「くっ…!」
「なんだよ、この氷はよ!うぜえ!」
グレイザたちの半身を覆う氷は分厚い。
ブリッツで砕くとしても数十分はかかるだろう。
「ど、どうしたらいいニャ…!」
杖で氷を叩きながら、テルザトが弱々しくつぶやく。
「あなた、迷っているんでしょ?」
身動きできない聖女たちをよそに、ギルゼンスが迷いなく歩き寄る。
「心のどこかで思っているはずよ。救うに足る人間もいるはずだ、ってね。その思いが剣を鈍らせている」
「戯言だ」
ラージェマは身を沈めると、地面を蹴って間合いを詰めた。
イオクスの断刃が高速で回転しながらギルゼンスに迫る。
重たい金属音とともに、黒いブリッツが刃をしのぐ。
「神も人も信じきれず。中途半端なのよ、あなたは」
「黙れ」
ラージェマが手をかざすと同時に、ギルゼンスの足元が氷に覆われる。
完全に凍結し、まるで地面と一体化しているようだ。
しかし、その氷は一瞬で水蒸気と化した。
「その凍らせる能力、便利ね。でも、この子の炎なら溶かせるわ」
ギルゼンスは跳躍し、回転しながら迫るイオクスの断刃をかわす。
「忌まわしい。その者を再び地上に放つとは――」
ラージェマは空中で静止するギルゼンスを見上げる。
その背から怒りの熱が立ちのぼるようだった。
『女、主導権をよこせ!ヤツを引き裂いてやる』
ギルゼンスの頭の中に低い声が残響する。
「封印されたこと、まだ根に持ってたのね。でも今はあなたの出番じゃないわ」
そう小さくつぶやくと、ギルゼンスは手のひらに球状の炎を発現させた。
爆炎が周囲を赤く照らす。
「特大のヤツをお見舞いしてあげる」
空から炎の渦が襲いかかる。
爆炎は大気を焦がしながら、地表を焼き尽くそうとしていた。
ラージェマは跳躍して炎をかわすが、かわした先にはギルゼンスの放った黒いブリッツが迫っていた。
イオクスの断刃で弾こうとした、その刹那――
背後から強襲したグレイザの長剣が、背中からラージェマを貫いた。
「がっ…バカな…」
「恩に着るよ、嬢ちゃん」
「相変わらず元気ね、おば様」
ギルゼンスが放った炎により、グレイザの半身を覆っていた氷は完全に溶けていた。
「し、死ぬかと思ったニャ…」
念動防御で炎を弱め、グレイザの奇襲を補助したテルザトはその場にへたりこむ。
「この、私が…」
ラージェマの胸から強い光が漏れ出す。
「落とし前をつけさせてもらうよ」
グレイザは長剣を引き抜くと、念動力を刃にまとわせ、袈裟懸けに斬り下ろした。
肩口からふたつに分かれたラージェマの体が、神の力を失っていく。
「…イオクス様…わたしは…」
言い終える前に、ラージェマの喉元に長剣の切っ先が突き立てられる。
「黙ってくたばりな」
ラージェマの体は神の威光を失い、風に触れるたびに細かな粒子となって崩れ落ちていく。
その瞳には長い時の記憶が映り込んでいた。
喜び、悲しみ、祈り、そして赦し――そのすべてを胸に刻み、ラージェマは天を仰いだ。
光の粒となった身体は、風に舞い上がりながら天へと溶け込んでいく。
静寂の中で、御使いの消滅は穏やかに完結した。
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コメント
ギルゼンスの発言がカッコいい!
神器で情報処理速度を高めても聖魔ギルゼンスが釘付けにすれば、グレイザへの対応までは至らない。
ラージェマが懸念した通り、戦力次第では意外と御使いにも致命打が届きますね。
グレイザを自由にした炎は戦術としての奇襲に留まらず、グレイザの意を酌んで止めを譲る度量を感じさせます。
消滅が完結…肉体の消失であって存在の完全消滅には至らないはずでは?
やけにあっさりと…ゼタリリアとリンカージェの出番は?
断刃という割に断ち切る場面が無かった様な…。
神気を奪うグレイゼルの滅斧は体が神気で構成されたラージェマの弱点を突く伏線とばかり思っていたら、そんな事は無かったw
ちなみに、イオクスの断刃は鹵獲出来ますか?
