「うははは!見ろよ、今度の相手は楽しめそうだぞ」
ものものしい甲冑に身を包んだ聖女が、ゲイルード海上要塞の屋上から海を眺めている。
兜型のバイザーからは銀色の美しい髪がなびいていた。
その手には身の丈ほどもある巨大な大鎌型ブリッツを握っている。
聖女ゾティアスは高揚感を隠しきれないでいた。
天啓を受けた聖女の多くは最初戸惑うものだが、彼女は例外だった。
刺激に満ちた人生を望んでいたゾティアスは、凶悪な獣魔と渡り合える力を得たことに歓喜する。
国や人々を守ることなど念頭にはない。
ただ、圧倒的な力を持つ敵を正面から打ちのめす快感に酔いしれていたいのだ。
「はあ、さすがにレイズウォルの聖女は余裕っすね。大型獣魔の相手なんてできれば遠慮したいんすけど」
短い銀髪に褐色の肌。
攻撃支援のためにかけつけた聖女ファズニルは、ため息をつきながら杖によりかかる。
天獣、三大獣魔に続いて大型獣魔の討伐。
危険な戦地に配置されることにうんざりしているファズニルだが、それは彼女の持つバッファーとしての能力が優れていることを示していた。
「あんたなんてマシなほうだって。あたしなんか連戦よ?さっきまでプルゼリフを守ってたのにさあ」
唇を尖らせて聖女リズトレアが腕を組む。
他の聖女に比べて法力の消耗が少なかった彼女は、プルゼリフが撤退した後も戦場に配置されていた。
ゲイルード海上要塞の中央で待ち構える彼女たちの前には、巨大な大型獣魔が迫りつつあった。
獣魔アグネルガ――
黒々としたその巨体は、深海から這い上がった悪夢のようだった。
鋭い歯が幾重にも並ぶ顎を持ち、サメを思わせる流線型の頭部は、漆黒の鱗に覆われている。
両眼は燐光を帯びた緋色に輝き、獲物を追い詰める冷酷な知性を宿していた。
長い尾は蛇のように蠢き、その先端からは青白い電光がほとばしっている。
「で、作戦はあるんすか?」
「あぁん?ンなもん決まってんだろうが。正面突破だよ!」
ゾティアスは屋上の床を蹴り、獣魔に向かって真っ直ぐに飛んだ。
その背には一切の迷いが見えない。
「っすよねー」
諦めたようにファズニルはつぶやき、高速で獣魔に近づくゾティアスを追った。
「はあ~血の気の多い女ばっかね。お世話するのも疲れるわ」
ボヤきながらもリズトレアは戦闘態勢を取った。
ヴァルライトをあしらった杖型のブリッツで法力を増幅し、敵の攻撃に備える。
「ぅおら!」
ゾティアスの放った大鎌がアグネルガの肩口を深々と斬り裂く。
ウロコのような硬質な外皮も、ファズニルによって強化された斬撃には通用しない。
黒い鮮血が噴き出し、アグネルガが憤怒の咆哮をあげた。
鋭い牙と爪による連続攻撃をかわしながら、ゾティアスが斬りつける。
「あんまり素早くはないみたいっすねー。攻撃面のバフに集中しちゃお」
ファズニルは獣魔から10メートルほど距離を取り、杖を持つ手に精神を集中させた。
ゾティアスが避けそこねた攻撃は、リズトレアが盾で受け流す。
3人の聖女は大型獣魔を相手取り、有利に戦いを進めていた。
「なんか来るよ!下がって」
リズトレアが盾型ブリッツを前に突き出して叫ぶ。
アグネルガが浅瀬に四つん這いになり、周囲の神気を取り込んでいる。
次の瞬間、尾から発せられた電撃が宙を舞った。
フェノラ樹脂でコーティングされた盾型ブリッツが、電撃を打ち消していく。
しかし、弱まった電撃のひとつがゾティアスを貫いた。
「ううっ、ぐっ…!」
ゾティアスはとっさに念動防御を展開するが、全身に鋭い痛みが走る。
それでも歯を食いしばり、アグネルガに向かって突進する。
「いってえだろうが、この野郎!」
怒りの一撃がアグネルガの片目を斬り裂く。
しかし斬撃の勢いは明らかに衰えていた。
「ゾティアス!一度戻って!」
繰り出される電撃を避けながら、リズトレアがゾティアスを抱きかかえて飛び、アグネルガと距離を取る。
「あっぶな、無理しすぎっすよ」
「ちっ、あんの野郎ぉ~!うぜえ電撃なんか使いやがって」
「あの電撃はちょっと広範囲すぎるわ。あたしの盾でも全員は守れない」
3人の聖女は片目が潰れたアグネルガの死角に回り込む。
「それにしてもよ、なんでアイツ自身は感電しねえんだ?尻尾から電撃を飛ばしてたよな」
「なんでっすかね…尻尾の根元に絶縁体があるんじゃないっすか?」
「かもね。じゃあ、攻撃はあたしが引き受ける。ゾティアスは尻尾を狙って」
アグネルガが怒りの形相で振り向く。
残った目で散開する聖女の姿を追っていた。
「ほら、こっちよ!」
