宿命の閃刃

天啓が降りたあの日、グレイザの心に宿ったのは復讐の二文字だった。
神意など知るよしもない。
ただひとつ確かなのは、この超常の力が仇を討つための手段になり得るということだった。
その思いだけが、グレイザを突き動かしていた。

彼女の日々は修練に明け暮れるものとなった。
血のにじむ努力の末、感応力と念動力を極限まで研ぎすませていく。
有り金をはたいて、法力の伝導率が高い素材で武器を調達した。

選んだのは長剣。
遠間からではなく、己の手で直接仇を斬り裂くことしか頭になかった。

天啓から一年後、かつて多くの犠牲をはらって退けた大型獣魔が、再び街に姿を現した。
人々を恐怖のどん底に突き落とすその姿は、エリオンの上官から聞いていた特徴と一致する。

「わざわざ戻ってくるとはね。いい度胸じゃないか」

グレイザは静かにつぶやくと、聖女たちの援助を断り、単騎でその巨影に向かっていった。
彼女の中で復讐は他者を巻き込むものではなく、自分ひとりで果たすべきものだったからだ。

初夏の陽光が降り注ぐ中、グレイザは怒号とともに巨大な獣魔に斬りかかった。
硬質の外皮が斬り裂かれ、赤黒い血が噴き上がる。

返り血を浴びても、グレイザの剣筋は鈍らない。
狂ったように何度も剣を振るい、怒りと法力のすべてを叩き込んでいった。

しかし、大型獣魔の力は聖女一人でどうにかできるほど甘くはなかった。
避けきれなかった一撃がグレイザをとらえる。

彼女は沿岸の岩に叩きつけられ、血を吐いた。
途切れそうな意識の中で、振り上げられた獣魔の巨大な爪を辛うじて認識する。

体内に残された法力はわずか。
だが、グレイザに諦めるという選択肢はなかった。
脳裏に浮かんだのは、エリオンの優しげな笑顔だった。

「小さな力でも…ひとつにまとめれば…」

朦朧とする意識の中で、彼女はつぶいた。
全身から絞り出すように神気を集め、それを念動力へと変換していく。

獣魔がとどめの一撃を放った瞬間、グレイザははね起きた。
背中と胸にするどい痛みが走る。
それでもひるむことなく、まっすぐに構えた長剣が、淡い光を帯び始めた。

獣魔の咆哮とグレイザの叫びが交錯する。
凝縮された念動力が長剣を包み込み、刃先はまばゆいばかりの輝きを放った。

刃は獣魔の外皮をたやすく貫き、巨木のように太い首を無慈悲に断ち切った。
血飛沫が舞い上がり、巨大な身体が崩れ落ちる。

静寂がおとずれ、初夏の日差しが力強く大地を照らした。

その後、グレイザは自らが編み出したその技を「纏閃(てんせん)」と名付け、数多の獣魔を滅ぼした。
一線を退いた後も、戦う術を後進の聖女たちに伝え続ける。

「こんなことをしたって、あの子が帰ってくるわけじゃない。それでも――」
グレイザは無心で剣を振るい続ける。
それがエリオンの望んだ未来につながると信じて。

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交わる運命
傾いた陽が海面を金色に染め、波のゆらめきに合わせて光が踊っている。 アムネズはひとり、沿岸にそって飛んでいた。

コメント

  1. 聖剣の目隠し乙女 より:

    天啓を受けた初期のジェルメト等、BLITZが発明されるまでの期間は武器を直接肉体で振るう聖女が多いみたいですね。
    特にこの頃のグレイザは自分の手に握る剣で獣魔を斬る事に強くこだわっていそう。

    小さな力を一つに纏める < 愛息子の言葉が伏線になっていた。
    女尊男卑な世界観では男キャラを持ち上げたくなる一方、聖女の話に比べて読解力が低下します(笑)

    • akima より:

      実際天啓を受けたらまず最初は手で使って、その補助的に念動力を使うんじゃないかと予想します。
      アズトラの宝剣みたいにいきなり複数本わたされたら無理ですが笑

      グレイザは自らの手で斬り裂きたいという気持ちがありましたのでなおさらですね。
      女尊男卑かなあ、男尊女卑のカウンターみたいなテーマはありますので、男性はどうしても出番少なくなります。

      • 聖剣の目隠し乙女 より:

        女尊男卑は物語の社会ではなく、作中における法力での派手な活躍度合いを指したつもりです。
        男は無力な役回りが多いので上記表現になりました。
        聖女の活躍を見たい思いが9割、男のキャラにも傑出した人物が登場して欲しい思いが1割ほど。

        聖女も強く歪んでいる人物ばかりではなく、一般人サイドでも女性の「良い人」がもっと出て来ると自然な印象になる気がします。

        • akima より:

          あっなるほどです。
          確かに男がよわい…
          そんな世界観にさっそうと現れたのがリカード!

          良い人というとジュレインみたいな。
          ダルメザとかも善良ですよ、いっぱい食べるけど笑

  2. 匿名 より:

    闘志がみなぎっていていいですね!
    テンポを重視しすぎて回想シーンを端折っているような・・・気の所為?

    • akima より:

      ブッ殺す!がテーマのイラストです。
      回想は長くなりすぎないように…と心がけております!

  3. 匿名 より:

    大型獣魔を一人で倒したのってグレイザとゼタリリアだけかな。最初の方の聖女のほうが強いかもしれない。ゼタリリアは神器を持っていたけどグレイザは普通の剣だし。

    • akima より:

      実はまだいるのですが、かなり希少であることは間違いないです。
      三人いれば割りと余裕を持って倒せる存在ではあるのですが、ふたりだときつい、ひとりはまずムリって感じですね。
      首とかにクリティカルヒットしたら倒せはします。
      グレイザが持ってるのは法力を通しやすいツツヤミガネ製の剣なので、ブリッツの原型みたいなものですね。

  4. 匿名 より:

    グレイザの過去編がいっちゃんキツイ。ババア幸せになってくれ

    • akima より:

      書くのをちょっとためらいました。
      グレイザは息子を失った時点で幸せにはなれないのですが…
      娘のような存在がたくさんできた点だけは幸せといえるかもしれない。

  5. 匿名 より:

    グレイザが復讐を果たすシーンはもっと長くても良かったと思う。序盤の回想シーン3話を半分ぐらいにして。

    • akima より:

      ウッ
      そうかもしれません…
      勢いで書いているので全体の構成をもう少し練ってからにします!
      ありがとうございますm(_ _)m

  6. 匿名 より:

    おばさまはこのころ42歳ぐらいかな?
    ふつくしい・・・

    • akima より:

      そうですね、40歳を少し過ぎています。
      いろいろと参考画像を探してみたのですが、40歳ぐらいの女性ってきれいな人多いんですよね。

  7. 熟女好きが通ります より:

    若き日のグレイザおばさまで一本書こう

    • akima より:

      若き日といっても聖女になってからの物語は40代になるんですが笑
      でもお名前を見る限り、それでOKっぽい!?