暗闇の顎門

頭上の太陽に黒い人影が重なる。
垂直に天から落下するように神獣に近づくその影は、黄金に輝く4本の大剣を携えていた。

「お前がすべての元凶だ」
小さくつぶやくと、リンカージェは神獣の背に着地した。
少し遅れて大剣型のブリッツが降り注ぐ。
結晶核の輝きに包まれた刃はガルズレムの外皮を貫き、黒い鮮血が吹き出した。

「来てやがったのか、アイツ」
ベルナズが額の汗をぬぐう。

「退がってくれ。海上要塞までおびき寄せる役は、我々が請け負う」
ベルナズが振り向いた先にいたのは、大型の斧型ブリッツを手に持った聖女――ジオッドだ。
すぐ後ろにもパルヴァズイズデイルが控えている。

「あの熱線がある限り、距離をとっても意味はないもんね…だからといって近距離もイヤなんだけど」
「大丈夫、ボクが守りますから」
青白い顔をしたイズデイルが、誇らしげに盾を掲げる。

「ま、待って…!」
しぼるようにロズタロトが言う。
「ガルズレムの胸のあたりに…ファイマズの宝珠がある。それが神気を集めて…」

「わかった」
ジオッドは短く答えると、ベルナズたちに背を向けた。

神器がガルズレムに神気を与えることで、無限とも言える再生能力と高威力の熱線を連発することが可能になっている――

まずは神気の供給を断ち、熱線を阻止することが勝利の第一歩となる。
そうジオッドは理解していた。

「コイツを要塞に置いてきたらまた戻るからよ。それまで持ちこたえてくれ」
そう言い放ち、ベルナズはロズタロトを抱えたまま飛んだ。

叫び声とともに半狂乱で大剣を振るうリンカージェ。
自らの背中で暴れる小さな存在に、ガルズレムは怒り、尾による攻撃を繰り返していた。
かすっただけでも絶命しうる一撃を、リンカージェは宙を舞いながら避ける。

「行くぞ」
ジオッドは、結晶核によって強化された大斧の柄を確かめるように握りしめ、絶望を振りまく闇の神獣の元へと急降下した。

イズデイルが守り、ジオッドが攻め、パルヴァズが支援する。
単純だが、大型獣魔にも通用する戦い方だった。
しかし、慣れ親しんだその戦術はガルズレムには全くと言っていいほど通用しなかった。

「う、ぐぅっ!」
爪による攻撃を防ぎきれず、イズデイルがふっ飛ばされる。
ジオッドとリンカージェの斬撃は浅い傷しか作れず、パルヴァズはふたりの回避を補佐するので必死だった。

「頑丈なヤツだ」
攻撃を続けるリンカージェ。
「ふふっ、いいじゃない。燃えてきたよ」
口角を上げるジオッド。
しかし、ふたりには早くも疲労の色が見えていた。

――神気の供給を断つ方法はないか。

そう考えを巡らせるジオッドが感知したのは、ガルズレムの喉元へと凝集する神気だった。

「熱線を撃つ気だ。離れろ!」
リンカージェが叫ぶ。
「ボ、ボクが防ぎます」
ルジェラムの天盾を構え、イズデイルが言う。
しかし、ドーム型の障壁が現れることはなかった。

「法力切れだよ! イズディ、一緒に来て!」
パルヴァズはイズデイルを後ろから抱きかかえると、後方へと飛んだ。
「――!? ジオッド!何してるの?」

今にも熱線を吐きかけようとするガルズレムの前に浮かぶと、ジオッドは大斧型のブリッツを両手で構え、静かに精神を集中させていた。

「無茶だ!」
リンカージェの叫び声は、ジオッドの耳にも届いてはいた。
しかし、ここで熱線を止めなければ聖女の犠牲はまた増える。

神気を体内で法力に変換。
全身に満ちた法力を念動力として出力し、武器にまとわせて一気に放出する。
師であるグレイザが編み出し、ジオッドが受け継いだ技「纏閃」。

その威力をもって神獣の熱線を止める――
ジオッドは兜の下で目を見開いた。

「だめです!戻ってください、ジオッド!」
イズデイルの悲痛な叫びとともに、ガルズレムは熱線の射出体勢に入った。
胸から喉にかけて、青白く光る道ができている。

「おおおおおおおッ!」
絶叫をあげながらジオッドは両手で大斧を振りかぶり、突進した。
ガルズレムが熱線を吐き出そうとのけぞった瞬間――

ジオッドの放った纏閃は青白い光の尾をつくりながら、神獣の喉元を斬り裂いた。
凝集された念動力と、結晶核によって強化された分厚い刃が黒い鮮血に染まる。
胸元から喉にかけての神気の流れは絶たれた。

