天をも墜とす

「まずはあのウザイ電撃をなんとかしねえとな」
聖女ベルナズは攻撃を止め、感応力を研ぎ澄ます。

幾度か放たれた電撃には予備動作があることに彼女は気づいていた。
大きく息を吸い込み、吐き出すような動作が繰り返されている。
膨大な神気が獣魔マナグロアの胸のあたりに集まっていくのを感じた。

「そこか!」
ベルナズは一直線に飛び、4機のブリッツを自らの周囲に集めた。
それぞれの銃口が煌々と輝く。
すさまじい爆音。
閃光が走る。
念動力を帯び、さらに加速された砲弾はマナグロアの胸に直撃した。

血と煙の中で、憤激の雄叫びがあがる。
胸の位置にある発電器官は大半が破壊された。
電撃が急速に勢いを失っていく。

「お願い! 少しだけ持ちこたえて」
そう叫ぶと聖女王ヴィゾアははるか上空に向かって飛んだ。
空中でぴたりと止まると、バイザーの下で目を閉じ、両手を広げて集中する。
ヴィゾアの体と、大型の銃型ブリッツがうっすらと光を帯びていく。
あたりに満ちた神気を吸収し、法力へと変換しているのだ。

「急げよ。長くはもたねえぞ」
つぶやきながらベルナズは砲撃を見舞う。
目と耳から垂れた鮮血が赤い筋を作っている。
法力を使いすぎたことにより、頭部の毛細血管が損傷していた。

硬いものが激しくぶつかり合う音がする。
「う……ぐっ」
盾ごと飛ばされた聖女イズデイルの肺から、強制的に空気が押し出された。
電撃が弱まった代わりに、尾による打撃は激しさを増している。
さらにマナグロアは大きく口を開き、イズデイルに迫った。
巨大な剣のような牙が並んでいる。

「危ない!」
とっさにパルヴァズは念動力でイズデイルを移動させた。
必死の噛みつきは寸前で回避されたが、ふたりの法力も底をつきかけている。
ふたりの心が絶望を跳ね除けようとしていたその時————

地鳴りのような音が、上空から響き渡った。
ヴィゾアを包む光はさらに強くなり、街を照らすほどになっていた。

膨大な神気の凝集に気づいたマナグロアは、天に向かって電撃を放つ。
残った発電器官はわずかとはいえ、脅威であることには違いない。
神気を集めることに集中しているヴィゾアは避けることもできなかった。

両者の間に黒い影が飛び込む。

「ボクが、みんなを守って————」
言い終わる前に光の筋がイズデイルを貫く。
電流が体を焦がした。

「撃て!」
気絶したイズデイルを抱きかかえて飛びながら、ベルナズが叫ぶ。

天墜————

空、海、山、そして辺りに満ちた神気を取り込み、法力に変換。
極限まで圧縮した法力を銃型のブリッツを通して放つ、聖女王ヴィゾアの切り札である。
膨大な溜めを必要とする代わりに「天をも墜とす」と形容されるその威力は、大型獣魔すら一撃で消し飛ばすほどだった。

光の中でヴィゾアは、落ち着いた動作でブリッツを構える。
身の丈を超えるほど大きな銃型のブリッツ。
その銃口に光が集まっていく。

一瞬の静寂のあと、轟音とともに巨大な光線がマナグロアの全身を包んだ。

↓NEXT

撤退
空が照らされるほどの強い光。 そして巨大な山が崩落するかのような獣魔の叫び声。 幾多の戦場をともにしてきた聖女ガルフィズは、すぐにその光...

コメント

  1. 匿名 より:

    画像とストーリーのリンクが素晴らしいです。
    仲間に凌いでもらう間に、時間を稼ぐ溜め撃ちにはロマンがあります。
    ルドルザの時といい、頭部毛細血管の損傷は脳にダメージが行きそうで怖いですね。
    個人的には目から出血した聖女は、戦闘終了後の療養中は目に包帯をしていて、消費し過ぎた法力の負担を減らす為に感応力の使用も控える描写があると萌えます。

    • akima より:

      ありがとうございます!
      いろいろ加工して帳尻を合わせているのですが、技術不足でなかなか…
      超強力だけど撃つのにタメがいるタイプの攻撃は好きなんで、入れてみたいと思っていました。
      念動力・感応力を使いすぎると頭にダメージが来るので、聖女たちは耐久戦が苦手ですね。
      包帯系の目隠しも出していきたいと思います!

  2. 匿名 より:

    イラストはポン出しですか?
    それかイラストに合わせて文章を書いているとか?