正面から近づいてくるリズトレアに向かって、アグネルガは鋭い爪を振り回す。
リズトレアは正面から受け止めるのではなく、盾を使って払うように爪を弾いていく。
ギリギリで回避しながら、アグネルガの意識を自身に向けていった。
攻撃をかわされ、焦れたアグネルガは再び四つん這いになり、発電体勢を取った。
尾が光を帯び、その周りに火花が散っている。
「行くぞファズニル!」
「了解っす!」
ファズニルのバフ効果を受けながら、急降下したゾティアスは電撃を溜め込む尻尾の根元に大鎌を振り下ろす。
研ぎ澄まされた刃が、分厚い外皮ごと尻尾を断ち切った。
獣魔の野太い絶叫が空気を震わせる。
「こういう時に念動力は便利だよなぁ!」
断ち切られた尾は電撃を帯びたまま、空中に静止していた。
「直に触らなくてすむからよ!」
ゾティアスの念動力によって、尾がアグネルガの背に叩きつけられた。
青白い雷光が獣魔の体を貫き、鱗と粘液に覆われた肉体が痙攣する。
絶縁体となる組織のせいで感電は阻害されていたが、攻撃の隙を作る分には十分だった。
大鎌型のブリッツを正中線に構えると、ゾティアスは法力を集中させた。
柄にあしらわれたヴァルライトが輝き、念動力が増幅されていく。
刃が淡い光を帯びた。
閃光とともに、斬撃が弧を描く。
力を失った巨体が崩れ落ち、斬り落とされたアグネルガの首が浅瀬を黒く染めていった。
コメント
胸部装甲を外して布で覆う謎防具。
銀髪のゾティアスはヴァルネイですよね?ファズニルはゾティアスと初対面?
連戦のリズトレア、込めた念動力を放出する行動が少ないディフェンダーは持久力の面で秀でる強みがあるみたいですね。
敵の特性を推測して利用する、今回の知的な戦い方が好きです。
早くも残り1体に追い詰められた大型獣魔はかつてない焦燥感に捕らわれていた。
ヴィゾアが駆けつける大型3体目がボス戦に相当する大本命として、大型獣魔には要塞に危機感を抱かせるだけの見せ場はあるのか?
胸のあたりだけ装甲薄くない…?
ある意味厚い!?
胸が大きいので窮屈なんだそうです。
ディフェンダーは基本、衝突の瞬間だけ念動力を使えばいいので耐久しやすいですね。
大型獣魔3体目はエザリス勢の出番です!
大型獣魔の長い尾の質量を空中で止めて、なおかつ投げつけるゾティアス+ファズニルの念動力!
ゾティアスの大技はジェルメトの纏閃そっくりですが、同じ技名ではないのですか?
攻撃特化、大型武器、甲冑、決め技。ヴァルネイ版ジェルメトみたいなキャラですね。
獣魔の尻尾は重たいですが、ふたりならやれる!
ゾティアスの大技も纏閃です!
基本、ジェルメト・ジオッド・ゾティアスの3人は戦い方が同じになっています。
これは同じ師匠から戦い方を教わったから、という設定なんです。
質問です。
大型獣魔のアグネルガは20m以上の体長です。
体重は数tにおさまらないはずです。
はたして尻尾の部分を聖女が持ちあげて投げつけるということが可能なのか?
細かいですが気になりました。
こちら、下記のように考えてみました!
〇大型獣魔の体重
参考として
恐竜のスピノサウルスが
体長15メートル/体重7トン
だそうです。
なのでアグネルガは
体長21メートル/体重9.8トン
と仮定しました。
〇尻尾の重さ
オマキザルのしっぽが体重の5%
だそうです。
体重9.8トンの5%で490㎏
アグネルガのしっぽはオマキザルよりゴツいので
600~700㎏ぐらい
と仮定しました。
〇ゾティアスの念動力
約800㎏ぐらいまで持ちあげられます。
※一番重たいものを持ちあげられるパルゼア、ユゼルテスで1トンぐらい。
なのでアグネルガのしっぽは持ちあげて投げられる!んです!
※加えて今回はファズニルもバフってくれてます。
こんな感じです!
ゾティアスはわかりやすい性格でいいですね(笑)
搦手で戦うタイプじゃなくて戦闘狂。
意外と(?)今までにいないタイプかも。
いわゆる戦闘狂タイプですね!
似た感じだと…ノルディズがちょっと近いかな?
でもゾティアスの方が戦闘に振り切っている感はあります。
力押ししかしないのかと思ったらなかなかに頭脳派?スキさえあれば大型獣魔の首を一撃で落とせるって火力ヤバイ。ファズニルバフ×テンセンだからこその威力かな。
ゾティアスは力押しである程度倒せてしまうので、最初はゴリ押しから入ります。
でも基本、パワー勝負では聖女単体より獣魔の方が圧倒的に勝っていますので、いろいろと戦法を考えながら戦いもしますね。
ファズニルのバフと纏閃なら大型獣魔の急所を狙えば一撃必殺できちゃいます!