傾いた陽が海面を金色に染め、波のゆらめきに合わせて光が踊っている。
アムネズはひとり、沿岸にそって飛んでいた。
なぜ天獣が現れ、聖女を狙っているのか。
胸がざわつき、冷たい汗が背を伝う。
理由もなく、何かが迫ってくる気配がする。
「聖女皇様」
海沿いの白い石造りの家の前に降り立つと、アムネズは小さく深呼吸して声をかけた。
扉は半ば開いている。
中からは女たちの艶めかしい声と吐息が漏れていた。
「珍しいわね、アムネズ。あなたも混ざる?」
小屋の中から声がする。
扉の奥から現れたのは薄衣を着たギルゼンスだ。
はだけた胸元を隠そうともせず、アムネズに向かい合った。
「…遠慮しておきます」
「でしょうね。それで要件は?今、調教で忙しいのよ」
「調教、ですか」
「そう。サローザが死んで手駒が足りないの」
ギルゼンスはあくびをかみころして大きく伸びをした。
くつろいだ様子とは裏腹に、その所作には一分の隙もない。
アムネズは感応力をめぐらせる。
部屋の中には聖女と見られる若い女がふたり、半裸のままベッドの上で横たわっていた。
「我らは天獣からの襲撃を受けています。グレイザ様が向かっていますが、敵の数が多い。どうかお力添えください」
「ふふ。どうして?今の私は聖女たちの敵じゃないかしら」
「エルゼナグとの戦いで…聖女皇様。あなたは私を救った。何かお考えがあってのことでしょう。敵対したとは思えません」
「もう聖女皇じゃないわ」
ギルゼンスは一歩踏み込み、アムネズの腰に手を添えた。
そしてもう片方の手を胸元に滑り込ませる。
「私のモノになりなさい、アムネズ。そうすれば手助けしてあげる」
「ま、待ってください。私は……!」
「あなたならカラダも戦力も申し分ないわ」
そう耳元でささやくと、ギルゼンスはまだ冷たいアムネズの唇に自らのそれを重ねた。
アムネズはバイザーの下で目を閉じ、受け入れる。
――自分が身を捧げれば、仲間は助かるかもしれない。
情欲をかきたてるやわらかな唇の動きに、アムネズは心の中で必死に抵抗していた。
「ぷっ…ふふ、あっはははは!」
突然、ギルゼンスは吹き出した。
おかしくてたまらないという様子だ。
「ああ、おかしい。相変わらずクソ真面目ね。そこが気に入っているのだけど」
「…お戯れが過ぎます」
「ふふふ。まあいいわ。考えておいてあげる。でも、こんなところでのんびりしていていいの?相手はあの御使いよ」
「そんな…御使い!?」
アムネズは驚愕した。
神話の中で語り継がれる、神の使い。
その尊い存在が今、仲間を襲撃しているのだ。
「いくら無敵のおばさまでも、今回ばかりは相手が悪いわ。それじゃあね」
ギルゼンスは振り返り、小さく手を上げると扉の奥へと消えた。
「神の使いが、どうして私たちを――」
アムネズの小さなつぶやきは、波音に溶け込むようにさらわれ、静かに海へと消えていった。
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コメント
まさかのギルゼンス×アムネズ!?
続きは書いてもらいますよ。
ギルゼンスはアムネズのこと気に入ってますので。
アムネズも一部分は尊敬してますし。
あるのかもしれない(何かが)
刺客に狙われたギルゼンスは潜伏を必要とせず居所が知られている。
未だ聖女皇様呼びで真面目に体を差し出すか思案するアムネズが良いキャラをしていますね。
アムネズが他国の聖女でギルゼンスと敵対していたら「くっ殺せ!」とか言いそう(笑)
調教で忙しい!? なんて素敵な状況︎。
こちらが全年齢サイトなら、Pixiv限定でR17.5というのも…。
コルディザも日常編では無類の輝きを見せるはず!
ギルゼンス自体はバレた後もそのまま居座ってたりします。
誰が来てもボコせるという自信があるからですね。
アムネズは真面目なので…
まあ真面目という話なのかどうか謎ですが笑
ギルゼンスはいつも忙しそうです。
楽しそうで何よりですね。
コルディザは作品の方向性を変えてしまう可能性がある、ある意味最も危険な聖女なのであります。
これはもしやアムネズもまんざらではない?この話は重要だぞ・・・今までの流れが変わってくる可能性があるッ
堅物なのであまり耐性がないんです。
このまま攻められると危険ですね。
ここで流れが変わってしまうのか聖女BLITZ!
おばさまの想いに涙していた読者に何を見せるんだ何をw
回想から戻ってきたと思ったらコレですよ笑
でもそれがこの作品らしさでもありまして。