海上の決闘

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空の狩人

暖かな風が吹いていた。
王国南部の空。
雲は少なく、海は穏やかだ。
太陽の光を受けた水面がきらきらと輝いている。

そんな景色を眺めながら、白いドレスの女は空を滑るように飛んでいた。
聖女皇ギルゼンス。
彼女は小さく笑う。

後方から感じる大きな力。
速い――この速度について来られる聖女はそう多くない。

「仕掛けてくるつもりね」

ぽつりと呟く。
そのまま雲の中へ入る。
そして――雲を抜けた先で足を止めた。

腕を組んだ少女が待っていた。
肩口で切り揃えられた金髪。
やけに鋭角的な目隠し。
周囲には四機の火砲。
王国の聖女、ベルナズだった。

「よお。王様がひとりでお散歩か」

口元が吊り上がる。
ギルゼンスも微笑む。

「そんなところね。休んでなくていいの?」

マナグロアとの戦いから三日。
ベルナズは回復しているが、全快ではない。

「問題ねえよ。それよりウチに何の用だ?」
ベルナズはバイザーの奥から睨みつけた。

風が吹く。
空は静かだ。
だが空気は張り詰めている。

「あら。同盟国でしょ?」

ギルゼンスが肩をすくめた。

「近くに来たから寄ってみただけよ」

「ケッ」

ベルナズが腕組みをといた。

「ザクネルを殺ったのもテメエだろ」

ギルゼンスの唇がわずかにゆがむ。

「さて、何のことかしら?」

大げさに肩をすくめると、喉を鳴らして押し殺すように笑う。
楽しくて仕方がない、濡れた薄い唇がそう語っている。

ベルナズの中で何かが決まった。
もう十分だ。
四つの火砲が浮かびあがり、銃口が並ぶ。

「だったらここで終わりだ」

距離は近い――ほんの数歩。
互いの表情が見えるほどに。

「国同士の争いにする気はねえ。ここで決着つけようぜ」

ベルナズが前傾姿勢を取った。

「ふう……良いわ。お望み通り、一対一で勝負してあげる」

ギルゼンスは観念したように頭を振る。

唐突な爆音。
言い終わる前に火砲が吠えた。
爆炎と衝撃波。
空気が弾ける。

だが、煙の中にギルゼンスはいない。
白い残像だけがちらついた。

「はっ!」

ベルナズが笑う。
砲撃と銃撃。
回避と同時に再び砲撃。
空中で二人の軌跡が交差する。

どちらも速い。
雲を裂きながら飛行する。
その中で、ベルナズは徐々に違和感を覚えていた。

――ギルゼンスが勝負を避けている。

撃ち合わない。
近づかない。
ただ誘うように飛ぶ。
まるで何かを待っているように。

「ケッ!何企んでやがる」

相次ぐ砲撃が、ギルゼンスの肩をかすめる。
白いドレスが小さく裂けた。
初めてギルゼンスの笑みがわずかに消えた。

「へえ。悪くないわね」

楽しそうな声。
ベルナズは追う。
逃がさない。

その時だった。
雲の向こうを黒い影が横切る。
反射的に火砲が動いた。

凄まじい爆発音。
撃墜――しかし、落ちていくのは無人の火砲だった。

「チッ」

囮か。
ベルナズが舌打ちする。
その瞬間。

「降参よ」

雲の切れ目から声がした。
両手を上げたギルゼンスが浮いている。
こめかみから血が流れていた。
赤い筋が頬を伝う。

「あぁ!?降参だと?」

ベルナズが眉をひそめる。
ありえない。
この女が、こんな簡単に降参するわけがない。

その瞬間、背後に得体のしれない不安がよぎった。
とっさに移動を試みるが、間に合わない。

乾いた銃声。
脇腹に熱が走る。

「あっ――」

血が噴き出す。
体を支える、念動力が途切れる。
四機の火砲が沈んでいく。
空が傾き、海面が近づいてきた。

ベルナズの身体は、そのまま海へ落ちた。
巨大な水柱が上がる。

静寂。
しばらくして、雲の向こうから長身の聖女が姿を現した。
手には狙撃銃。

「ギルゼンス様! ご無事ですか」

慌てた声だった。
頬の傷を見て顔色を変える。

「ええ。助かったわ」

ギルゼンスが微笑む。

「あのクソ売女ッ! ギルゼンス様を傷つけるなんて!」

激昂し、拳を握りしめる。

「いいの。これで世界は調和に近づいたわ。あなたのおかげよ」

ギルゼンスは優しく細い腰に手を回す。

しかしその意識は海面に向けられたままだ。
しばらく待っても、ベルナズの死体は浮かんでこなかった。

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安定と調和
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コメント

  1. 匿名 より:

    ギルゼンスが単独で戦うはずがないと思っていたら案の定、伏兵がいましたか。
    本調子ではないにもかかわらず、ヴァルネイのトップと互角以上に渡り合うベルナズは聖女王の腹心に違わぬ手練れですね。
    言葉の汚さを補って余りある戦闘力です。

    • akima より:

      単独で戦っても負けないんですが、労せず勝つということを最優先にしてる感じですね。
      ベルナズはシューターの中でも屈指の実力者で、ヴィゾアとはまた違ったタイプになってます。

  2. 匿名 より:

    ベルナズの紹介を見ましたがトップ3とタメはれる強さなんですか。一対一でもギルゼンスを追い詰められそう。ギルゼンスも名前のリンクが欲しかった・・

    • akima より:

      そうなんです!
      ぶっきらぼうですが実力は3国最強聖女と並ぶぐらいの強さなんです。
      ギルゼンスのリンク、申し訳ないです、すぐリンクしておきますね!

  3. 匿名 より:

    周囲360度カバーし敵意を知覚できる感応力は一見隙が無い様に見えますが、知覚可能な視程が短い為アウトレンジからの射撃に対応し辛い弱点がありますね。
    勘が鋭そうなベルナズも意識の外から撃たれると反応が間に合わない様子が窺えます。
    (不意を打たれれば誰でも弱いし、ギルゼンスに集中して他に意識を割く余裕は無いとも言えます)
    数百メートル離れた距離から狙撃されると聖女でも危ない気がします。
    銃の腕前は普通の人間が聖女と同等以上の戦力を持ちうる唯一の分野では。
    実在の狙撃兵シモヘイヘは法力による弾道修正なしでも「精密性」10オーバーの技術を有していると思われます。

    • akima より:

      狙撃はかなり強力ですね!
      獣魔だと弾丸が小さすぎて大したダメージにならないんですけど、聖女なら有効です。
      正面から戦うとギルゼンスの方がちょっと強いので、ベルナズの意識も外にまで行き届いてなかったんです。
      普通の人vs聖女だと銃はかなり有効ですね。
      念動防御しきれないぐらいの弾丸なら倒せると思います。
      あとは聖女からの反撃に耐えられるかどうかですね。

      • 匿名 より:

        並の銃では念動防御を撃ち抜けず、勝負にすらならないでしょう。
        聖女は固定砲台の様な大型砲を持って高速で上空を飛び回り、砲身を素早く旋回させて狙い撃てるので正面からぶつかれば聖女の圧勝で決まりです。
        「攻撃力」は人間用の携行銃火器が2~4、大柄なフィデア兵士長の斬撃で1.5~2といった所でしょうか?

        • akima より:

          聖女以外の攻撃力を数値で表すのは難しいですね。
          大柄なフィデア兵士長の斬撃、これは人を真っ二つにしているのでかなり威力はあります。
          4ぐらいはあるかも?

  4. 匿名 より:

    ギルゼンスの語る調和とは?
    姿を消したリンカージェとは?
    そして凶弾に倒れたベルナズの生死は一体どうなってしまったのか。
    その謎を探る為、再び読者は読み耽るのだった。
    第1章 聖教国の攻防 完
    撤退は1章、安定と調和は2章として、嘲笑う聖女皇 海上の決闘 はいずれに分類されるのでしょうか?

    • akima より:

      第一章の最後が「嘲笑う聖女皇」
      第二章の開始が「 海上の決闘」
      になります!
      リンカージェの傷もそろそろ治ってるはず…

  5. 匿名 より:

    聖女同士が戦うシーンって貴重ですね。どっちが勝つのか?みたいなのが大好物なのでちょいちょい挟んでもらえると助かります。

    • akima より:

      シンプルですけど気になりますよね。
      少年漫画のトーナメント的な…のはないですが、聖女同士が戦うシーンは今後もあります!

  6. 聖剣の目隠し乙女 より:

    イラストが挿し変わって情景がよりドラマチックに!
    ベルナズはバイザーの奥から睨みつけた。
    対するギルゼンスは涼しい顔をして受け流す
    べ「オレの睨みを受けて平然としていられたのは、お前が初めてだぜ」
    ギ(視線が遮られている事に気が付かないなんて余程の脳筋…サローザ、分かっているわね?)
    ギルゼンスの企みに応えるかの様に、上空の雲間から「スコープのレンズが剣呑な光を反射した」。

    • akima より:

      そうなんです!
      空中にピタッと止まっているイラストって難しかったんですが…
      GPT Image 2.0がやってくれました。

      ベルナズはバイザーを付けているのを忘れている説笑
      でも感応力に慣れるとそんなこともあり得るかもしれないですね!
      人間はすぐに便利なものに慣れるので…

      サローザが遠くから狙っている!
      ピンチ!