微妙に弱々しい炎と妙に小さいブリッツ、幼くボリュームが減少した外見、今回の要素を揃えるのはAIには難しかったのか。
ギルゼンスからすると煮えきらないラージェマが気に入らないようです。
炎&ブリッツで攻め続けている時にグレイザから強襲されると、さすがのラージェマも隙ができてしまいました。
ラージェマはここで退場ですね…
空中に霧散した神気がどうなるのかは謎です。
また新たな御使いとなりうるのか?
ゼタリリアとリンカージェはこの章ではもう出てこないんです。
少なくて申し訳ないです。
やはりキャラクターが多すぎますね。
それに見合う量の章があれば問題ない…?
グレゼイルの滅斧は効果ばつぐんなのですが、神器ばかり目立つのも…という思いとヴァルネイ勢の物語なので今回はリカードお休みです。
鹵獲(ろかく)
この単語は初めて知りました!
もちろん消えてはいないのですが、誰が手にするのか!?
イラストに関してはちょっと作り込みが足りませんでした。
完成した時はヨシ!と思ったんですが…
炎が半透明なのがよろしくないですね。
リベンジしたいと思います!
グレゼイルの滅斧って厨二病の響きハンパないんですけどなんか由来あるんですか?どうやって考えているんですか?
ガ行があると強そうだな…
ラ行があるとカッコイイな…
グレイズ、グレーゼル、グレゼール…グレゼイル!これだ!
というバカみたいな工程で決まってます笑
アズトラ、ディアメズ、グレゼイル、いずれもザ行が入った名前。
人間から女神に昇格した存在でしょうか?
聖女に関する伝説が描かれず、ラージェマの拒否反応から見て聖女とブリッツが揃う現在より過去の時代には聖女は誕生していない様な。
魔剣、魔導巨兵、融合生物、過去に人間が文明を発展させた時代をラージェマが禁忌とするか作中では言及されず、人間と神気・法力に関する歴史が不明。
忘れがちですが、獣魔細胞を取り込んだゼタリリアも「聖魔」の一人ですね。
神々についてはまだ謎が多いですね!
御使いも謎ではあるのですが、もう少し後で書こうかなと
魔導巨兵に関してはラージェマもおっとは思いましたが、まだ御使いや神に届くほどじゃないからいいか…って感じでした。
聖女に関しては原初の聖女がゼタリリアで、第二の聖女がグレイザですね。
それ以前には聖女はいませんでした。
法力を仕える人間はいたのですが…
ゼタリリアも聖女であり、獣魔の力を持っているので聖魔といえますね!
ギルゼンスがいきいきしてますね(笑)
ラージェマは意外とあっさりと退場に…さびしい。
嬉しそうな表情にしたかったんですよね!
ラージェマはまあ、ちょっと設定的に強すぎるキャラではありますのであまり居座られると聖女がバタバタ消えていくので…
あまり正面からやりあえてしまうのも問題かなと。
格上の存在として描写されているラージェマがただ数の暴力で負けてしまったら逆に萎えます。
難しいところですね。
盾役・遠距離・近距離攻撃・バフ役というオーソドックスなスタイルで勝てるとなると大型獣魔ぐらいの戦力になってしまうので…
まるでかなわないので、自然と不意打ちで倒すという流れになりました。
炎と黒ブリッツで遠距離攻撃。
近寄られても腕力で対処できそう。
ギルゼンスは現在の作中で最強候補でしょうか?(もちろん神は除く)
相当強いキャラであることは間違いないですね!
でもラージェマには一歩及ばないという感じです。
そのラージェマも退場したので今のところは最強候補ですね。
イラストが昨日から変わってる?表情がよりギルゼンスらしく、炎の玉もかっこよくなってますねー。でも前のイラストもきらいじゃなかったよ…
イラスト作り直してみました!
火球は燃え盛ってる感アップしたと思います。
前のイラストはちょっと可愛い感じになっちゃってましたので…
pixivやXは消さずにそのまま置いております。
ピョンってジャンプしてるのが可愛いw
でもやってることはエゲツナイ!
ちょっとポーズも幼い感じになっちゃいましたかね?
でもまあ、こういった可愛さもある人ってことで…
やってることは本当にエグいです笑
ラージェマはいたいところを突かれたのでしょうか?ムッとしてるように見えます。中途半端な自分にも気づいていたのかな。
神が去ったあとの世界で人間たちを見守っていたので、これでいいのか…?と迷うことが多かったんですね。
他に御使いはいたんですが相談とかもしないので。
それをギルゼンスに指摘されてはいますが、感情のゆらぎが人間より小さいのであまり目立たない感じです。
こちらにもお邪魔してみました☆
いきなりクライマックス(?)