「…これでもう熱線は撃てまい」
ジオッドは満足した笑みを浮かべ、落下していく。
もはや身体を支えるほどの法力も残ってはいない。

背を丸め、唸り声をあげるガルズレム。
巨大な顎を大きく開いた。
鋭い牙が並ぶ口の奥は、まるで深淵のように暗い。

仲間たちの叫び声が響く中、ジオッドの全身は闇に包まれた。

NEXT↓

豪放たる闘気
「はやまったね、ジオッド」 戻ってきた聖女の報告を聞いたグレイザは、拳で机を叩き、立ち上がる。 その背には闘気が立ち昇っているようだった...

コメント

  1. アルストロメリア より:

    ジオッドここで退場かー
    貴重なレイズウォル戦隊の隊員なのに・・・
    神気の通り道が治る前に倒しきれるとは思えない展開だ
    全滅エンドはやめてくれ・・・

    • akima より:

      レイズウォル戦隊…戦隊モノだった!?
      神気のつながりは断ち切れましたが、ご指摘どおり治るので…
      短期決戦に持ち込まないと不利ですね。
      しかしながら、倒し切るのは難しい状況、全滅エンド…恐ろしいですね☺

  2. 聖剣の目隠し乙女 より:

    イズデイル落下する程消耗していたが動けるのか。
    胸部は内部を確認できる程穿つ事が出来たのに、背中は浅い傷しか作れない。
    特に攻撃に秀でたジオッド、リンカージェが結晶核ブリッツで法力を直接叩き込んでいるにも関わらず。
    胸は柔らかい腹部扱いなのか、ダメージに反応して外皮を硬くしたか。
    熱線に対してアタッカーは離れるより体表にまとわりついていた方がブレスを撃たれないのでは。
    熱線の予備動作に気が付いてからでも間に合う纏閃の溜めが意外に短い。
    間に合わないか、切りつけた喉から神気が暴発して巻き込まれるかと思ったが、ジオッド大活躍。
    大きな犠牲で刻んだ傷はいつまで熱線を止められるか。

    • akima より:

      イズデイルはもう神気切れで飛ぶのがやっとって感じですね。
      胸部は内部というか、内側でファイマズの宝珠が強く光ってるから透けて視えている、という…
      背中の方が頑丈ってのもありますね。

      熱線はおっしゃるとおり!
      近接に持ち込めば当たらなくてすむのですが、近づくと体の動きが見えづらくなります。
      感応力があるから大丈夫…ではあるのですが、尾がやっかいですね。

      纏閃は天墜とか機迅に比べると発動が速いです!
      おばさまならもっと速い!

      >大きな犠牲で刻んだ傷はいつまで熱線を止められるか。
      まさにここが次回のポイントですね。

  3. 山内禅定 より:

    ジオッドがここで散るとは予想外だった
    キャラクターの紹介ページのセリフがこんなところで聞けて嬉しかったのにw
    これは師匠がだまってないでしょう

    • akima より:

      そうなんです、ジオッド…
      紹介ページのセリフは散りばめていきたいなと思ってました。
      もちろん師匠はブチギレです。

  4. 通勤時に見てる人 より:

    これ最後ジオッド死んだってこと?
    早い段階で死を覚悟してそうだから納得してるんだろうけど

    • akima より:

      残念ながら。
      神気の流れを断ち切る、それだけで自分の命を引き換えにしないといけない、というのは覚悟していた様子。

  5. 匿名 より:

    pixivもされてるんですね。
    コメントは会員でないとできないのでしょうか?

    • akima より:

      やってます!
      仕様はあまりわからないのですが…
      ログインしないといろいろ制約があるのかもしれません。
      XとかInstagramもそんな感じだったような?

  6. 匿名 より:

    きっつ。結局ビームを止めるだけでジオッドその他死亡するわ、イルザス右腕なくなるわでダメージでかすぎん?このビームも一時的な停止でまた再生されるんやろ?

    • akima より:

      やっと傷を負わせることができましたが、けっこうボロボロです。
      決定打の前に戦線が半壊してしまわないように、神獣をおびき出さないといけません。