「僕らひとりの力は確かに小さい。だけど、みんなが目標を共にしてまとまれば大きな力になるはずだよ」
エリオンは真っ直ぐにグレイザの目を見てそう言った。
海から現れた正体不明の怪物、獣魔。
軍が用意した兵器では歯が立たず、撤退を余儀なくされていた。
グレイザは息子であるエリオンに、故郷を捨て、一緒に逃げるよう説得する。
しかし正義感の強いエリオンは迷うことなく、ここに残ると告げた。
「母さん。山岳地帯でも獣魔が現れたって話だよ。逃げたって、獣魔はどこまでも追いかけてくる。僕らが戦わなきゃいけないんだ」
ヴァルネイ共和国の国境警備の任務についていたエリオンは、沿岸に現れた獣魔との戦いに向かう。
魔導巨兵の優れた操縦者であった彼は、大きな戦果をあげた。
しかし、無事を祈るグレイザの元に送り届けられたのは、変わり果てた姿となった息子の姿だった。
「エリオンは付近の住民を逃がすため、大型獣魔に勇敢に挑みました」
上官の男は目を伏せたまま、そう報告した。
呆然とするグレイザは力なくその場にへたりこむと、遺体の入った袋を開けた。
体は胸から腰にかけて大きく損傷していたが、顔はほとんど無傷だった。
冷たくなった息子の頬を撫で、グレイザは何度も名前を呼んだ。
戦争で夫を失ったグレイザにとって、エリオンは生きがいそのものだった。
彼の幸福こそが人生の意味であり、自分が生きる理由だったのだ。
国を守るために兵士になると聞いたときは心配もしたが、父親譲りの正義感の強さをグレイザは誰よりも知っていた。
それでも――
あの時、無理矢理にでも止めておけば――
後悔の念は日増しに強くなる一方だった。
葬儀を終えた後も呆然としたまま、グレイザは家にこもりっきりになった。
なぜ自分だけ生きているのか。
この先、生きて何をすればいいのか。
何もわからないまま、数日が経った。
グレイザはやせ細り、意識は朦朧としていた。
床に寝転がったまま、そのまま餓死することも考えた。
まだ幼かったころのエリオンを想う。
ひざの上から、グレイザを見上げて微笑む、最愛の息子の姿。
突如、グレイザは天に向かって叫んだ。
それは言葉にならない叫びだった。
なぜ息子が死ななければならなかったのか。
獣魔とはなんなのか。
理不尽な世界を拒絶するために、グレイザはただただ、叫んだ。
ひとしきり吠えた後は、歯が折れんばかりに食いしばり、胸元をかきむしる。
上官の男は大型獣魔と言っていた。
それが息子の命を奪ったのだ。
殺す。
必ず、殺す。
正体などどうでもいい。
方法は何でもいい。
なんとしても息子の仇を討つ。
自分の残りの命は復讐に使う。
純粋すぎる殺意がグレイザの体を満たした時、天井を貫いて聖なる光が体全体を包んだ。
その光が何か理解できぬまま、グレイザは天に向かって吠える。
ゼタリリアに続く第二の聖女は、失意と狂気の中で生まれた。
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コメント
約17~8年後の現在グレイザ60歳+。
名台詞、エースパイロット、華々しい散り様、不遇な立場に陥りがちな男キャラの中ではエリオンはかなり恵まれていますね。
そして良い言葉が微妙にピピンに似ているw
グレイザは60すぎですね。お元気。
エリオンは正義感あふれる男でした。
ピピン検索したらいっぱい出てきました笑
DQ5の兵士「母さん平和な世界は待っていても来ないよ 自分達で作っていくんだよ」
一行の過酷な旅を和ませる為、自分を捨てて道化を演じる。
国を支える忠臣としてLv99まで育てています。
鷹の団の寡黙な巨漢は「飲め」「敵襲!」の二つしか台詞に覚えが無いですw
なるほど!
いいこと言ってますね…
あのピピン!
退場シーンが壮絶すぎました…
つらい過去ランキング一位でしょ・・
朝からつらみ。
これ以上は更新されなくていいです。
しかしこの経験が最強聖女を生んだのか?
鬱回ちょっと多すぎますね。反省。
世界の残酷さと憎しみを力に変えて最強に至りました。
ゼタ子のすぐ後に聖女になったとしても18年ぐらい前の話。
ということはこの時のグレイザは四十過ぎか。
美魔女っぽいよね。
そうです、42~43歳です。
ゼタリリアとは母娘ぐらい歳が離れています。
若いころから爆美女として地元でも有名でした。