🌐 Language / 言語
🇺🇸 [English Edition]
🇯🇵 [日本語版]
地下室は静かだった。
厚い石壁に、かすかな蝋燭の灯り。
外の喧騒が嘘のように遠い。
避難所として使われる地下室には、簡素な寝台と最低限の備蓄が置かれている。
大司教ザクネルは、ようやく腰を下ろした。
疲れていた。
身体が重く、呼吸も浅い。
あと少しで死んでいた。
そう思うだけで、指先が震える。
――聖女が死んだ。
リズレウが……自分を守って。
思考を振り払うように、息を吐く。
助かったのだ。
今はそれでいい。
自分には役目がある。
秩序を守らなければならない。
ここで死ぬわけにはいかなかった。
胸元から、小さな首飾りを取り出す。
中には、赤毛の女が描かれていた。
若き日の記憶。
共に未来を語った相手。
だが、彼女は死んだ。
巡教の旅路で山賊に襲われ、無残に。
ザクネルは何も守れなかった。
だから決めたのだ。
法と秩序を広める、と。
規律がなければ、人は獣になる。
どんな犠牲を払ってでも、守らねばならない。
「あら」
不意に薄闇の中から声がした。
艶やかで、どこか人を小馬鹿にしたような声。
「あなただけ個室なの?」
蝋燭に火が灯る。
暗闇の向こう。
長椅子に、女がひとり座っていた。
長い脚を組んでいる。
褐色の肌、妖しく笑う口元。

知らぬはずがない。
共和国を率いる聖女。
「……驚かせるな」
安堵がもれる。
「何故ここにいる」
「そんなの、どうでもいいじゃない」
女は退屈そうに肩をすくめた。
まるで、ここが自分の部屋であるかのように。
「あなたのおかげで、上手くいったわ」
唇がゆっくり歪む。
「お礼を言いに来たの」
大司教の眉が寄る。
嫌な予感がした。
数日前に依頼があった。
いつもより多くの聖女を、海の要塞へ回してほしいと。
警備強化、共同戦線――そんな名目だった。
結果として、王都は手薄になった。
そして今日の襲撃。
「……説明してもらおうか」
声が低くなる。
「襲撃など聞いていない」
「あら、わたしも知らないわよ?」
女が肩をすくめる。
愉快そうに。
「勝手に暴れたのよ。あの小娘が」
くっくっ、と喉が鳴らして嘲笑う。
「さて」
長い脚を組み替える。
「聖女は傷つき、司教たちも死んだ。王国もボロボロね」
唇が吊り上がる。
「いい感じに削れたわ」
大司教の拳が震える。
怒りと恐怖。
そして、利用されたという理解。
「……約束は覚えているな」
しぼり出すような声。
「報酬は払ってもらうぞ」
「ああ、あれね」
気のない返事。
「カネに宝石、それと女でしょ?」
女は静かに微笑む。
「ただ――」
乾いた破裂音。
弾丸がザクネルの額を貫いた。
いつの間にか短銃が、女の隣に浮いていた。
「払う気はないわ」
大司教が倒れる。
冷たい石床に広がる、赤い血。
女は、その姿を見下ろす。
やがて肩を震わせた。
「……ぷっ」
笑いが漏れる。
「くくっ……あっはははっ!」
それはやがてけたたましい笑い声となり、血にまみれた石壁を揺らした。
↓NEXT

コメント
ザクネルなりの正義と信念は確かにあった訳ですね。それ以上に下衆の評価が高いですが。
ギルゼンスの調和の正体が怪しくなってきました。
3国の聖女が協力して獣魔に立ち向かうイメージから、聖女対聖女が本番の様です。
獣魔の紹介に対して各国の聖女が多く、聖女同士で戦争でもするのだろうか?と薄々想像してはいましたが。
ギルゼンスの語源が偽善に思えてきます。
若き日は正義に燃えていたけど、事件や加齢で歪んでいった感じですね
聖女BLITZは各々が信じる正義、というものがテーマのひとつで皆何かを信じて戦っていますが、どこか狂っています。
ギルゼンスはそれが際立ってるキャラですが…
協力して迎撃、という章もありますがお互い戦う部分もあります。
そこまで読んでいただけてとても嬉しいです。ありがとうございます!
やっと悪者が退場したと思ったらもっと悪い人でてきた
そうですね。
ザクネルはしょせん小悪党という感じですが…
ギルゼンスはいろいろと上手です
このおっぱいで聖女は無理でしょ
いろいろとバグっていて、刺激的な格好するタイプなんです
PIXIVから来ました。正月はヒマだったもので(笑)一気に読ませてもらいました。テンポがよく退屈な展開もないので楽しめましたが欲を言うとサクサクしすぎな気がします。正直物足りない。あらすじを読んでいる気分です。
リンカージュは戦う理由もわかりやすく魅力はありますが全然喋らないのでどんな性格なのかいまいち掴めません。これで退場は惜しい。もっと回想シーン?が長くても良かった。雷の竜もそうでせっかく強い敵が登場したのだからもっと引っ張ってもよかったんじゃないの?と思ってしまいます。
設定にしても宝石だとか金属の採掘方法まで妙に作り込んでいるのに本編では触れずに進んでいきます。テンポが悪くなることを恐れすぎではないでしょうか。
設定は作り込むがそこには触れずにストーリーは駆け足。何がしたいのか?疑問です。長文失礼しました。
ピクシブから!ありがとうございます。
テンポは最重要視している部分なので、さくさく読めるように気をつけている部分はあります。
また元々は設定資料から始まっていますので、細かい作り込みがストーリーに反映されていない部分もあります。
ただでさえ人を選ぶテーマなので造語だらけの設定をストーリーに組み込んで良いものか?
果たして読んでもらえるのかな?
と不安を感じている部分はあります。
メインのストーリーがまずあって、そこからさらに読み込んでいただける方にはサイドストーリー、設定資料を案内させていただく、という形が良いかなと考えています。
ご意見ありがとうございます!
司祭は死んでも代わりは幾らでもいるだろうと思っていましたが、司教が全員死亡となると確かにエザリスの教皇庁はボロボロですね。
膿が抜けて少しはまともな人物が昇格するのか、腐敗からは腐った者しか生まれてこないままか。
司教がすでに宗教のトップ的な役割なんですね。
大司教はもっとエライ!
教皇庁が生まれ変わることはできるのでしょうか。