煙がゆらりとのぼる東の門。まるで何かが大きく爆発したかのように瓦礫や土埃が散乱し、かすかに焦げたような匂いが漂っていた。
そこへ駆けつけた聖女ベルザリアは、警戒を解かぬよう剣を握りしめ、周囲に感応力を巡らす。
「へへっ、ひとりで来るとはたいした度胸だな」
低く響く声とともに門の上から姿を現したのは、褐色の肌を光らせた聖女グラジェリだった。
彼女の両手から放出される念動力が、まるで生き物のようにドリル型のブリッツを操作している。
「あんたを叩きのめしてコルゼティ様に認めてもらうんだ。悪く思うなよ!」
3本のドリルが震動を伴い、空気を切り裂いて迫る。
ベルザリアはその軌道を見切り、後方へ飛び退いた。
しかしドリルは軌道を変え、執拗にベルザリアを追い立ててくる。
次から次へと急所を狙う波状攻撃に、防戦を強いられた。
「あたしらだってやれるってこと、見せてやる!」
グラジェリが叫ぶ。
幼少のころから鉱山に囲まれ、華やかさとは無縁の生活を送ってきた。
豪華な食事に贅を尽くしたパーティ、きらびやかなジュエリーと美しいドレス。
旅人から聞く王都バトリグの貴族たちの暮らしは、まるで別世界のようだった。
――あたしだって貴族の生まれなのに、なんで?
辺境と呼ばれるアズカー地方で育ったグラジェリにとって、ベルザリアはまさに『中央の貴族』そのものだった。
あまつさえ、グラジェリが特別な存在であるための『聖女としての力』まで備えている。
なんとしても勝ちたい――!
その思いがドリル型ブリッツの回転力をさらに引き上げていく。
「ふう。しつこいわね。だけど、そんな速さじゃわたしには触れられないの」
ベルザリアは物憂げにつぶやき、すさまじい速度でドリルの間をすり抜ける。
高速回転するドリルを紙一重で避け、グラジェリの間合いまで一気に近づく。
「観念なさい」
ベルザリアが静かに告げ、黒い剣身が煌めいた。
グラジェリは口元に余裕の笑みを浮かべる。
「これならどうだ!」
彼女の背後にさらに3本のドリルが現れる。
合計6本――中央に据えられた赤紫色の宝石が妖しく光を帯びはじめた。
「どうだ、すげーだろ!」
アズカライトの力で増幅された感応力が、6本のドリルに絶え間ない命令を送り、それぞれの軌道を自由自在に変えていた。
ベルザリアはドリルによる猛攻をかわしながら、空中へと逃れる。
「ふう。厄介ね……美しくないわ」
避けそこねたドリルによって引き裂かれたドレスの裾を、剣で断ち切る。
軽口を叩いたものの、ベルザリアは回避によって大きく法力を消費していた。
白い首筋にひとしずくの汗がつたう。
しかし息を付く間もなく、ドリルはけたたましい音を立てながら迫ってくる。
猛然と迫るその先端は、凶暴な獣の牙を思わせるほどに鋭く尖っていた。
ほんの少しタイミングを誤れば、肉も骨もあっという間に粉々にされるだろう。
回避しきれず、思わず剣でドリルを払った時――ベルザリアはあることに気づく。
(このドリル、正面からの突進力は強いけれど、横からの力には弱い……)
「ふう……乾坤一擲、なんて美しい私には似合わないのだけど。試してみる価値はあるわね」
そう吐息まじりにつぶやくと、ベルザリアは両手を大きく広げた。
あえて己の存在をさらすように挑発する。
「はっ 万策尽きたか。くらえ!」
念動力を集中させたグラジェリは、6本のドリルを一気に束ねて突撃を仕掛ける。
高速回転するドリルが目前に迫る瞬間。
ベルザリアは不意に上方へ跳躍し、剣の腹で横から強烈な一撃を加えた。
「なにっ!?」
グラジェリの声と同時に、ドリルが横からの衝撃を受けて弾かれ、軌道が大きく逸れる。その鋭い突進力は意味をなさず、まとめて一か所に束ねられたがゆえに破綻をまねいた。
その隙を見逃すベルザリアではなかった。
彼女は一気に間合いを詰め、丸腰となったグラジェリへ肉薄する。
剣先が鋭く閃き、グラジェリの首筋を斬り裂く寸前で止まった。
「……くっ!」
刃がわずかでも動けば命を落とす。
それを悟ったグラジェリは唇を噛みしめる。
「ちぇっ!やっぱ強いな、中央の聖女は。まいったよ……降参する」
悔しそうにつぶやくと同時に、宝石の光が失せていく。
「ふ。あなたが弱いわけじゃないの。ただ、今回は相手が悪かったわね」
ベルザリアは息を整えながら剣をゆっくり下ろした。
空には立ち上る煙と細かくなった灰だけが残り、新たな波乱を予感させる不穏な夕暮れが訪れていた。
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コメント
極上アズカライトの多数ブリッツを制したベルゼリアの強キャラ感!
