復讐の平原

「ちょっと待ってよ、独りで行く気なの?」
聖女ムーゼルの呼びかけを背で聞きながら、ルドルザは地面を蹴って浮かび上がった。

両脇にはチェンソー型のブリッツを2機、携えている。
どちらもこの日のために入念に手入れをしてきた代物だ。

エイストン平原に中型の獣魔が単体で現れ、炎を撒き散らしながら首都バトリグに向かっている————

偵察兵からの知らせを受けた聖女ルドルザは無言のまま、聖女たちの詰所を飛び出た。
小型の獣魔なら大きな脅威ではない。
しかし炎を操る中型獣魔となれば、3人以上で対処するのが定石だ。

「まずは報告……間に合うかな」
聖女王ヴィゾアのもとに駆けつける前に、ルドルザが殺されてしまうかもしれない。
呟きながらムーゼルが見上げた空は、灰色がかった厚い雲に覆われていた。

————

バイザーをずらすと遠くに赤く燃える一帯が確認できた。
その中央に黒い影が立っている。

アイツだ!

ルドルザは奥歯を噛みしめる。
今日という日をどれだけ待ったか。
念動力で飛行を加速させると、黒い影はどんどん大きくなっていった。
禍々しい、赤く光る目。
忘れるはずがない。
幾度も悪夢の中で見た、あの姿だ。

自身に向かって接近する人間に気づいたギレルガルは大きく息を吸い込むと、炎を吹き付けた。
ルドルザは直前で旋回すると、側面に回ってチェンソーの刃で斬りつける。

「死ィねえええええぇぇぇ!!」
もはや金切り声と言っていいほどの叫び。
高速回転する鎖鋸が分厚い外皮を斬り裂いていく。
赤黒い血がほとばしり、絶叫がわいた。

生きながらに焼かれた父の姿が脳裏に浮かぶ。
「殺す! 殺してやる!」
2機のブリッツがギレルガルの全身を切り刻んでいく。
血の滲むような努力を積み重ねてきた。
重たいチェンソー型のブリッツを手足のように動かせるまで、修練を積んだのだ。

ギレルガルが暴れ狂う。
鋭い爪を振りかざし、火炎を振りまく。
それらを紙一重でかわしながら、ルドルザは首筋に狙いをつける。
「うおおおおあああああ!!」
鎖鋸が金属音を鳴らしながら、鱗のような外皮を裂いた、その瞬間。
ルドルザの目と耳から鮮血が吹き出した。

長距離の高速移動。
重量型ブリッツの2機同時操作。
攻撃回避のための感応力のフル稼働。

短時間で法力を使いすぎたツケがきた。
頭部の毛細血管が破裂し、鮮やかな赤い血が舞った。
ルドルザの体が力を失った一瞬を、ギレルガルは見逃さない。

丸太のような太い腕が華奢な身体をとらえ、ルドルザは地面に叩きつけられた。
「あ……!ぐっ……」
うめきながら立ち上がろうとするが、足に力が入らない。
獣魔が再び、息を吸い込む音がした。

NEXT↓

絶叫と決着
自らに火炎が吐きかけられるとわかっていても、聖女ルドルザは身動きできないでいた。

コメント

  1. 匿名 より:

    万能・無敵に見える設定を多く持つ聖女が実戦で苦戦する描写がリアルで良いです。
    過酷な戦闘で目を負傷する聖女の再起も見てみたいです。

    • akima より:

      コメントありがとうございます!
      基本、聖女も強いのですが基礎性能は獣魔の方が遥かに上という感じです。
      再起する聖女たちの姿も随時描いていきますね。

  2. 聖剣の目隠し乙女 より:

    ルドルザ格好良い!そして可愛い!鎧姿のツインテールは正義!
    身体のすぐ近くのチェーンソーに舞い上がる長髪を巻き込んだら痛そうですね。

    • akima より:

      ツインテールはやっぱりいいものですね。
      ちょっと幼く見えてしまいますが…
      確かに笑
      チェンソーの扱いには気をつけないといけません。