空白の花影

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ゼタリリアが初めて目を覚ました時、部屋には海の匂いがした。

薄い朝の光。

遠くで鳴る波の音。

そして、自分の身体の終わり。

失った四肢。

理解するまでに、長い時間はかからなかった。

痛みはある。

熱もある。

だが、それ以上に重かったのは――

失われた場所が、まだそこにあるように感じることだった。

指を動かそうとすれば、存在しない指先がうずく。

足を曲げようとすれば、空白になった膝が痛む。

何かを掴もうとしても、何もない。

布が擦れる音だけが返ってくる。

ゼタリリアは泣かなかった。

泣くことさえ、自分には贅沢な気がした。

日が過ぎた。

傷の熱が少し下がり、言葉を交わせるようになった頃。

ヴェイダルが木箱を抱えて部屋に入ってきた。

「少し、見てほしいものがあります」

寝台の横へ箱を置く。

中には、いくつもの手足が入っていた。

金属だけのもの。

革で留めるもの。

人の形に近いもの。

白い外装がついたもの。

関節が細かく動くよう作られたもの。

どれも不完全だった。

どれも誰かが、何度も作り直した跡があった。

「これは……」

ゼタリリアが小さく呟く。

ヴェイダルは先に言った。

「元には戻りません」

静かな声だった。

優しくはない。

だが、嘘でもなかった。

「失ったものを戻すことはできない」

少しだけ言葉を選ぶ。

「ですが、もう一度、世界に触れる方法にはなるかもしれません」

ゼタリリアは箱を見る。

それは失った身体の代わりだった。

同時に。

もう二度と届かないと思っていたものへ、手を伸ばすための橋にも見えた。

ヴェイダルは義肢をひとつ、寝台の横へ置いた。

静かな間があった。

「あの剣」

ヴェイダルが言った。

「どうやって動かしていたんですか」

ゼタリリアは少し黙った。

黄金の剣。

海。

炎。

失ったもの。

まだ夢のように遠かった。

「……動かしていた、というより」

ゆっくり息を吐く。

「動くんです」

「意思で?」

「はい」

ヴェイダルの目が、少しだけ細くなる。

興味を隠していない顔だった。

「名前はあるんですか」

「念動力、と呼ばれています」

ヴェイダルは小さくうなずく。

初めて聞く言葉だった。

だが、あの巨大な怪物を倒した理由としては、妙に納得できた。

「なら」

彼は義肢へ目を向けた。

「これも、動かせるかもしれません」

ゼタリリアは戸惑いながらも目を閉じた。

意識を向ける。

冷たい金属。

関節。

重さ。

遠い――自分の身体ではない。

うまくつかめない。

義肢は、ぴくりとも動かなかった。

ヴェイダルは急かさなかった。

「まずは形を感じてください」

静かな声だった。

「重さ。位置。どこにあるか」

ゼタリリアはもう一度、意識を向ける。

金属の指。

冷たい感触。

遠くにある輪郭。

ほんの少しだけ。

何かが繋がった気がした。

義肢の指先が、かすかに震える。

ゼタリリアは息を止めた。

動いた。

ほんの少し、花びら一枚を揺らすほど。

それでも失われた場所から、返事があったような気がした。

「もう一度」

ヴェイダルの声は静かだった。

だが、期待を隠せていなかった。

もう一度。

今度は、指が曲がった。

次に、手首が持ち上がる。

不器用な音が、小さく部屋に響いた。

ゼタリリアの喉から、ようやく息が漏れる。

目が熱くなった。

泣かないと思っていたのに。

「……重いですね」

ヴェイダルが少し眉を上げる。

「軽く作ったつもりですが」

「違います」

ゼタリリアは、動いた義肢を見つめた。

「身体が戻ってきたみたいで」

少しだけ言葉が止まる。

「……重いんです」

その日から、訓練が始まった。

水差しを倒さずつかむ。

布を破らず持ち上げる。

匙を落とし、また拾う。

何度も失敗した。

それでも、少しずつ動くようになった。

空白の花影

数日後。

ゼタリリアは、立った。

最初の一歩は短かった。

二歩目で崩れかける。

ヴェイダルが思わず手を伸ばした。

だが、ゼタリリアはその手を借りなかった。

壁へ義肢の指をそえる。

念動力で、身体を支え直す。

「大丈夫です」

小さな声だった。

けれど、その声の奥には、海の上で怪物と向き合った時と同じ芯があった。

「私――まだ、歩けます」

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王国の使い
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コメント

