🌐 Language / 言語
🇺🇸 [English Edition]
🇯🇵 [日本語版]
時は経ち、聖女ゼタリリアとヴェイダル博士の間に生まれた娘――
リンカージェと名付けられた彼女もまた、内なる力を秘めていた。
その日、礼拝堂には夜明け前の冷気が満ちていた。
石床は冬の水のように冷たく、白い柱の間には祈りの声すら残っていない。
祭壇の上に置かれた青い宝石だけが、眠らない目のようにかすかに光っていた。
リンカージェはその光を見つめながら、胸の奥で膨らみ続ける違和感を押さえ込んでいた。
母譲りの素質。
人々はそう呼んだ。
原初の聖女ゼタリリアの血を受け継いだ証だと。
神がいまだこの家系を見捨てていない証だと。
けれどリンカージェにとって、それは祝福というより、身体の内側に閉じ込められた予感だった。
まだ法力は発現していない。
念動力も、感応力も、彼女のものではなかった。
それでも、静かな場所にいると、なぜか世界の輪郭が近すぎるように感じることがあった。
石壁の向こうにいる誰かの気配が、理由もなく胸をざわつかせる。
遠くの燭台に揺れる炎が、まるで自分の呼吸に合わせて形を変えているように見える。
床に落ちた小さな金具へ手を伸ばしたくなる。
触れられるはずがないのに、指先の先でそれが待っているような気がする。
念動力。
感応力。
獣魔を討ち滅ぼすために、聖女へ与えられる神の力。
教えられた言葉は正しかった。
少なくとも、世界はそう信じていた。
だがリンカージェの中で眠るものは、ただ敵を滅ぼすためだけの力には思えなかった。
もっと深く、もっと暗く、もっと広い場所へ手を伸ばそうとしている。
神の光が届く前からそこにあった何かが、彼女の呼吸に合わせて目を開けようとしていた。
天窓がまばゆいばかりに輝く。
鐘は鳴らなかった。
誰も名を呼ばなかった。
それでもリンカージェには分かった。
頭上から降りてきた光が、天井も石も肉体もすり抜け、心臓の奥に直接触れたからだ。
それは声ではなかった。
言葉でもなかった。
ただ、命令に近い確信だった。
選ばれたのだ――神に。

膝が震えた。
光は優しく清らかで、あまりにも冷たかった。
母がかつて受けたという天啓も、このようなものだったのだろうか。
世界を救う者に与えられる光。
獣魔を討ち、祈りを守り、人々の明日を背負う者の証。
リンカージェはその光の中で、自分の影が濃くなるのを見た。
祭壇の下、石床に落ちた影が、少女ひとりの形をしていなかった。
背中から伸びるはずのない輪郭。
獣の爪にも、剣の刃にも見える黒い揺らぎ。
天啓によって開いたばかりの感応力が見せた幻なのか、血が覚えていた記憶なのかは分からない。
ただ、その影は光を恐れていなかった。
むしろ、神の光に触れたことで、静かに息を吹き返していた。
「わたしが……聖女」
口にした瞬間、祭壇の宝石が一度だけ強く瞬いた。
礼拝堂の奥で眠っていた古い剣が、かすかに鳴った。
リンカージェの周囲に散らばっていた小石が浮かび、祈りの円を描くように回り始める。
それが、リンカージェにとって初めての念動だった。
驚きより先に、理解が来た。
これまで名前のなかった違和感に、世界が形を与えたのだ。
届くはずのないものへ届く感覚。
見えないはずのものを捉える感覚。
その二つが、青白い光の中で彼女の内側に根を下ろしていく。
外から見れば、それは疑いようのない天啓だった。
神に認められた少女の、清らかな覚醒だった。
けれどリンカージェは知っていた。
光の中心で、自分の心が少しも安らいでいないことを。
聖女とは、獣魔を討つ者。
そう教えられてきた。
ならば。
もし、自分の内側にも獣魔へ通じるものが流れているのなら。
この天啓は、何を祝福したのだろう。
神は、何を聖女と呼んだのだろう。
リンカージェは胸元を押さえた。
皮膚の下で、血が熱を帯びていた。
青白い神気とは違う、赤黒く、重く、命そのものを噛み砕くような熱。
まだそれは眠っている。
けれど、完全には眠っていない。
天啓の光は、彼女を聖女にした。
同時に、彼女の内側に潜むものへも道を開いた。
リンカージェは祭壇の前に立ち尽くしたまま、夜明けの鐘を聞いた。
その音は祝福のようであり、遠い獣の咆哮のようでもあった。
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コメント
獣魔細胞が遺伝して生まれたリンカージェは幼少から神気を知覚していそうですが、天啓を受けたのは14歳。
作中では早い方なのかもしれませんが、出生を考えると天啓を受ける以前から神気を操る術を身に着けていてもおかしくない気がします。
普通の聖女には使えない法力 ― ゲートニグの火力でブリッツを加熱、赤熱した刃で硬い装甲を溶断する、等。
ゲートニグの力は発現していますが、まだコントロールできていない状態ですね。
ギルゼンスは同化したので上手い事制御しています。
リンカージェは遺伝的に得た力なので、もう少しコントロールに時間がかかります。
ブリッツを加熱するのカッコイイですね!
エンチャント系のスキルも出してみたいなと思っています。
通常のブリッツだと焼損して使い物にならなくなりそうですが、アズトラの宝剣なら鋼鉄が赤熱して軟化する1000℃、融点1600℃にも余裕で耐えられそうです。
ペルディウムなら炎の剣もいけるかも?
ブリッツ用金属なら低温脆性は高かったりするのでしょうか?
グイルナズのペルディウム製青い長剣は氷のイメージで低温に強く、氷のエンチャントに適性がある気がします。
アズトラの宝剣ならいけますね!
ペルディウム製の炎の剣もアツイ!
グイルナズは氷っぽいイメージありますので、エンチャントできたらかっこいいですね~!
妄想が広がっていく…楽しい!