聖魔の天啓

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戦いから長い時が過ぎていた。

朝になると、海鳥の声が聞こえる。

小さな村だった。

診療所の裏には畑があり、遠くには海が見える。

風が強い日には、窓が少し鳴った。

リンカージェは、その音が嫌いではなかった。

朝食の時間。

父はいつも少し遅い。

机には紙が積まれ、工具が散らばっている。

夜遅くまで何かを作っていたのだろう。

「また寝てないの?」

リンカージェが言う。

ヴェイダルは片手で目元を押さえながら答えた。

「いや、寝たよ」

「二時間は寝てない顔だよ?」

「三時間は寝た……はず」

ゼタリリアが、小さく笑う。

義肢の指が静かに杯を持ち上げる。

今はもう自然な動きだった。

ただ――

時々、母は夜中に目を覚ます。

物憂げに、窓の外を見ていることがある。

眠れないのだとリンカージェは知っていた。

それでも、母は弱音を言わない。

ヴェイダルも多くは語らなかった。

それが、この家の静けさだった。

礼拝堂には、夜明け前の冷気が残っていた。

石床は冷たい。

白い柱、静かな空気。

誰もいない。

祭壇の上に置かれた青い宝石だけが、かすかに光っている。

リンカージェはこの冷ややかな礼拝堂の空気が好きだった。

ここへ来ると落ち着く。

そして、少しだけ胸が騒ぐ。

静かなのに――静かすぎるぐらいなのに。

何かが、近い。

風の音と、遠くの足音。

石壁の向こうにいる何者かの気配。

理由は分からない。

ただ、世界が少し近い気がした。

その時だった。

天窓から、光が落ちた。

まぶしかった。

けれど、暖かくはない。

冷たく、静かな光だった。

聖魔の天啓

リンカージェは息を止める。

胸の奥へ、何かが落ちてくる。

声ではない。

言葉でもない。

それなのに、なぜか分かった。

――選ばれたことが。

膝が震えた。

光が消える。

静寂。

そして祭壇の近くに落ちていた小石が、ふわりと浮いた。

ひとつ。

またひとつ。

祈るように、ゆっくりと回る。

礼拝堂の奥で、古い剣がかすかに鳴った。

リンカージェは自分の指先を見る。

何も触れていない。

それなのに動いた。

分かってしまった。

母と同じなのだ。

「わたしが……」

喉が乾く。

小さく息を飲む。

「……聖女」

その瞬間だった。

石床へ落ちた影が、ゆっくり揺れた。

少女ひとりの形ではない。

背後に、何かいる。

そう思った。

しかし、振り返っても誰もいない。

ただ、影だけがほんの少し濃かった。

礼拝堂の外で、朝の鐘が鳴る。

それは祝福のようにも、何かの始まりを告げる音のようにも聞こえた。

↓NEXT

深緑の視線
森の中に、小さな広場がある。 古い石造りの祭壇が並び、昼でも少し薄暗い。 風が吹くたび、葉がすれた。

コメント

  1. 聖剣の目隠し乙女 より:

    獣魔細胞が遺伝して生まれたリンカージェは幼少から神気を知覚していそうですが、天啓を受けたのは14歳。
    作中では早い方なのかもしれませんが、出生を考えると天啓を受ける以前から神気を操る術を身に着けていてもおかしくない気がします。
    普通の聖女には使えない法力 ― ゲートニグの火力でブリッツを加熱、赤熱した刃で硬い装甲を溶断する、等。

    • akima より:

      ゲートニグの力は発現していますが、まだコントロールできていない状態ですね。
      ギルゼンスは同化したので上手い事制御しています。
      リンカージェは遺伝的に得た力なので、もう少しコントロールに時間がかかります。
      ブリッツを加熱するのカッコイイですね!
      エンチャント系のスキルも出してみたいなと思っています。

      • 聖剣の目隠し乙女 より:

        通常のブリッツだと焼損して使い物にならなくなりそうですが、アズトラの宝剣なら鋼鉄が赤熱して軟化する1000℃、融点1600℃にも余裕で耐えられそうです。
        ペルディウムなら炎の剣もいけるかも?
        ブリッツ用金属なら低温脆性は高かったりするのでしょうか?
        グイルナズのペルディウム製青い長剣は氷のイメージで低温に強く、氷のエンチャントに適性がある気がします。

        • akima より:

          アズトラの宝剣ならいけますね!
          ペルディウム製の炎の剣もアツイ!
          グイルナズは氷っぽいイメージありますので、エンチャントできたらかっこいいですね~!
          妄想が広がっていく…楽しい!