  1. 匿名 より:

    肉体と同等以上の義肢を製造できる技術レベルはヴェイダル博士独自の物でしょうか。
    聖皇庁配下の名も無き聖女達の法力運用技術を日常的に高めさせる手段として、薬品などで洗脳を深めた聖女の四肢を義肢に置き換える事で強制的に念動力の鍛錬を積ませる。
    (睡眠と栄養を極限まで制限して幻覚を見やすい様にした上で麻薬を投与する事で神の光を見た・声を聴いたと神秘体験をさせる事が宗教の秘儀として古来より行われています)
    また、宝石を埋め込み法力を底上げする義肢タイプのBLITZを装着させる事でネームドに匹敵する法力出力をモブ聖女に持たせる。
    等の非人道的な戦力が聖皇庁に似合うと妄想しました。
    発想元はサイコリユースデバイスです(ガンダムサンダーボルトより)

    • akima より:

      恐ろしいですね!
      でも教皇庁はそのぐらいのことやりそう。
      自分のことばっかり考えている人たちなんで…
      聖女+身体改造は構想があるので登場させたいなと思ってます!

      • 匿名 より:

        四肢を義肢BLITZに変え、両目・両耳・人体各部に法力を増幅する宝石を移植して人為的に改造した狂信的な聖女-仮に【強化聖女】と呼称。
        オリジナル聖女の自在なBLITZ操作に及ばない念動力・技術を補う為、義肢に直結したワイヤーを通じてBLITZを有線操作。
        イメージとして
        オリジナル聖女のBLITZ / サイコミュ:ファンネル
        強化聖女のBLITZ / インコミュ:有線ビーム砲
        強化聖女の名前にオクリ(ヒルコの逆読み)が似合いそうです。

        • akima より:

          おお~かっこいい!
          聖女の中にもより強くなろうとして無理するキャラはいるのですが、目や耳まで改造しちゃうとすごい見た目になりそうですね…!
          技術が進歩するとアンドロイド型の聖女も登場したりして笑

  2. 匿名 より:

    これむしろ義肢のほうが強いのでは?重火器や刀剣を仕込んだ義肢とか。

    • akima より:

      手足に備わっている法力がなくなるので、そう単純なものでもなかったり。
      でも武器を仕込んだ義肢を持つ聖女というのは構想にあります。
      バトルギミック!

  3. 匿名 より:

    MADARA懐かしいですね。
    ゼタリリアに獣魔細胞が適合して生存し、リンカージェにも受け継がれた事を考えると獣魔細胞を使用した再生医療も今後登場するのでしょうか。
    獣魔細胞から造り出された生体義肢バイオギミック。

    • akima より:

      失った体の一部を補助し、なんだったらより強くなる…
      ロマンにあふれてますね。
      獣魔の因子を使った再生医療は暴走と表裏一体なので…
      でももっと高いレベルで融合させることができたらチャンスあるかも。

  4. 匿名 より:

    新しいイラストいいですね!!ゼタリリアがどうやってリハビリしたのかが鮮明に。至近距離でガン見してるヴェイダルにじわる笑

    • akima より:

      ヴェイダルめっちゃ見てます笑
      ゼタリリアは義肢に慣れるために必死で練習中…!
      いい感じに描いてくれました

  5. 聖剣の目隠し乙女 より:

    神経を通わせる様に法力を繊細に操る描写と、真剣な眼差しが良いですね。
    手脚の様に自在に操れるとされるブリッツが、この頃はまだ同調率や精密性が低い。
    軍事で発展し民間転用は旧式となる現実の技術に対し、正反対の出自を持つ思念制御機器。

    • akima より:

      浮かせたりするのは簡単なんですが、自分の腕や脚のように感じられるようになるまでは、それなりの時間がかかった、という感じですね。
      ゼタリリアは念動力の才能があるのでこれでもかなり早く慣れた方かも。
      科学などは軍事系で発展しますよね…もう少し平和に発展してくれるといいんですけども。

  6. 山内禅定 より:

    イイネ!この画像があるかないかで物語の解像度が大きく変わってきますね・・・

    • akima より:

      作れた時は「おお!」と思いました笑
      ずっと思い描いていた絵がやっと作れたと。
      GPTには感謝です。