プロローグから読み進めてみます。
こちらでもよろしくおねがいします。
ありがとうございます!
新着記事が上にくる仕様になっていまして…
読んでいただけて嬉しいです。
こちらこそよろしくお願いいたしますm(_ _)m
山場のラージェマ戦が終わって5章はお終い?
ギルゼンスとアムネズの本番はこれからですね♪これだけは決して忘れてはいけない
ギルゼンスがイオクスの断刃をゲットすると今後の神器争奪戦で有利になるものの、戦力的に圧倒的になり過ぎますよね。
手にするだけで所有権は人間に移るのか?
すいません、イラストのほうが間に合ってませんでした!
あと2話で終わり、次の章になります。
ふたりの本番はおとずれるのか…!?
断刃は強力ですが真の力を使いこなせるのはイオクスだけだったり。
聖女が使っても十分強力なんですけども。
速度にバフが掛かった豪傑3人掛かりの猛攻を事も無くあしらうラージェマ。
対して、ギルセンス戦では余裕が無くなり同等の攻防。
神器の情報処理能力を加味すればまだまだ優位にあったはずが、逆にペースを掴まれている。
ラージェマが内心では認めたくなかった葛藤を突いて冷静さを乱された事で、断刃の演算を活用できなくなったのでは。
ギルセンスが主導権を握っていた論戦では相手の心理を巧妙に誘導する計算高さが現れていた様に思います。
5章は聖女BLITZのキャラクター性を代表するギルセンスの魅力が突き抜けた物語でした。
グレイザが登場してからは会話が小気味良く、ギルセンスvsラージェマ戦は舌戦とバトルのテンポが絶妙。
活き活きとした登場人物が多いヴァルネイが作者のお気に入りでしょうか。
遺されたイオクスの断刃にゾティアスが手を伸ばす。
「デカい刃で一撃必殺。こいつはオレ向きの獲物だな」
不用意に神器に近づくゾティアスに鋭い静止が発せられる。
「待ちな!その神器の本領は膨大な情報を処理、最適解に基づく行動を促す物。
あんたのオツムじゃパンクしてパーになるよ!」
「何だとクソババア!やってみなきゃ分からねえだろうが!」
イオクスの断刃に触れたゾティアスが雷に撃たれた様に動きを止め、その表情が弛んでいく。
「えへへ。おばあちゃん、きれいなけんをみつけたの。おばあちゃんにあげるね」
後に正気を取り戻したゾティアスは獣魔以上に暴れ狂ったという。
そうなんです、ギルゼンスはかなり実力が近いので、行使力で神気を消耗した状態だと戦いづらいですね。
神器があるのでまだ戦えますが…他には聖女もいますので。
強敵+神器なのでレイド戦みたいになりました。
5章もかなり登場が多かったですね~聖女皇さま。
動かしやすいと言うか、勝手に出てくるというか笑
ラージェマと聖女が渡り合えるのもおかしいので、結局聖魔様に帳尻を合わせてもらうカタチとなりました。
3国いずれもお気に入りではあるんですが、最初はリガレアが書きやすかったですね。
とにかく力が正義!というわけでシンプルというか。
宗教というテーマはかなり大きいのでエザリスみたいな歪んだ正義も書きたかった内容ではあるのですが、まあ暗くなりがちというか。
ヴァルネイはもう少し自由なので書きやすいですね。
ゾティアスが神器を!?
たしかにデカい刃ではある!
もしかして向いてる?
でもあんまり計算高いほうじゃないからなあ笑
実際使おうとしたらお空きれい状態になるかもしれません!
果たして神器の行方は!?
ギルゼンスはエルゼナグの力を使いこなしているように見えます。
かなり自由に扱っていますよね。
一方、ゼタリリアは炎を扱うようなシーンはありません。
リンカージュも同様。
因子を移植するのと憑魔術では仕上がりに差が出るのでしょうか?
そうですね、実際に練習もしていてエルゼナグの炎を生み出す力を活用できています。
エルゼナグが眠っていても引き出せるので実質自分の力みたいなものですね。
ゼタリリアとリンカージェも今は使えませんが、発現するかもしれません。
因子を移植するより、憑魔術で直接融合するほうが危険性が高い分、融合率は上がる感じです!