グラジェリはやけに潔く降伏、しかし念動力を使える聖女は捕縛可能なのか?
法力封じの拘束具でもない限り、危険が付き纏う。
6章はベルザリアに脚光が当たって嬉しい反面、グラジェリの活躍がこれだけとは考えにくい。
囮に勝利して安堵した瞬間を狙われる!?
かなりパワーアップしてますからね~
聖女の中でもなかなかの使い手です。
6ドリルは熱い!
聖女は手足を縛っても念動力で抵抗できるので、捕縛は難しいですね。
海楼石みたいなのがあればいいんですが笑
アズカライトでパワーアップしたグラジェリはかなり強そうに見える。しかしその上をゆくベルザリア。どちらも予想より強かった!
普通の聖女よりはだいぶ強くなってます!
でもベルザリアも負けてません。
スピードもありますし、武器が対人向きですし。
宝石でパワーアップしたグラジェリは並の聖女より強い。となると勝ったベルザリアは更に上ということ。キャラ的にはアレだけど腕は立つわけね。
グラジェリは上の下ぐらいはいってますかね。
瞬間的にはもう少し強いかも。
ベルザリアも強キャラではありますが、一線級にはちょっと及ばないぐらいです。
ベルザリアはいいキャラしてるけど戦闘力だけみるとルジエリと比べて強みあるんかいな?
ベルザリアはブリッツが大ぶりではない分、振りが速いという利点があります。
対・人間相手だとルジエリより強みを発揮できます。
そういった意味ではグレイザに近いところはあります。
なので、一対一ならルジエリとも勝負はできますね。
ただ、中型以上の獣魔を倒すのには不向きです。
シリアスな場面なんだけど思いっきりレオタードなんだよなあ
そうなんですよ、もう少し守った方がいいんですけどね。
でもそれが聖女BLITZなんです。
見るからに幅広の大剣は対獣魔向き。
立ち絵手持ちの長剣をメインに使うと、敏捷・精密がずば抜けたルジエリが有利?
細身のレイピアは隙が少なく、速く鋭い突きを立て続けに放てることに加え、いなす・受け流す防御に適している事から対人戦に向く。
反面、華奢な刀身は重い攻撃を受け流せず、硬い敵を断ち切る事には適していない。
重量がありそうなドリルを叩いて逸らせたことは意外。
素材の強靭さとブリッツに法力を纏わせて念動力をぶつけた事が、相性が悪い武器に打ち勝てた理由?
ルジエリは実はけっこう武器がデカイ系なんですよね。
凶暴さが出ております。
ベルザリアの武器も現実にあったら相当デカイですが、聖女BLITZの世界ではそれほどでもなく…
ドリルは突進力は素晴らしいのですが、横からの力に弱かった!