歪む信仰

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リズレウは、教会で育った。

両親は戦争で死んだと聞かされている。

顔も知らず、思い出もない。

気づけば、石造りの教会が家だった。

冬は寒い。

毛布は薄い。

食事も豪華とはいえない。

それでも、リズレウは不幸だと思ったことがなかった。

雨をしのげる屋根がある。

眠る場所がある。

温かいスープが出る日もある。

何より、自分を見捨てない人たちがいた。

「寒くない?」

修道女が毛布を掛けてくれる。

「今日はよく頑張ったわね」

頭をなでてくれる。

そんな小さな優しさだけで、十分だった。

だからリズレウは、よく働いた。

掃除、洗濯。

そして祈り。

誰かの役に立てることが嬉しかった。

育ててもらった恩を返したかった。

十五歳の冬――眠れぬ夜だった。

天井を見つめていると、やわらかな光が胸へ落ちてきた。

優しい光だった。

不思議と怖くない。

むしろ、あたたかかった。

翌朝、教会中が騒ぎになった。

天啓――女神に選ばれた証。

リズレウは聖女となった。

戸惑う彼女の前に現れたのが、大司教ザクネルだった。

端正な顔立ちと、落ち着いた声。

厳格そうに見えるのに、どこかやさしい。

「リズレウ」

その人は、ちゃんと名前を呼んでくれた。

「よく頑張ったね」

ただ、それだけだった。

それでもリズレウは、泣きそうになった。

自分を必要としてくれる人がいる。

それが、嬉しかった。

「いいかい」

ザクネルは穏やかに微笑んだ。

「君の力は、人を守るためにある」

その言葉を、リズレウは信じた。

最初の仕事は簡単だった。

司祭への書類運び。

礼拝堂の見回り。

迷子の子どもの保護。

危険なことはない。

任務が終わるたび、ザクネルは褒めてくれた。

「助かったよ。君にしか頼めない仕事だった」

その言葉が嬉しかった。

もっと役に立ちたい、期待に応えたい。

そう思うようになった。

やがて任務は少しずつ変わっていく。

夜の護衛。

教会に敵対する者の監視。

秘密裏の任務。

歪む信仰

時には、血を見ることもあった。

初めて刃を向けた夜。

リズレウは手が震えて、眠れなかった。

だが翌日。

ザクネルは静かに言った。

「つらかったね」

ただ、白い手をそっと包んだ。

「でも、君が守った命もある。国を守るために必要なことなんだ」

リズレウは泣いた。

それでも、少しだけ救われた。

この人が言うなら――きっと間違っていない。

そう思えた。

いつしか、ザクネルの隣はリズレウにとって特別な場所になっていた。

「君は特別だよ」

ある晩、大司教の部屋でザクネルが言った。

窓の外では雪が降っている。

「誰より誠実で、信頼している」

その言葉に、胸が熱くなった。

認められた。

必要とされている。

生まれて初めて、そう思えた。

ザクネルはリズレウを静かに抱き寄せる。

父のようにも。

神父のようにも。

そして、それ以上にも見える距離だった。

「愛しているよ」

耳元で、穏やかな声が落ちる。

「本当だ」

リズレウは目を閉じた。

疑う理由などなかった。

教会が自分を育ててくれた。

ザクネルが自分を必要としてくれた。

この人のためなら、この国のためなら……何だってできる。

それが、リズレウの信仰だった。

そして、その信仰は――

もう、自分では止められないところまで深く根を下ろしていた。

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それぞれの正義
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コメント

  1. 匿名 より:

    ザクネルくんカスすぎて草

  2. 聖剣の目隠し乙女 より:

    独裁国家では、まともな発言をする有識者が政治犯として処罰されていきます。
    教皇庁と敵対していた男はエザリスに有益な人物だったのかもしれません。

    • akima より:

      敵対勢力こそがまともだったかもしれない!
      となるとリズレウは片棒を担がされたことに…