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[日本語版]
ゼタリリアが初めて目を覚ました時、部屋には海の匂いがした。
白い布。
薄い朝の光。
遠くで鳴る波の音。
そして、自分の身体の終わり。
四肢がない。
その事実を理解するまでに、長い時間はかからなかった。
痛みはあった。
熱もあった。
けれど、それ以上に重かったのは、失われた場所がまだそこにあるように感じることだった。
指を動かそうとすれば、存在しない指先が疼く。
足を曲げようとすれば、空白になった膝が痛む。
何かを掴もうとしても、布の擦れる音だけが返ってくる。
彼女は泣かなかった。
泣くことさえ、自分には贅沢な気がした。
原初の獣魔を倒した。
人々はやがてそう語るだろう。
神に選ばれた少女が、黄金の宝剣を携えて災厄を退けたのだと。
勇ましい物語に、失われた手足の重さは入らない。
戦いの後、ひとりの少女が水差しひとつ取れずに天井を見つめていたことなど、誰も知らない。
ヴェイダル博士は、毎日病室を訪れた。
薬を替え、熱を測り、傷口を確かめる。
獣魔の細胞によって繋ぎ止められた命が、どこまで人の形に戻れるのか。
医師としての彼は慎重だった。
研究者としての彼は、時折ひどく静かだった。
それでも、ゼタリリアの前でだけは、彼は決して「実験」という言葉を使わなかった。
「少し、見てほしいものがある」
そう言って彼が運んできたのは、木箱いっぱいの義肢だった。
最初に見たものは、武骨な金属の骨組みに革の留め具をつけただけのものだった。
次のものは、人の手足に近い形をしていた。
さらに別のものには、白い陶器のような外装があり、関節部には細い銀色の線が幾重にも走っている。
中には、花模様が彫刻された凝ったデザインの義肢もあった。
「これは……」
「君の身体を元に戻すものではない」
ヴェイダルは、先にそう言った。
その言葉は優しくなかった。
けれど、嘘でもなかった。
「失ったものを元に戻すことはできない。だが、君がもう一度、世界に触れるための手段にはなる」
ゼタリリアは義肢を見つめた。
そこにあったのは、失った手足の代用品ではなかった。
自分が人間でなくなっていく証のようにも見えた。
同時に、二度と届かないと思っていたものへ届くための橋にも見えた。
ヴェイダルは義肢のひとつを寝台の横に置いた。
「直接、力を流し込もうとしなくていい。まずは形を感じるんだ。関節の数、重さ、先端の位置。君の念動力は強い。だが強すぎる力は、細い針を折ってしまう」
ゼタリリアは目を閉じた。
感応力で義肢の輪郭を探る。
冷たい金属。
内部に仕込まれた細い芯。
法力を受けやすくするために磨かれた小さな部品。
ヴェイダルが何度も削り、組み直し、失敗しながら形にした痕跡。
それは、ただの道具ではなかった。
誰かが、自分をまだ生きる者として扱った証だった。
義肢の指先が、わずかに動いた。
ゼタリリアは息を止めた。
動いたのはほんの少しだ。
花びら一枚を揺らすほどの小さな動き。
それでも、失われたはずの場所から返事があったように感じた。
「もう一度」
ヴェイダルの声は震えていなかった。
だが、手元の筆記具を握る指に力が入っているのを、ゼタリリアは見逃さなかった。
もう一度。
今度は、指が曲がった。
次に、手首が持ち上がった。
金属の関節が不器用に鳴り、寝台の上で小さな影を作る。
ゼタリリアの喉から、ようやく息が漏れた。
泣かなかったはずの目が熱くなる。
「……重いですね」
「軽く作ったつもりだが」
「違います」
ゼタリリアは、浮かせた義肢を見つめた。
「身体が戻ってきたみたいで……重いんです」
その日から、訓練が始まった。
水差しを倒さずに掴む。
布を破らずに持ち上げる。
木の匙を握り、落とし、また拾う。
初めて自分で杯を口元へ運べた時、ゼタリリアは何も言わなかった。
ただ、長い時間をかけて水を飲み、空になった杯を膝の上に置いた。
ヴェイダルは記録を取り続けた。
どの素材が法力を通しやすいか。
どの関節構造なら念動力の遅れが少ないか。
重さを増すと安定するが、細かい動きが鈍る。
軽くしすぎると暴れ、意識の揺れに反応しすぎる。
それは治療であり、同時に研究だった。
ゼタリリアも、それに気づいていた。
気づいていながら、拒まなかった。
彼が自分を救ったこと。
彼が自分を観察していること。
その二つは、ひとつの手の表と裏のように繋がっていた。
不思議なことに、憎む気にはなれなかった。
失った手足を哀れむだけの者より、今の自分に何ができるかを見ようとする彼の視線のほうが、ずっとまっすぐだったからだ。

数日後、ゼタリリアは四本の義肢を同時に動かした。
最初はぎこちなかった動きが、少しずつ整っていく。
指が開き、足先が床を捉え、膝が曲がる。
身体の外にあるはずのものが、感応力の中で自分の輪郭へ重なっていく。
