと思い込んでいる対聖女戦では意表を突けるかも。
武道を学んだ者が実戦で無意識にルールを適用して、ダウンした相手を追撃しない等。
騎士道精神を重視する貴族程、戦いを正々堂々とした神聖なものに捉えがち。
補給用の弾薬を物陰に用意している可能性があるゼフィナは地上の石柱や神殿に移動している。
念動防御で簡単に防げるとしても、疎かになっている足元からの飛礫に反応が間に合わなければかなりの痛手。
防いでも思わぬ攻撃に動揺すれば隙が生じる。
戦国時代における死因4位投石(10%)/1位弓(41%)。
西洋では投石紐の死因が弓を上回る。(楕円加工した石弾は人体を貫通する威力)
負傷原因としてはより多くの割合を占める。
弾速が早いので、それ以外の遅めの弾と混ざって対応しづらくなります。
擲弾をどのように持ち歩くかは大事ですね。
ポーチだと入らないかな…
確かに持ち歩いてる時に撃たれたらやばすぎる!
石礫はかなり有効ですね!
ブリッツなら簡単に移動させられる、というだけでそれ以外も別に動かせるわけで。
意表を突くというのはとても大事なので、いい手だと思います。
投石ってかなり強力ですね。
宮本武蔵も脚を怪我したんでしたっけ。
スリングショットとか、印地打ちは有効かも。
手下ですらベルナズを追い詰めることができるぐらい強い・となるとコルゼティは聖女の中でも相当な実力者ということに。
そうですね~アズカライトがいい仕事してます。
あとは準備しっかりしてきて、奇襲を仕掛けてますので、守る側は不利ですね。