気がついたら五章が終わっていただと…!?更新する時は一気に書きためてからなのでしょうか?しばらく本筋の更新はなさそうだなーと油断していました。。五章はテンポもよくなって新キャラクターも多くはなく理解しやすかったように思います。軽妙なやり取りが多かったので余計読みやすく感じました。ただケチをつけるわけではないのですがテルザトやターレジアの扱いが小さいと言うか。。もちろん独りずつ回想シーンを入れていくと本筋の振興が遅くなるということを懸念しての工夫なのでしょうがいまいちどういった聖女なのかがわかりづらく。。テルザトなどは個性的な喋り口調なので本筋で出す前になにか紹介エピソードが欲しかったなとは思います。(今のままでは突然現れた猫語で話す不思議ちゃんにしかみえない)ターレジアにいたってはセリフが少なすぎるように思います。どういったキャラクターなのかが全然わからないまま登場シーンが終了。リンク先には簡単な紹介はあるのですがキャラクターごとの短い物語も添えてあればより感情移入できるのかと。いろいろと書きましたがテンポのよさを重要視しているという方針には賛成しているのでどんどん先は書いてほしいとは思っています。長文失礼しました。
そうなんです、1章分終わらせてから更新をかけています!
話があちこちに飛ぶ話なので、そうしないとうまく話をつなげられず…
メインストーリーをいったん止めて、キャラストーリーを更新していたので余計間が空いてしまったかもしれないです。
申し訳ございませんm(_ _)m
テルザト・ターレジアなのですが、短い回想を入れようかと考えました。
ただ、ラージェマ、グレイザという新キャラが中心になるので、そこにまたキャラクター説明が入るとわかりにくかな~と。
話のメインの部分はかなりシンプルで、襲いかかってきた御使いとグレイザの復讐が中心になっています。
キャラストーリー、また足していきたいと思います!
ご意見ありがとうございます!
もしラージェマが全力で凍らせてもギルゼンスなら出てこれる?
出てこれるんですが、炎の力は使えなくなりますね。
ラージェマも行使力を使い切り、お互い武器で戦うかたちになります。
ビスチェの一番下の留め具がわけわからん形になってる
ウッ
本当だ!
これも直してみたいと思います。
ありがとうございますm(_ _)m
やっぱりギルゼンスだけじゃラージェマには勝てないの?いい勝負してるように見える
神器ナシのラージェマだと
3本勝負なら1本取れます。
神器アリのラージェマだとまず負けてしまいます。
最期の時、ラージェマはどう思っていたのだろう?
不本意そうではありましたけど・・・受け入れているようにも見えます。
もう人も神も信じられず疲れていた?
ラージェマにとっては救済でもあったのかな。
仕方ないというか、納得はしきれていないけど…
ずっとこのまま神のいない土地で人間を見守らないといけないのだろうか?
という苦しみからは開放されたとは思います。
上でも書かれているけどテルザトはもう少し掘り下げが欲しいなと感じた。
いきなり登場した感は拭えない。
全体を通してみるとかなり重要なポジションであったように思う。
攻撃・防御どちらでも決定打となる働きをしたわりには説明が少なくどういったキャラクターなのかわかりづらい。
グレイザほどの掘り下げは必要ないとは思うが軽い紹介シーンがあったらより感情移入して読めたと思う。
いろいろ書きましたが今のところ全部読んでいます。
六章もがんばってください。
ありがとうございます、このあたり猛省して次の話作りに活かしたいと思います。
登場する聖女の数が多いので、どうしても回想シーンが増えてしまい…
本筋のスピードを落とさないためにもサブストーリーという形で補完してみたりしています。
ただ、メインストーリーでも少しは触れておくべきでした。
6章もどんどん書き進めております!
頑張ります!
ギルゼンスのわきのあたりを見てると
なんていうか……その…下品なんですが…フフ……
やっぱ下品なんでやめときます。。
悪い男ではないが、つまらない男…
ギルゼンスはいつも袖のない服を着ているので腕を上げるとわきが露わになってしまいます。
それは仕方がないことなんです。
袋叩きにしても勝てなくて乱入者に気を取られた間に背後から奇襲で勝つ…どちらが主役かわからなくなる戦い
それが聖女BLITZ…
グレイザは勝つためなら手段を選びませんので…
あとそうでもしないと勝てない相手だったといのもあります