一歩。
彼女は立った。
二歩目で崩れかけ、ヴェイダルが慌てて手を伸ばす。
けれどゼタリリアは、その手を借りなかった。
義肢の指を壁に触れさせ、念動力で自分の身体を支え直す。
「大丈夫です」
声は小さかった。
だが、その中には戦場で宝剣を握った時と同じ芯があった。
「まだ、歩けます」
義肢は、失った身体を完全には埋めなかった。
埋められるはずもなかった。
けれど、それはゼタリリアに新しい輪郭を与えた。
人の身体。
聖女の法力。
獣魔の細胞によって繋がれた命。
そして、人の手で作られた器具。
そのすべてが、ひとりの少女を再び世界へ立たせていた。
後に思念制御兵器と呼ばれるものの始まりが、そこにあった。
聖女が法力を通し、念動力で操り、自らの身体の延長として扱う武器。
まだ名もないその発想は、最初から戦場のために生まれたわけではなかった。
ただ、ひとりの少女がもう一度、杯を持つために生まれた。
瀕死の自分を救った後も献身的に看病を続け、義肢まで用意してくれたヴェイダル博士に対して、ゼタリリアは自然と心を開いていった。
それが救いだったのか。
それとも、さらに深い運命への入口だったのか。
まだ誰にも分からなかった。
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コメント
肉体と同等以上の義肢を製造できる技術レベルはヴェイダル博士独自の物でしょうか。
聖皇庁配下の名も無き聖女達の法力運用技術を日常的に高めさせる手段として、薬品などで洗脳を深めた聖女の四肢を義肢に置き換える事で強制的に念動力の鍛錬を積ませる。
(睡眠と栄養を極限まで制限して幻覚を見やすい様にした上で麻薬を投与する事で神の光を見た・声を聴いたと神秘体験をさせる事が宗教の秘儀として古来より行われています)
また、宝石を埋め込み法力を底上げする義肢タイプのBLITZを装着させる事でネームドに匹敵する法力出力をモブ聖女に持たせる。
等の非人道的な戦力が聖皇庁に似合うと妄想しました。
発想元はサイコリユースデバイスです(ガンダムサンダーボルトより)
恐ろしいですね!
でも教皇庁はそのぐらいのことやりそう。
自分のことばっかり考えている人たちなんで…
聖女+身体改造は構想があるので登場させたいなと思ってます!
四肢を義肢BLITZに変え、両目・両耳・人体各部に法力を増幅する宝石を移植して人為的に改造した狂信的な聖女-仮に【強化聖女】と呼称。
オリジナル聖女の自在なBLITZ操作に及ばない念動力・技術を補う為、義肢に直結したワイヤーを通じてBLITZを有線操作。
イメージとして
オリジナル聖女のBLITZ / サイコミュ:ファンネル
強化聖女のBLITZ / インコミュ:有線ビーム砲
強化聖女の名前にオクリ(ヒルコの逆読み)が似合いそうです。
おお~かっこいい!
聖女の中にもより強くなろうとして無理するキャラはいるのですが、目や耳まで改造しちゃうとすごい見た目になりそうですね…!
技術が進歩するとアンドロイド型の聖女も登場したりして笑
これむしろ義肢のほうが強いのでは?重火器や刀剣を仕込んだ義肢とか。
手足に備わっている法力がなくなるので、そう単純なものでもなかったり。
でも武器を仕込んだ義肢を持つ聖女というのは構想にあります。
バトルギミック!
MADARA懐かしいですね。
ゼタリリアに獣魔細胞が適合して生存し、リンカージェにも受け継がれた事を考えると獣魔細胞を使用した再生医療も今後登場するのでしょうか。
獣魔細胞から造り出された生体義肢バイオギミック。
失った体の一部を補助し、なんだったらより強くなる…
ロマンにあふれてますね。
獣魔の因子を使った再生医療は暴走と表裏一体なので…
でももっと高いレベルで融合させることができたらチャンスあるかも。
新しいイラストいいですね!!ゼタリリアがどうやってリハビリしたのかが鮮明に。至近距離でガン見してるヴェイダルにじわる笑
ヴェイダルめっちゃ見てます笑
ゼタリリアは義肢に慣れるために必死で練習中…!
いい感じに描いてくれました
神経を通わせる様に法力を繊細に操る描写と、真剣な眼差しが良いですね。
手脚の様に自在に操れるとされるブリッツが、この頃はまだ同調率や精密性が低い。
軍事で発展し民間転用は旧式となる現実の技術に対し、正反対の出自を持つ思念制御機器。
浮かせたりするのは簡単なんですが、自分の腕や脚のように感じられるようになるまでは、それなりの時間がかかった、という感じですね。
ゼタリリアは念動力の才能があるのでこれでもかなり早く慣れた方かも。
科学などは軍事系で発展しますよね…もう少し平和に発展してくれるといいんですけども。
イイネ!この画像があるかないかで物語の解像度が大きく変わってきますね・・・
作れた時は「おお!」と思いました笑
ずっと思い描いていた絵がやっと作れたと。
GPTには感謝です。